第8話 我に供物を献上せよ!
「ハア……ハア、な、なんとか焼きそばパンはゲットでけたわ。」
購買によった後で、いつもの場所……校舎外のベンチにたどり着いた。今日の昼メシはアイツのせいで、弁当が用意できなかったため、購買でパンをゲットしなくてはならなかった。
「大丈夫?」
つぐみんが心配そうに声をかけてくれた。ウチが来るまで食べずに待っていてくれたみたい。やっぱ、つぐみんはやさしいなあ。しかし、ツルは待たずに既に食べ始めていた。おまえってやつは。
「ホンマギリギリやったわ。危うく、かにパンになるところやった。」
危うく焼きそばパンをゲットし損ねるところやった。最後の一個やった。あと少し遅れていれば、昼メシも悲惨なことになっていただろう。別にかにパンは嫌いじゃないけど、昼メシっていうのはなんかちゃうねんな。あれはおやつやねん。
「しかも、こういうときに限って、授業長引くし。」
「うーん、張本先生はすぐ脱線するからねえ。」
ハゲ本……もとい張本先生の授業が長引いてしまったのだ。あんなしょうもない、昔の映画の下りなんかなかったら、もっとはよ終われたやろ。
「とりあえず、食べよか。」
ん?何か目の端に何かいるのが見えたような気がする。気のせいかな?
「いただきまあーす。」
口を開けた瞬間、ソイツは姿を現した。あの黒いチンチクリンが目の前にいた。
「……!!??」
ソイツも大きく口を開けていた。まさか、この焼きそばパンを狙っているのか?
「なんで、お前がここにおんねん!」
あわてて目の前のパンを隠した。
「それを我によこせ!我は腹が減っているのだ!」
そういえば、また体が縮んでいる。魔力が枯渇したらとか言ってたけど、ホンマなんか?腹減る度に縮んでない?
「ミヤちゃん、もしかして、魔王様ってこの子?」
しもた!つぐみんには会わせたくなかったのに。コイツからノコノコやってくるとは思わんかった。どっから涌いて出た。
「我は魔王なり。我にひれ伏せ!我に恐れおののくがよい!」
「わー!すごーい!」
つぐみんはパチパチと拍手と声援を送る。ヒーローショーとちゃうねんで、つぐみん。
「さすれば、我に供物を献上せよ。」
「お腹すいてるんだよね?じゃあ、これ食べる?」
つぐみんは素直に自分の弁当のエビフライを差し出す。すかさず、ヤツはそれをつまみ上げ、口の中に放り込む。グルメ漫画とかの食通がしっかり料理を吟味するかのように大げさに咀嚼している。
「うまい!うまいぞ!褒めてつかわす。」
「じゃあ、これもどーぞ!」
今度は卵焼きを差し出した。アカンて!つぐみん!無闇矢鱈に得体の知れない動物に食べ物を与えてはいけません!噛み付かれるで!
「うーまーいーぞー!」
やかましいわ!ホンマにグルメ漫画みたいな展開になっとる。いや、むしろグルメ漫画をアニメ化したみたいな……ていうかなんやねん、これ。
「なんだ、この魔性の食べ物は!この甘くとろけるような絶妙な味わい!なんと官能的なことか!」
んな、アホな。おおげさやろ。たしかにつぐみんの手作り弁当はうまいに違いない。むしろ、ウチが食べたかってん!
「ウム!見事なり。……うまい物を馳走になったのだ、何か褒美をやらねばなるまい。」
「へへーっ。」
つぐみんはアイツにあわせて、平伏しているような仕草をする。アカンて、つぐみん、そんなヤツの奇行に付き合わんでええから。
「貴様、名は何と申す?」
「ツグミと申します!」
「……では、ツグミよ!今日より貴様は我が配下となるがよい。これからはこの世界の侵略指南役を命ずる。」
「ありがたき幸せ!」
ウチのつぐみんが変質者に毒されてゆく。こんなはずじゃなかったのに。こんなはずじゃ……。
「なんか楽しそうだな。」
何が楽しそう、やねん!ウチからしたら、全然、楽しないわ。……ハッ!そういえば、うちも忘れてたけど、ツルの奴、目の前に否定してた存在がいるということを忘れていなイカ?
「おう!ツルさんよ!なんか忘れてへんか?ウチに謝ることがあるんとちゃうんか?」
「はて?何でしたかのう?」
ツルは「何も知りませんよ?」的な素知らぬ顔をして、口笛を吹いて誤魔化そうとしている。これは完全になかったことにしようとしている。そんな態度にムカツク、腹が立つぅ~!
「あまりに昔のことゆえ、忘れてしまいま……!?」
ツルが言いかけたところで、絶句した。目の前の一点を凝視している。いつも目が開いてんのか、開いてへんのかわからへんぐらい糸目なツルなのだが、その目がカッと見開かれている。その視線の先を辿ると……、
「イケメンが生えてきおったー!!!」
生えてきたという表現はさすがにおかしいが、正に急成長したとか、急進化したという感じに体格が急変したのだ。さっきまで、小学生並みのチンチクリンが、急にウチらと同じかそれ以上ぐらいの男子の姿にチェンジしたのだ。アイツの変化って、こんな急やったんか。
「すごい!すごーい!」
つぐみんは目を輝かせて、大喜びしている。ウチは喜びはしないが、驚いたことに関しては認めざるを得ない。くやしいわ。
「どうだ?これが我の真の姿だ。見惚れたであろう?」
「はいっ!カンドーしました。一生ついて行きます!」
アカン、このままではウチのつぐみんが取られてまう!なんとかせな!
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