第14話:魔法と落ちこぼれ

オレのゲーム知識で無双人生の夢ははかなく散りました。

ちゃんちゃん。


……現実逃避している場合じゃないか。

このサイクロプスとの戦闘でどれくらいの被害が出るのかは分からない。最悪、全滅なんてことも――


――いや、オレの仮説が正しければ、もしかしたらオレとレイフォンだけは助かるのかもしれない。は五年後にも登場するからな。

……まあ、さすがにそれは楽観的すぎるか。今のオレの考えなんて、なんの根拠もないわけだし。


ともかく用心するしかない。

誰かに殺されて転生したその日にまた殺されるなんて、絶対嫌だぞ!

それに、人が怪我するところも可能なら見たくはない。

不幸中の幸いというべきか、シナリオの知識は役に立たずとも、魔物の知識はまだ活用することができる。

なんとかして、サイクロプスを倒すぞ!!


調査隊の一人――隊長格らしき人が「構えッ!」と号令をかける。それと同時に、二人の隊員が前に出てズイッと手を前に突き出した。

「「『ファイアーボール』ッ!!」」

彼らが繰り出したのは『ファイアーボール』。つまり、魔法だ。

『ルインズ・メモリー』はファンタジー系のアクションRPGだから、当然魔法も存在する。火、水、風、土という四つの基本属性魔法と光と闇の特殊属性魔法。あとは属性同士の組み合わせによる複合属性魔法や、回復魔法や支援魔法などなど……まあ、とにかくかなり豊富な種類の魔法がある。

『ファイアーボール』は名前のショボさに反して意外にも中級の魔法だ。それを二つ同時に食らったら並大抵の魔物であればひとたまりもないが……残念ながら、サイクロプスには効果が薄いということを、オレは知っている。


案の定、サイクロプスは怯んだ様子もなく、むしろ激昂して魔法を放った調査隊員達に向けて棍棒を振り上げた。

ズドン!! という衝撃音。地面が揺れ、俺は無様にも尻もちをついてしまう。

さすがに今のを食らったら無事では済まないのでは……?

思わず冷や汗をかいたが、よく見ると隊員は二人とも無傷だった。うまいこと攻撃を避けていたらしい。

サイクロプスの肌は非常に固く、おまけに魔法耐性も高い。弱点をつかないと――!

オレは二人に聞こえるように声を張って言う。

「魔法じゃ意味がないです! こいつは目が――」

「バカモン!! 目を狙わんかッ!!」

直後、どでかい声が飛んできてオレのアドバイスがかき消されてしまった。

怒鳴ったのは……オレの父親、アーク公爵だ。

なんと、冒険とは無縁そうな貴族なのにサイクロプスの弱点を知っていたのか。

やっぱりこの人、何かと有能なのか?


ともかく、公爵の言う通り、サイクロプスの弱点はその大きな一つ目。ここを剣で突くなり魔法を直撃させるなりすれば、奴は大きく怯むはず。その隙を突けば倒せるかもしれない!


だがサイクロプスは本格的に怒ったらしく、狙いもつけずにところ構わず棍棒をブンブン振り回している。

そのとき、オレは背後から誰かに抱え上げられた。誰かと思ったら、人力車をいてくれていたマッスルマンだ。

「坊ちゃま! ここは危険ですから車にお戻りください!」

「い、いやそんな――」

自分だけ逃げだすことに抵抗を覚えていると、マッスルマンはさらに続ける。

「いいから今は下がってください。!」

オレが戦えない? 何言ってんだ、オレを誰だと思っている。オレはこのゲームを何周もしたレベルカンストの英雄――

――じゃなかった。オレ、腐れ子息のネロだった。

「さあ!」

「……」

オレは歯ぎしりをして馬車に向かって駆け出す。


『ルインズ・メモリー』のプレイヤーなら当然……そして、王国の人間のほとんども知っている事実。

ネロ・D・アークは剣術も魔法も才能ナシの落ちこぼれ。

権力だけが取り柄の、典型的な無能。

それが、今のオレのステータス。

それ自体は最初から分かっていたことだが、いざ他人に面と向かって言われると、結構こたえるものがあるな……


オレはできるだけ邪魔にならないよう、でっぷりとした腹――無能の証だ――を揺らして馬車に逃げ戻り……


「なーんか大変なことになってんなぁ」


馬車の中で呑気な顔をして鼻をほじる、のちの英雄――レイフォンの顔を苦々しい思いで見つめた。

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