超高速魔法少女RTA

西基央

エピローグ



 私の名前は冬雅城ふゆがしろゆうな。

 ごくごく普通の女子高生……のはずなんだけど。

 今、すごく奇妙な生命体に絡まれています。


『おめでとう、君は魔法少女に選ばれたんだ!』


 なんてことを言い出す、デフォルメされた真っ白なヘビみたいな何者か。

 そいつは夜、私がお風呂に入って、さあもう寝ようかなってところで現れた。

 私の部屋に。普通に不法侵入なので外に追い出そうと窓を開け、全力投球しようとしたところで白ヘビが慌て出す


『ちょっ、待って。待って待って待って。まず話を聞いて?』

「最近の白ヘビって喋るんだ? それなら大丈夫、誰かに拾ってもらえるようお願いすればいいから」

『うわお、僕が喋っても驚かないんだね。君、才能あるよ(ニチャァ』

 

 ヘビがキモイ。

 ヘビとしてでなく、その精神性がキモイ。


『とにかく、話を聞いてほしい。今は、世界のピンチなんだ』

「はぁ。じゃあどうぞ、外に出てそれにふさわしい相手にお話してください」

『いやだから君が選ばれたって言ってるでしょまずは聞けよ話が進まないだろ』


 なんか早口でまくしたてられた。

 でも残念ながら、私は特別な人間ではない。

 普通に可愛いと言われることくらいはあるが、スタイル普通で勉強も普通。恋人いない歴年齢のごくごく平凡な女子高生である。

 というか明日は誕生日だというのに、こんなヘビに絡まれるとかどんな罰ゲームだ。


『僕は魔法の異世界ネトランドからやってきた、可愛い可愛いマスコット! 実は、ネトランドの根幹を支える“願いを叶える魔法のアイテム”的なサムシングがこの地上世界に堕ちてしまったんだ! 僕はそれを回収するために、パートナーの魔法少女を探しているんだ!』

「はあ、そうですか。頑張って」

『いや話の流れ的にどう考えても君のことだろ。魔法少女の才能を持つのは百万人に一人。君は、選ばれたんだよ!』

「じゃあ綾鷹も大丈夫だね」

「何の話してるの⁉」


 魔法少女らぶりー♡あやたか、でもいいんじゃないかな、別に。


『と、とにかく! 力を貸してほしい! 魔法のアイテムの回収には、魔法少女の力が必要なんだ』

「えー、でも……」

『な、なんなら最後に一回だけ君の願いを叶えてもいいよ! この状況だからの特例措置! パパ活やるより効率的に稼げると思わない?』

「さて、じゃあ一緒に頑張ろうか白井蛇之進くん」

『こいつ……後僕はそんな名前じゃない! フール・フールっていう可愛い名前があるの!』


 二重に愚かな者、は可愛いのだろうか。

 よく分からないけど、とりあえず私は魔法少女になってしまったようだ。


「じゃあ、とりあえず今日は寝ていい? 明日は記念すべき18歳の誕生日、友達がお祝いに好きなケーキ奢ってくれるの」


 私の通う学校に近くにある喫茶店は、黒髪のワイルド系マスターと美味しいケーキで人気を誇っている。

 イケメンをオカズに甘いモノとかもうフォークが進む進む。


『………………………………………え?』

 

 なぜか白ヘビは、驚愕といった表情をしていた。

 ヘビの表情が分かるようになった私は大分毒されている。


『ちょ、ちょっと待って。え? 明日、18歳? ええ? き、きみ、今の年齢は?』

「17歳。あと三時間くらいだけど」


 それを聞いた瞬間、白ヘビは激昂したように怒鳴った。


『な、なんでそれをもっと早く言わないんだ⁉ い、いや! そんな、せっかく見つけた才能がもう18歳になってしまうなんて⁉』

「えーと、なにを慌てているの?」

『魔法少女にとって、18歳というのは非情に大きな意味を持っているんだ!』


 非常に、と微妙にニュアンスが違った。


『いいかい⁉ この世界では、18歳を超えた魔法少女は絶対に敵に勝てなくなる! それが覆しようのない真理だ!』

「それは、魔力が衰える的な?」

『違う、それよりももっと深刻な現象だよ!』


 そうして白ヘビは溜めに溜めて、まさしく迫真と言った様子で声を絞り出す。


『18歳未満の魔法少女のお仕事は、華々しい勝利で小さなお友達に夢を与えること。でも18歳以上の魔法少女のお仕事は、華々しい敗北で大きなお友達に夢を与えることなんだ……!』


