【猫隊長の瞳石】
ミールは代々続く由緒正しい倉庫の守護者だ。
穀物を頂こうとするネズミどもを「ニャア」と狩り、刃物を持った盗っ人だろうと唸りながら飛びかかる。
好奇心旺盛な子猫達を除き、ミールが負けた相手はいない。
ミールは今日も今日とて倉庫の巡回をする。
最近はネズミどもが来ないのでとても静かだ。ご主人も「最近ネズミがいないな」と獲物を確認しながら言っていた。
暗い石の床をてしてし歩く。朝整えた髭がゆらゆら揺れる。呑気に歩くミールだが、その気配を感じ揺れていた尻尾がピンと止まった。
「チュウ」
ネズミだ。まだ諦めなかったのかコソ泥め。
ミールは鳴き声の主を見る。今日の侵入者はどんな奴か。
「?」
見下ろしていた視線は上へゆき、やがてミールはそのネズミを"見上げて"いた。
「チュウ」
ネズミの足元をいつものネズミが走る。こいつらはいつも仕留めているのと同じだ。
「チュウ」
だが、一匹だけいるネズミ……人間の子どもぐらいの大きなネズミなど、ミールは見たことがない。
「ニャア」
横切ろうとした小さなネズミをバシッと薙ぎ払う。視線は大ネズミから離さず、姿勢を低くして。
「チューウ」
「ナァーオ」
動いている生物はミールと大ネズミだけ。二匹は短く視線を交わし、そして……互いが互いを仕留めるため駆けた。
ミールは高く鳴く。こんなにも手応えがある相手と戦うのはいつ以来なのだろう! 量で攻めてきたネズミどもか、隠れていた盗っ人か。どの時もミールは勝者であった。
ミールはご主人から最も信頼される守護者だ。だから、ここで負けて失望させるわけにはいかない。この大きな獲物を見せ、沢山褒めてもらうのだ!
*
「ミール?」
青年は、大人しくふてぶてしい愛猫が普段出さないような声を聞いた。
猫同士の喧嘩で聞く、高く長い鳴き声。彼女のこの声を聞いたのは、山賊の残党をミールが泣かせた時以来だろうか。
青年は走った。彼女の鳴き声は近くの者にも聞こえているだろう。
ミールの武勇伝は村でも有名だ、何か――想像すらしたくない何か――が起きたとしても、対処する構えができる。それでも、自分達が無事であっても、長年愛情を向けた存在には無事でいて欲しい。
今向かう事が危険だと知りながら青年は愛猫のため走った。
「ミール!」
倉庫の扉を開ける。中央に、死体があった。
「これは……」
青年は己の目が信じられなかった。初めて見るそれに言葉を出せずにいる。
倉庫には大きなネズミの死体があった。青年が今まで見たどのネズミの数十倍大きなネズミだった。
「ミール?」
「ニャン」
青年が名を呼ぶと倉庫の奥からミールが出てきた。毛が乱れているが特に大きな傷は見えない。
ミールは大ネズミの尻尾を咥え緑の目を輝かせ青年の前に引き摺り出す。
「……ほんっと、最高だなお前は!」
こうして、倉庫の守護者にしてネズミの天敵、ご主人様の最高で最強な相棒の史上最大級な戦いは幕を下ろしたのだった。
【猫隊長の瞳石】
ミールは多くのネズミから倉庫を守ってきた猫だ。沢山の群れで来ようが1匹たりとも見逃す事はなかった。
魔物の神モンステルにより大ネズミが創られた頃、ミールは倉庫に入り込んだ大ネズミを退治した。大ネズミは並の猫では敵わないはずの相手で、今なお何故勝てたのか多くの者の間で議論されている。
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