第13話:現実、開始!
「……ところで、自分がさっき何を喋っていたのかって覚えてる?」
「俺が? 何も喋ってねえよ。気が付いたら目の前におっさんが立ってて、付いてこいって言われただけだろ」
「なるほどね……」
自分の素性だけではなく、先ほどのイベント会話も覚えてない、と。
あのときの雰囲気は尋常ではなかった。
オレはついさっきまで、この世界のことを「限りなく『ルインズ・メモリー』に近い別の現実世界」だと思っていた。ここでの体験があまりにリアルだったし、オレの知らない青髪メイドさんとかもいたし。
だけど、あの瞬間、あの場面に限ってはあまりにも雰囲気がゲームらしすぎた。
ということはやっぱりここはゲームの世界なのか……
でもオレを転生させてくれた女神様は「ゲーム? なにそれおいしいの」って感じだったしなぁ。
頭の中が堂々巡りだよ、はぁ。
◇ ◇ ◇
「魔物だッ!!」
遺跡の帰り道。
いきなり、前方から調査隊員の鋭い声が飛んできた。
魔物だって? 確かに『ルインズ・メモリー』にはエネミーキャラとして数多くの魔物が棲息しているが……オープニングイベントでは魔物との戦闘なんてないはずだぞ?
オレは何があったのかを確かめるために、カーテンの隙間から前方を見る。
「うわっ! サイクロプスじゃんか!」
サイクロプス。青い肌をした一つ目の巨人型モンスターで、凄まじい
『ルインズ・メモリー』においてはストーリー中盤以降に登場するような、かなり危険な魔物だ。
そんなおっかない魔物が、どうしてこんな最序盤に出現するんだよ!
オレ、こんな展開知らないぞ!
「……ん?」
そこまで考えて、オレはあることに思い至る。
ゲームではオープニングイベントのあとに一気に五年後へ飛ぶが、現実ではそうならずに、こうしてレイフォンを屋敷へ連れ帰っている途中。
いわば今は、ゲームで語られなかったシーンの最中なんじゃないか?
たとえばこのあとサイクロプスと戦闘し、その結果として調査隊員の誰かが怪我をしたり命を落としたりしたとする。
だが、それはゲームでは語られない。プレイヤーにとってはそんな些末な出来事はどうでもいいからだ。NPCの誰が死のうが知ったこっちゃないもんな。
きっと、開発陣も同じことを思ったに違いない。
だから語る意味のない五年間をスキップした。プレイヤーに手っ取り早くメインストーリーを楽しんでもらうために。
でも実際は、ゲームで語られていないだけでイベントは起きまくっていた。
それはつまり『ルインズ・メモリー』廃人のオレですら知りようがなかったイベントがこれから五年の間にずっと発生し続けるということで……
……平たく言えば、今から五年間は何があってもおかしくないってことにならないか?
…………それ、めっちゃヤバくね?
オレのシナリオ知識、五年後まで役に立たないってこと?
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