第6話:オープニングイベント

ふざけた返答をする女神様に、俺はさらに言葉を続ける。

「いやいや、ここって『ルインズ・メモリー』の世界ですよね?」

「ルインズメモリー? なんでしょうか、それは」

「ほら、〇〇社から発売された大人気ゲームですよ。オレはPC版でプレイしてましたけど、スマホでもできたからゲーマーじゃない人の間でも割と人気だったんですけど」

「パソコンやスマートフォンのことは分かりますが……ごめんなさい、私は地球のサブカルチャーにはあまり精通してないんです」

……ん~? 本気で困惑している表情。

理由は分からないが、この人(?)は本当に『ルインズ・メモリー』のことを知らないようだ。


とにかく、と女神様は話題を切り替える。

「あなたはこの世界で、。それだけで大丈夫ですから」

「は、はぁ……」

「あまり長い間下界にはいられませんので、私はそろそろ行きます。たまに様子を見に来ますので、存分にセカンドライフを楽しんでくださいね。それでは」

女神様は「あでゅ~」と手を振ったかと思うと、白い光に包まれて消えてしまった。


「……現れた時も去る時も突然だなぁ」

さて。

今の女神様との話では、いくつか変というか、気になることがあった。

まず、オレの前世の記憶をということ。

前世に未練を残さないように、とか言ってはいたが……誰かに殺されたという記憶まで封じたというのはなーんか引っかかる。ていうか殺されて転生っていうのは割とレアケースなんじゃない? 普通こういうのって交通事故とかが多いイメージ。知らんけど。

あとは、俺の転生先に選んだ身体が腐れ子息のネロということ。

女神様が言っていたように、確かにネロはその気になればあらゆるワガママを通せる立場の子供だ。ゲーム中でも好き勝手やってたしな。

だけど、それは主人公プレイヤーが本格的に冒険を始める十五歳まで。それからは転落続きの人生で、十八歳を迎える直前で闇堕ち・処刑ルートを迎えてめでたくお陀仏となる。

女神様が転生先にこの身体を選んだのは、本当に親切心からなのか、それとも別の思惑があるのか。


そして何より、女神様は『ルインズ・メモリー』の存在を知らなかった。

これはちょっと意味不明だ。彼女はゲームを知らないから、一番裕福なネロにオレを転生させてくれた……この論理は一見正しいように思えるが、そうすると「そもそも何故『ルインズ・メモリー』の世界に転生させたのか?」という疑問に説明がつかない。

ゲームのことを知らないなら、この世界に転生させようがないだろ?

もしかすると、ここはただのゲーム世界という単純な話ではないかもしれない……


「……グダグダ考えてても仕方ないよな。とりあえず、部屋の外に出てみるか」

そう独り言を呟きつつ、オレは立ち上がる。

さらにこの世界の情報を知りたいという理由もあるが、それ以上に気になることがあるため。

さっきの地震が廃遺跡ルイン出現イベントだとしたら、そろそろのだ。

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