 わりと最低な発言だった。


「え? なに言ってんの?」

「分かりやすく言うよ。18歳以上の魔法少女の役目は負けることにあるんだ。だから敵もそれに合わせて変化する。具体的には、敵の攻撃が謎ビームから媚薬粘液に変わるし、謎の触手生物を使役するようになってくる。それに18歳未満ならクラスの男子は応援してくれるけど、18歳以上だと偶然正体を画像に収めてそれをネタに脅してくるよ! 君に恋人とか、片思いの相手がいるとさらにNTR墜としをしかけてくる! この18歳を境にした変化を魔法少女界隈では堕落ラインといって、戦略の見つめ直しが必要になってくる重要な時期なんだ!」

「いやごめんほんとなに言ってんの?」


 攻撃力1500が奈落ラインみたいな話だろうか。


『つまり、あと数時間。君が18歳になった時点で、もう大変なことになる! 悪の組織に捉えられて悪落ちヒロイン化なんて序の口、そりゃあもうここで言い現わしたら凍結されるような羞恥を周知されて集中的にシュッシュちゅっちゅだよ!』

「あ、じゃあやっぱり辞退させて」

『こうなったら仕方ない……あと数時間のうちに、全ての問題を解決する! これしか君が純潔を保つ道はない……!』

「いや聞けよ。あとモテないからって勝手に純潔確定すんな。純潔のダイヤモンドバージン乙女だけども」

『ということで、魔法少女に変身!』


 そうして、私は白ヘビから力を与えられて。

 魔法少女に変身した。


「……なにこの衣装⁉ 明らかに丈が短いし上も物凄く小さいんだけど!?」

『お、初めて慌てたね。いやぁ、僕ロリコンだからさ。7歳向けの衣装しか用意してなかったんだ。そりゃ17歳の君が着たらぴっちぴちのぱっつぱつだよね。でも急いでるし仕方ない。……いや、この締め付けられたお肉の感じ、意外とアリか?』

「死ね」


 引き千切ってもいいよね、このクソヘビ。

 ということで魔法少女RTA始まります。



 ◆



 とある夜、公園で謎の怪物が暴れていた。

 その視線の先には仕事帰りの女性。腰が抜けて逃げられないのだろう。

 ただ怯えて後ずさりするだけ。

 そのゼッタイのピンチに。


「死ねええええええええええええええええ!?」


 超高速の飛翔、突進からの一撃で一気に化物を倒す魔法少女登場同時に決着。

 私だ。


『やったねマジカルビッチ☆ユウナ!』

「いや、魔法少女。マジカルうぃっち」

『でもそこかしこで布地が足りてないし。全体的にビッチな露出度……』

「どう考えてもあんたのせいですが? あとやってること魔法少女じゃなくてアサシンですが?」

『そんなこと言ってる暇はないよ! 空を見上げるんだ!』


 言われるままに視線を上げると、その先には宙に浮かぶ黒衣の少女。

 私よりも年下の、おそらく魔法少女だろう。



 ◆



 銀髪の、黒衣の魔法少女は静かな目でその戦いを眺めていた。


「わたし、いがいの、魔法少女……」


 感情の薄い呟き。

 それと同時に。


「だっしゃおらぁぁぁぁぁぁっぁ!?」


 突き刺さる超高速突進からの右ストレート及び魔法少女というか私。

 儚げで美少女な魔法少女はきりもみ回転シュートで落下していった。


『ようし! 魔法少女と言えばライバル! そして殴り愛! そこから生まれる友情パゥワー! これでかなりタイムスケジュールを前倒しできた! もうあの銀髪魔法ロリ少女は親友になることが確定したね!』

「大丈夫⁉ これほんとに大丈夫!? 友情生まれるとか絶対ないしなんなら通り魔だけど⁉」

『そんなことよりも魔力を広げてサーチ魔法を使うんだ。近くにおそらく異世界から魔法のアイテムを盗んだヤツがいる!』


 言われるままに私は感知魔法を起動する。

 ……マジでいた。嘘やん。


『僕の世界からアイテムを盗んだのは、なんか怪盗気取りのクソ野郎だ! 結局願いを叶えるアイテムで好き勝手やりたいだけだから気にしなくていいよ! たぶんさっきの化け物も変な形で願いを叶えたせいで生まれたもの! 放置したらまずい!』

「それは、そうなんだろうけど」

『もう時間がない! 18歳以上の魔法少女の存在を認識したら、とんでもないことになる! 叶える願いも今はニチアサの範疇で収まるけど、日付が変わった時点で痴漢したい! 羞恥コスプレ撮影会! あのカップルぶっ壊して寝取ってやろうぜ! とかになるんだよ!?』

