第5話 【魔王】改め【マオ】君?


「うまい!うまいぞ!褒めてつかわす!」



 一旦、風呂に入ってリフレッシュしたウチは風呂上がりの牛乳を飲むため台所へ向かった。その時である。アイツが何か言っている。何か食べているのか?ウチはこっそりと様子を窺ってみることにした。



「おいしい?ありがとな。遠慮せんでいいで。どんどん食べてや。」



 アイツは今日の晩ご飯のおかずだった唐揚げを食べている。オカンは多めに作っていたので、ウチは明日の弁当のおかずに使うつもりで確保しておいたのだが……。



「うまい!うますぎるぞ!こんなにうまいものは食べたことがない!」


「そんなに褒めてくれたら、オバチャン嬉しなるやん。」



 ベタ褒めのしすぎで、オカンはすっかり上機嫌になっていた。イカン。このままでは唐揚げがなくなってしまう。



「コリャー!ひとんちの唐揚げを食べるなあ!この唐揚げ泥棒め!」



 ウチはたまらず、二人の前に飛び出していった。



「泥棒とは何だ!食べていいと言われたから食べているのだ。貴様ごときに文句を言われる筋合いはない。」


「まあまあ、ミヤコ。そんなに怒らんでもええやねん。」


「ウチの唐揚げ~!」



 言ってる内に、最後の一個まで手を付けられてしまった。取り返しの付かないことを!



「チクショー!全部食いやがったなあ!」


「フン!散々、我をコケにした報いだ。」


「もうええやろ。唐揚げぐらいで。」



 オカンはウチを宥めようとしているが、納得できなかった。ムキー!



「せや!あんた、名前聞いてへんかった。お名前は?」



 オカンは今更ながらに、ソイツに名前を聞こうとした。名前も聞かんと、ご飯食べさしとったんかい!



「フッ、我が名は【魔王】である。しっかりと憶えておくがよい。」



 【魔王】って名前なんかい!なんやそれ!



「【真央】君か?かわいい名前やな。マオ君て呼んでええか?」



 ん?なんか本人のイントネーションと違う気がするのは気のせいかな?マオ君なんて呼び方からして、何か勘違いしてしまっているのは間違いなさそう。



「もうええわ!さっさと警察に連絡せな!早急にお引き取り願わねば!」



 言いながら、早速ウチは受話器を手に取った。



「ミヤコ!やめとき!もう夜やさかい、今晩は泊まってもらお。」



 何ィ!正気か、オカン!



「何でや!こんな正体不明の不審者をうちに泊めるんかい!」


「アンタ、なんでそんなムキになっとんの。別に減るもんじゃないんやから、ええやん?」


「いやいや、減ってるやん!特に唐揚げが!」


「唐揚げくらい、また作ったるさかい。それくらい我慢しとき。」


「チクショー!憶えとけよ!今日はこれぐらいにしといたらあ!」



 しょうがないから、今日は引き下がってやる。これで勝ったと思うなよ!



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



《速報!変質者、襲来! byミヤコ》



 自室に戻ってすぐに、INFLUWIREで報告した。



《襲来?家まで来たの? byツグミ》


《嘘谷 byツル》



 嘘つき呼ばわりか!ツルのやつ!

(※嘘谷とはネットミームであり、あまりにも嘘っぽい話等を揶揄するときに使われる。アニメ「おお谷サン!」が由来とされる。)



《来おってん!しかもオカンが買収されとる! byミヤコ》


《お母さん何されたの! byツグミ》


《ついでにオカンが今晩泊めるとか言い出す始末 byミヤコ》


《草生える byツル》


《ということは今も家にいるの? byツグミ》


《せやねん もういやになるわ byミヤコ》


《だったら明日会いに行こうかな byツグミ》



 やめとき、つぐみん。絶対後悔するで。かかわらんほうがええ。つーか、つぐみんには近よらせんようにせんと。



《まあ、ということで疲れたから もうねるわ byミヤコ》


《じゃあまた明日ね おやすみ byツグミ》


《歯ァみがけよ! byツル》



 あーホンマ疲れた。はよ、寝よ。

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