第5話:食い違い
「あ、あの! やっぱりオレ、殺されて転生したんですか?」
慌てて尋ねたら、女神様は形のいい口をこれまた形のいい両手で覆って「あらっ」と声を漏らした。
「うっかり口を滑らせてしまいました……ええ、まぁ確かにあなたは背中を刃物で刺されて命を落としました。運悪く刃が心臓に達してしまっていたようですね。お可哀想に……よよよ」
わざとらしく泣き真似をする女神様。芝居ががった一挙手一投足が美しくて可愛いが、少しイラっともするな。
「いや、よよよ、じゃないですよ。どうしてオレは殺されたんですか? 誰かに恨みを買った記憶なんて――」
「――ない、ですよね? 私が封じましたもの」
「…………」
閉口。文字通りの意味で。
女神様はクスッと微笑したあと、さらにこう続ける。
「まあまあ、いいじゃないですか。せっかく楽しそうなファンタジー世界で生まれ変われたのですから、思う存分満喫してください。そのために一番都合のいい肉体も用意したのですし」
「一番都合のいい肉体……?」
困惑して繰り返すと、女神様はオレの腹の辺りを指差した。
「ソレです。この世界において最も権力ある家の、大事な一人息子。あなたが望むことが全て叶う身体ですよ」
「……?」
ネロの身体が、都合のいいボディ?
いやいやいや、だってこいつ敵キャラですぜお姉さん? しかもザッコいの。序盤で退場しちゃうからプレイしてたらほぼ忘れちゃうような存在なんだけど。
そういや
正直、嫌がらせとしか思えないんだが……
しかし、女神様は俺の内心に気付かないようで、ニッコニコと笑みを浮かべている。
「どうです? 嬉しいですよね?」
「いや、全然」
「あれぇ!?」
俺の返答が予想外だったのか、コミカルなリアクションを見せてくれた。
女神様は慌てたように言葉を続ける。
「分かっていますか? ソレはこの世の全てを牛耳れる立場の人間なのですよ?」
「はい」
「争いや飢餓や病気とは無縁の、面白おかしい生活をこれからずっと送れるのですよ?」
「まあ、はい」
ずっとではないけどね。
「この世界においてあなたは永遠に勝ち組。今後一切命を脅かされる心配はないのですよ?」
「いいえ」
「いいえ!?」
女神様がのけぞっちゃった。
いやでも、オレを待ち受けているのは処刑ルート一択だからなぁ。
……なんか話が噛み合わないな。ちょっと聞いてみるか。
「あのぅ、女神様」
オレが声をかけると、親指でこめかみをグリグリと揉んでいた女神様はハッと顔を上げた。
「ど、どうしました?」
「一個聞きたいんですけど……ここってゲームの世界ですよね?」
「……げぇむ? なんですか、それは?」
……おいおい、トボけてんのかこの姉ちゃん。
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