「ああ、もう!」


 腹立つけど本当に時間ないし放置できない。

 私は一気に飛翔し、次の行動に移る。





「ふっふっふっ、どうやらこの俺様に敵対する愚か者が、ってなにぃ!?」


 なんかボス敵っぽい呟きを、最後まで言わせないうちに攻撃魔法少女私。

 しかし防がれた。

 さらに連撃。殴り、蹴り、近距離からの魔力弾。

 その全てをいなされてしまった。


「な、中々やるではないか」


 ちょっと汗をかいてるけど、それでも無傷な怪盗クソ野郎。


「ヤバい白ヘビ! こいつ強い!」

『くぅ、現れた強敵。本来ならここで修業回を挟むんだけど、今はそんな時間がない。アンケートも下がるし。仕方ない……ユウナ! 今ここで、戦うことを修行として強くなるんだ!』

「もうめっちゃくちゃなんですが!?」


 でも実際時間がないのでとにかく戦う。

 攻撃をしながら動きを修正、相手の共同を観察し、自身の体術をアジャストする。


「こいつ……戦いながら成長している……!?」

「なんか少年マンガみたいなこと言い出したけど、そのまま潰れろぉ!」

「ぐわぁああああああああああ!?」


 最後に魔力を籠めた拳で、全力のバーンナックル。

 もうキラキラとは無縁の格闘戦だけど私魔法少女私泣きたい。


「や、やってみるもんね。意外とイケた……」


 クソ怪盗気絶。名前知らないからその名称が定着してしまった。

 諸悪の根源を倒した私は、街に降り立つ。

 強襲を繰り返していたから気付いていなかったが、どうやら怪盗との戦いの結果、市街部にまで移動してしまったらしい。


『よし、ここで変身解除!』

「はぁ!?」

『そして再度変身! 魔法少女の正体バレは必須だからね! それでもみんなのために頑張る姿に子供達は心打たれるんだ!』

「そんなことのために!?」


 いや、おかしい。

 普通に皆さまに正体を晒した私。

 それに動揺する暇もなく、倒れた怪盗の体から黒い瘴気が立ち昇り始めた。


『ユウナ、大変だ……願望をかなえるアイテムが暴走している。今まで願いを叶えてきたことでたまった欲望が、悪意が形になろうとしているんだ』

「ほとんど叶えてないはずだけど?」

『そこはもう、その分弱くなったってことで一つ。ああ、見て! 黒い瘴気が、まるでドラゴンのような姿に!』


 ラスボスっぽい形になる願望機に溜まった悪意。

 弱くなったといっても放つ気配は強大だ。あれに格闘戦を挑むのは難しい。

 

