第7話 嘘谷が確定しましたぁ!
急いで出たとはいえ、さっきの余計なやりとりのせいでいつもより遅くなってしまった。そのため、いつもつぐみんと合流する地点に差し掛かっても、その姿は見えなかった。
「はやいとこ、つぐみんに話聞いて欲しかったのに。」
残念だが、登校中に話は出来そうにない。学校に着くまでお預けだ。とか考えてる内に、アッとうまに校門前に到着した。
「おはよう!平城!おっ、今日は珍しく二分ほど遅かったな!」
校門前に立っている、ごついオッサンから声をかけられた。生徒指導の群田英雄先生だ。ウチの登校時間をいちいち憶えているとは、どういうことだ。まじキモい。
「おはよう。先生、なんでウチの登校時間なんか憶えてんの?ストーカーみたいでキモいから、やめてーや。」
「がっはっは、堅いことを言うな!俺とお前の仲ではないか!」
せやから、その昭和のノリが暑苦しいっちゅうねん!パワハラ、セクハラの容疑で訴えたろか!
「そういうのはもうええから。それより、つぐみん見んかった?」
「白河のことか?あいつならとっくに通り過ぎたぞ。」
休みじゃなくて、ホッとしたわ。せやったら、はよ教室に行こ。
「ほな、先生。ウチは急いどるさかい!」
「おう!」
グンダ先生に別れを告げ、そのまま教室へ向かうことにした。すまんな、ウチにはオッサンにかまっとる暇なんぞないんや。
校舎の昇降口に差し掛かったところで、見覚えのある、妙にひょろ長い女を見かけた。部活の朝練を終えてやってきたツルである。コイツは柔道部に所属しているので、朝はいつも朝練である。
「……出た!妖怪、嘘谷!」
「朝一番の一言がそれかい!このアホンダラ!」
いきなり、それで来るとは!まったく、コイツは油断も隙もない。
「昨日のこと、くわしくは後で話すさかい、楽しみに待ってな!」
「ほう、それはそれは。たいそうなホラ話が聞けそうでなによりですわ。」
くそう!憶えとけよ。後で吠え面かくなよ。つぐみんを味方に付ければ、お前なんかイチコロやからな。
ウチとツルはにらみ合いを続けたまま、3Fにある教室までやってきた。
「みんな、おはよう!」
「おはよう。」
教室の方々から挨拶が帰ってくる。つい先ほどまでのテンションとは打って変わって、元気いっぱいに挨拶した。ツルとのにらみ合いはまだ続けたかったが、そのままだと、みんなにドン引きされてしまう。あくまで普段通りを装った。
「おはよー。」
教室の中でただ一人、ウチに向かって手を振っている美少女がいた。つぐみんである。その姿は絵になるほど、かわいい。さすが我が心の友よ。かわいいよ、つぐみん、かわいいよ。
「ちょー、聞いてや、つぐみん。コイツ朝っぱらから、ウチを嘘つき呼ばわりしよんねん!」
「昨日のこと?大変だねー。」
ウチは自分の机にカバンを置いて速攻でつぐみんの所へ向かった。
「そういえば、ミヤちゃん、今日は来るのが遅かったけど、何かあったの?」
「そうやねん!昨日来たアイツのせいやねん。アイツが一晩明けたら、イケメンにクラスチェンジしとってん。」
「……??子供から大人に?どこかの名探偵さんの逆みたいだね?」
うーん、そうだね。簡単に例えるとそれが一番近いんちゃうかな。
「魔力がなくなると、体が縮んで子供みたいになるとかなんとか言うてたわ。知らんけど。」
「それは、それは。大変念の入った設定ですな。嘘谷サン。」
「うるさい!ホンマやっちゅうねん!ホンマやから、朝から出遅れたんやろがい。」
ツルが余計な横槍を入れてくる。邪魔すんな。
「ほう。それなら、証拠はあるんだろうな。写真とか。」
「証拠か!……証拠な…ら、ハッ!」
ツルに証拠の提示を求められ、そこで重大な事実に気付いてしまった。証拠が……ないのだ。アイツの写メとか一切撮ってなかった。しまった!迂闊だった。
「ほれ、ほれ、どうした。証拠は?」
「悔しいが、証拠を撮ってくるのを忘れた。」
「嘘谷が確定しましたぁ!」
ちくしょー!アイツに気を取られすぎて、証拠のこと、一切考えとらんかったわ。大失態や。
「放課後まで待て!実物に会わせたるさかい!」
「ワタクシ、部活で忙しいのでとても、とても。」
「チクショー!」
(キーンコーンカーンコーン!!!)
教室にゴングもとい、予鈴が鳴り響く。残念だが話はここで一旦終了だ。
「オー、ハヨーウ!」
ウチらの担任張本先生が入ってきた。張本丈二、四十半ばのオッサンである。ちなみに数学担当。グンダ先生みたいに見るからにオヤジな外見とは異なり、見た目だけはわりとイケオジなのだが、致命的な弱点がある。前髪の生え際が後退し始めているのである。それを気にしてか、いつも帽子をかぶっている。例え教室の中でもだ。しかも、いつも寒いノリのギャグを連発し、スベリ倒している。
「じゃあ、出欠を取るぜ、野郎ども!準備はいいか?」
この通りである。このノリが延々と続くのである。勘弁して欲しい。こうして今日も一日が始まった。
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