第3話:ルインズ・メモリー

どういうわけか、子供に転生してしまったオレ。

しかも、どうやら転生したこの異世界はただのファンタジー世界ではないようだ。

というのも、転生したオレの姿。

この姿には見覚えがある。

「……こいつ、どう見ても“腐れ子息”のネロ……だよな」


ネロ・D・アーク。

それはオレが昔やり込んでいたファンタジーゲーム『ルインズ・メモリー』の中ボスキャラだ。

物語の舞台となる王国を裏から牛耳るアーク公爵家の一人息子で、その性格は最悪そのもの。自らの欲望のままに好き勝手振る舞い、王国を大混乱に陥れていた。

その後、主人公の活躍によって失墜して流刑地に追放されるが、ネロはそこでとある魔族にそそのかされて闇堕ち。自分も魔族になって王国に復讐しに来たが、最終的には捕縛されて処刑されるという、典型的な咬ませ犬役だったっけ。

正直、ストーリーの序盤で戦うような雑魚敵だから、あんまり詳しい設定とかは覚えてないんだよな。


ここまで思い出すと、オレの中に過去のネロとして生きた記憶――の記憶が流れ込んでくる。


「……うわぁ」

前世のことを思い出した今、自分の主体意識は……このゲームをプレイした社畜リーマンのほうにある。

そんな自分から見てみると、ネロボクとして生きたこれまでの十年間はドン引きものだった。

世の中の道理が分かってなかったとはいえ、使用人へのパワハラ、モラハラは当たり前。相手が逆らえないのをいいことに、日常的に理不尽な命令や暴力をしていたらしい……他人事みたいに言ったけど、やったのはオレネロなんだよな、はぁ。


そしてついでに、自分が何故倒れていたのかも思い出せた。突如として起こった地震によって、壺が倒れて下敷きになったんだな。壺を磨かされていたメイドさんは見当たらなかった。オレネロが目を覚まして叱責を受けるのを恐れて逃げ出したってところか。


それにしても……今の地震。オレの予想が正しければ今のは『ルインズ・メモリー』のオープニングイベントだろう。

つまり、『廃遺跡ルイン』の出現イベント。

『ルインズ・メモリー』はクラフト・スローライフ・学園生活・恋愛などなど膨大な量のサブコンテンツがあるゲームだったが、メインテーマはアクションRPG。主人公プレイヤーは謎の廃遺跡ルインと共に見つかった素性不明の少年で、王国に保護されたあとは親切な農家に引き取られ、青年として成長したあとは自分のルーツを探るために廃遺跡ルインの攻略を目指す――というストーリーだったはずだ。ちなみにマルチエンド式だったんだけど、当時学生だったオレはこのゲームにドハマりして何周もして全クリトロコンしたね。最高のゲームだったわ、うん。


まあそれはいいとして、今の地震がオレの予想通りであれば、現在はゲーム本編開始の五年前ってことになる……だからどうしたって話だが。

オレは途方に暮れてしまった。

前世の記憶を思い出し、学生時代に好きだったゲームに転生したのは正直嬉しいが、転生先はよりによって雑魚ボスだ。これが主人公だったら可愛いヒロインとイチャイチャしながら心置きなくゲーム世界を満喫できたのになぁ……

というかそもそも、どうしてオレは転生したんだ?

何か手がかりがないかと、前世の記憶を詳細に思い出そうと集中する。


一番新しい記憶……そうだ、オレは確かいつものようにサービス残業を終えて家に帰るところだった。普段と変わらない帰り道。トボトボ歩いていたら――

――そうだ。

ドン、という衝撃のあとにとてつもない痛みが広がったことをまざまざと思い出す。苦痛と寒気で頭がクラクラしながら背後を振り返ると、そこには……そこにはの顔が――


「あ、そこまでは思い出さなくて大丈夫ですよ~」


突如として背後から聞こえた、のんびりとした女の声。

ビクッと後ろを振り向くと、この世のものとは思えないほど美しい女がいつの間にか立っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る