「いったい、どうすれば……」

『決まってるよ。最後のボスを倒すのは、魔法少女の友情パゥワーだと相場が決まっている!』


 そう言って白ヘビは……気絶している銀髪の魔法ロリ少女を引きずって連れてきた。


「名前も知らない美少女ちゃん!? クソヘビあんたいったいなにやってんの!?」

『独りの力じゃアレには勝てない……でもっ! 二人の魔法少女の力が合わされば、きっと倒せるはずだ!』

「いや、あの」

『まあ具体的に言うとこの子から魔力を奪取してユウナに加算すれば出力的には上回れると思う。さあやるんだ。どっちみち倒さないとヤバいのは事実なんだし』

「どんどん、どんどん私の人間性が薄れていく……」


 実際時間がないので、ちょっと涙ぐみながらもロリ美少女に手をかざす。

 そして魔力を吸収し、私はドラゴンを睨みつけた。


「これで、全てが終わる……。消え、去れえええええええええええええ!」


 そうして私は、魔法少女二人分の力を合わせた大規模魔力砲を放った。

 黒いドラゴンは直撃してもなんとか耐えている。だから、私は限界を超えて魔力を絞り出す。

 あれを放置はできないし、もう早く帰ってベッドにもぐりこみたい。

 極光に飲み込まれるドラゴン。

 絆の力が生み出した人の心の輝きを前には、どれだけ強くても意味がない。






 私は、ここまでに至る長い闘いの日々を思い返していた。


 平凡な女子高生だった私は、ある日偶然不思議な白いヘビと出会った。

 異世界からやってきたフール・フールは「この世界に危険なアイテムが持ち込まれた」と私に助力を願う。

 そうして始まった魔法少女としての活動。

 化け物に襲われる市民を守る戦い。

 けれど現れた黒衣の魔法少女。

 謎めいた美少女と私は敵対してしまう。

 苦悩し、それでもぶつかり合い。私たちは心を通わせた。

 そんな中現れる怪盗を名乗る諸悪の根源。

 その男はあまりに強かった。けれど必死に修行して、私は彼を打ち倒す。

 でも……油断していたせいだろう。変身が解けて、正体が市民にバレてしまった。

 間髪入れず降臨する黒いドラゴン。

 あれは、人の願いを叶え続けた願望器が生み出してしまった悪意の塊なのだという。


 もう正体はバレてしまった。

 けれど、やっぱりみんなを見捨てられない。

 私は再び戦いに挑む。

 ドラゴンは強大だった。もしかした、負けてしまうかも……だけどゼッタイの窮地に、かつて争い合った黒衣の魔法少女が力を貸してくれたのだ!


 そして、私たち二人分の魔力を合わせた必殺の一撃が、今ドラゴンを葬り去る。


 誰だって知っている。

 希望の力の前には、絶望の闇なんて簡単に振り払われるのだと。

 あと、私は知っている。

 この語りの熱情が、全部騙りの捏造だってことを。


『ユウナ……やったね。あの漆黒龍パンドラを、僕達はようやく倒せたんだ』

「そうだね。いつ漆黒龍パンドラなんて名前が付いたのかは知らないし、あんたが戦ったみたいな物言いにひどく引っ掛かりを覚えるけど」

『でも18歳、堕落ラインを超えずに済んだ』

「それはほんとにやったねと言いたい」


 そうして一息つくと、白ヘビは光に包まれふわりと空に浮かんだ。


『僕は君のおかげで、ネトランドの至宝を取り戻すことができた。これを、元の世界に返さないと。……だから、もう、お別れだ。ずっといっしょにいたマスコットとの別離も、魔法少女のテンプレなんだ』

「クソヘビ……ずっとって言うか正味数時間だよね?」

『ふふ、寂しくなるな。でも、ユウナ。僕は遠い場所で君のことをずっと見守っている』

「聞けや」


 そうして彼は、まるで空に溶けるように穏やかな笑みを見せる。

 


『ありがとう、君に出会えて本当に良かった。さようなら、ビッチ……』



 そのまま、フール・フールは空に消えていった。

 もうマジカルもユウナも消えてただのビッチだけが残った。

 ……当たり前のように、私への報酬は踏み倒された。




 ◆




 翌日、私は高校のクラスメイトに誕生お祝いとしてケーキをご馳走してもらった。

 せっかくの18歳だからと一番高いケーキだ。

 戦いの日々は終わり、戻った日常。謎の黒衣の魔法少女は警察に任せています。

 可愛かったから放置したら色々問題ありそうなので。

 ナチュラルに憂鬱気取って見せたけど昨日のあれなんだったのか。全部数時間で終わったし、魔法少女のことは騒動にはなっていなかった。

 もしかしたら白ヘビがアイテムを使い、「皆があの戦いの記憶を忘れるように」願ってくれたのかもしれない。

 そのおかげで私に被害が来ていないのでなんでもいいけど。


「美味しい」

「でしょ? 中学の頃からここのケーキのファンなんだ」


 クラスの友達がご馳走してくれたフルーツケーキは確かに絶品だ。

 まあ昨日のあれは、誕生日前のちょっとしたイベントで終わらせた方がいいのかもしれない。

 なんて考えつつ、ふと店の床に視線を下ろすと、にょろりと動く白い何かを見つける。


『まったく、ユウナは相変わらずだな、あるげいあるげふぁっ!?』


 なので全力で踏み潰した。

 意外と、硬い。全然潰れないので全力で何度も何度も繰り返す。


『待って待って! 今大事なシーン! 長くともにいたマスコット兼相棒と別れて寂しがっていたところに戻ってきた感動の再会で再開!』


 黙れ。

 私の気分は最下位だ。


「ちょ、ゆうなちゃん!? ヘビ、なんか喋るヘビ踏んでる⁉ やめてあげてかわいそう!」

『おや? この娘にも僕の声が聞こえてる? 今さら明かされる事実、僕の声は魔法少女の才能がある子にしか聞こえないんだ! きっとこれは二作目への伏線だねって痛い痛いマジでヤバい! 中身ぴゅっって出ちゃう⁉』


 二作目ってつまり私がエロい目にあうんじゃねーか。

 不思議な出会いって大体いいことがないので、まずマスコットを処理するのが一番だと思う。

 こうして私の平穏な誕生日は守られた。

 後でゴミは土に還してあげたいです。




・おしまい




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