第3話:ルインズ・メモリー
どういうわけか、子供に転生してしまったオレ。
しかも、どうやら転生したこの異世界はただのファンタジー世界ではないようだ。
というのも、転生したオレの姿。
この姿には見覚えがある。
「……こいつ、どう見ても“腐れ子息”のネロ……だよな」
ネロ・D・アーク。
それはオレが昔やり込んでいたファンタジーゲーム『ルインズ・メモリー』の中ボスキャラだ。
物語の舞台となる王国を裏から牛耳るアーク公爵家の一人息子で、その性格は最悪そのもの。自らの欲望のままに好き勝手振る舞い、王国を大混乱に陥れていた。
その後、主人公の活躍によって失墜して流刑地に追放されるが、ネロはそこでとある魔族にそそのかされて闇堕ち。自分も魔族になって王国に復讐しに来たが、最終的には捕縛されて処刑されるという、典型的な咬ませ犬役だったっけ。
正直、ストーリーの序盤で戦うような雑魚敵だから、あんまり詳しい設定とかは覚えてないんだよな。
ここまで思い出すと、オレの中に過去のネロとして生きた記憶――ボクの記憶が流れ込んでくる。
「……うわぁ」
前世のことを思い出した今、自分の主体意識はオレ……このゲームをプレイした社畜リーマンのほうにある。
そんな自分から見てみると、
世の中の道理が分かってなかったとはいえ、使用人へのパワハラ、モラハラは当たり前。相手が逆らえないのをいいことに、日常的に理不尽な命令や暴力をしていたらしい……他人事みたいに言ったけど、やったのは
そしてついでに、自分が何故倒れていたのかも思い出せた。突如として起こった地震によって、壺が倒れて下敷きになったんだな。壺を磨かされていたメイドさんは見当たらなかった。
それにしても……今の地震。オレの予想が正しければ今のは『ルインズ・メモリー』のオープニングイベントだろう。
つまり、『
『ルインズ・メモリー』はクラフト・スローライフ・学園生活・恋愛などなど膨大な量のサブコンテンツがあるゲームだったが、メインテーマはアクションRPG。
まあそれはいいとして、今の地震がオレの予想通りであれば、現在はゲーム本編開始の五年前ってことになる……だからどうしたって話だが。
オレは途方に暮れてしまった。
前世の記憶を思い出し、学生時代に好きだったゲームに転生したのは正直嬉しいが、転生先はよりによって雑魚ボスだ。これが主人公だったら可愛いヒロインとイチャイチャしながら心置きなくゲーム世界を満喫できたのになぁ……
というかそもそも、どうしてオレは転生したんだ?
何か手がかりがないかと、前世の記憶を詳細に思い出そうと集中する。
一番新しい記憶……そうだ、オレは確かいつものようにサービス残業を終えて家に帰るところだった。普段と変わらない帰り道。トボトボ歩いていたら――
――そうだ。
オレは誰かに背後から刺された。
ドン、という衝撃のあとにとてつもない痛みが広がったことをまざまざと思い出す。苦痛と寒気で頭がクラクラしながら背後を振り返ると、そこには……そこにはアイツの顔が――
「あ、そこまでは思い出さなくて大丈夫ですよ~」
突如として背後から聞こえた、のんびりとした女の声。
ビクッと後ろを振り向くと、この世のものとは思えないほど美しい女がいつの間にか立っていた。
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