終章

終章・1

 パルティダ王国第三王子エリアスがエイオニル帝国嫡子レジーナを誘拐し箱庭世界に閉じこめた事件は、帝国の内外に大きな衝撃を与えた。

 当たり前だ。パルティダが友好国であるはずの帝国に対し、宣戦布告したようなものなのである。パルティダは釈明に腐心し、あちこちで帝国による武力の報復が噂された。

 しかし帝国の皇帝は、武力行使はおこなわないと宣言した。レジーナが無事であることや彼女が戦乱を望んでいないこと、エリアスがすでに命を絶っていることが理由だという。エリアスの遺体もパルティダと協議のうえ、秘密裏に埋葬された。

 もちろん、それだけで終わるはずもない。表に出ないだけで、この事件は帝国とパルティダのあいだでの政治的な駆け引きの材料になっていた。帝国に有利な条件でいくつかの案件はとりまとめられ、結果だけを見れば、事件は帝国に利益をもたらすものになったのだった。

 一方。レジーナは心身の療養が必要であるとして、人々の好奇の目から遠ざけられた。仕える者たちも主君の心のうちに配慮し、彼女が心静かでいられるよう努めた。

 そうして、レジーナの救出から一ヶ月近くがあっというまに過ぎた。

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