第10話:セッタ
レイフォンはまだ意識を失っているようだった。
オレは素早く人力車から降りると、「お待ちください!」という車夫のマッスルマンの制止を無視してレイフォンに駆け寄った。
そしてレイフォンの前に着いたオレは、その肩を軽く揺する。
「おい、おい。聞こえるか?」
「……」
「おいって!」
さらに強めに肩を揺さぶると、レイフォンは「ううっ……」とうめき声を漏らした。よし、ちゃんと目覚めるようだ。
オープニングイベントでは、レイフォンはアーク公爵の呼びかけによって目を覚ます。だからアーク公爵が近付くまで意識を失ったままという可能性も考えられたが……どうやらゲームとは違う展開になってもイベントは進むらしい。
まあ、そもそも
やがて、レイフォンがゆっくりと目を開ける。その焦点は定まっていない。
オレは周りを囲んでいる人達に聞かれないよう、小さな声でそっと囁いた。
「おいお前、自分が誰か分かるか?」
「うぅ……?」
「ほら、よく見ろ。オレの見た目に覚えはないか? ネロ・D・アークという名前に聞き覚えは?」
「う……うぁ……」
ええい、うめき声だけで一向に要領を得ないな。
じれったくなり、オレは単刀直入に聞いてみることにする。
「お前、転生者か?」
そう。それがオレの確かめたかったこと。
この目の前にいるゲームの主人公が、転生者であるという可能性。
レイフォンは『プレイヤーの分身』という役割を与えられた、極めて特殊なキャラクターだ。プレイヤーの意思通りに動き、周回ごとにまったく違った冒険をし、様々な結末を迎える。『ルインズ・メモリー』はマルチエンディングだからな。
つまり、レイフォンは基本的に誰かに操られて動いている。女神様が言うような“転生するボディ”としては打ってつけだ。
なら、この男にはオレと同じように、誰か別の魂が入っているのでは?
――というのがオレの仮説。これをどうしても確かめておきたかったから、ここまで付いてきたのだ。
段々とレイフォンの目の焦点が合ってきた。
瞳に活力が宿り、口を開きかける。
お、何か喋るみたいだ。
ゴクリと唾を呑み込んで待っていると――
「……『セッタ』」
「……は?」
「『セッタ』……持ってねぇか?」
そう呟いたかと思うと、レイフォンはガクリと再び気絶した……は?
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