第9話 必殺アビス・ザ・パンチ!


「ふう!やっと終わった。」



 今日の学校はもう終わりだ。さっさと家帰って、屁ぇこいて、寝よ。



「さあ、帰ろ、ミヤちゃん。」



 そう言うつぐみんはいつもより嬉しそうだった。なんか、わくわくしてそうっていうか。



「魔王陛下はあの後、どうしたのかな?」



 へ、陛下って、つぐみんェ……。もうやめとこ、つぐみん。これ以上入れ込むと取り返しのつかんことになるで。



「さあ?さすがに腹減って帰ったんちゃうか?せや!ツル!お前への追求はまだ終わってへんさかいな!」



 年貢を取り立てる悪代官のごとく追求の続行を宣言した。グヘヘ。



「私は忙しくて、そんなことに付き合ってられませんわ~。部活があるんで~。」



 言いながらそそくさとウチらの前から立ち去ろうとする。逃がすかぁ!



「待てい!」



 捕まえようとしても、うまいこと躱しよった。流れるような自然な動きですり抜けた。これが柔道の体捌きというやつか!しょうもないことに武道の技を使いやがって。



「じゃあね!ツルちゃん、また明日!」



 ツルはつぐみんの声に振り向かずに手だけ振りながら、そのまま教室を出て行った。くそう、取り逃がしてしまった。



「しゃあない。帰ろか。」


「うわあ!」



 ツルのことは諦めて帰宅を決意したとき、つぐみんがヘンな声を上げた。何事か?



「……ブッ!」



 その正体を見たとき、ウチは思わず吹き出した。飲み物を口に含んでいたりしたら、盛大に吹き出していただろう。



「キャー!!」


「ひゃあ!」


「何アレ?」



 その時、教室が阿鼻叫喚の地獄絵図と化した!(?)アイツが逆さにぶら下がった状態で窓を覗いていたのだ。



「こりゃー!!何しとんじゃ!おのれは!!」



 窓を開けて、ヤツと相対した。



「何とは、何だ。覗いているに決まっておるではないか。」



 堂々と腕組みをしながら、偉そうに言う。そこにどないして、ぶら下がっとんねん!



「こういうときは、いつも言うではないか。深淵を覗くとき、深淵もまた、お前を覗いているのだと!」


「……?何をわけのわからんことを!どうでもええから、お前が深淵に落ちろお!」


「ぶぐお!?」



 勢いよく正拳突きを腹部にお見舞いしてやった。



「名付けて、アビス・ザ・パンチ!」



 やったった!とりあえず、今はこれでええやろ。



「きゃああ!」


「落ちたぞ!」


「平城、お前すげーな!」


「ちょーウケる!」



 方々から様々な反応が返ってくる。よっしゃ、今のうちに。



「つぐみん、行くで!はよ行こ!」


「……え!?あ、うん!」



 ウチは混乱する教室内を尻目に、つぐみんの手を引き、教室を後にした。

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