第2話 YOU DIED!
「ただいま~。」
「おかえり。なんや、ミヤコ、なんか遅かったやん?」
タニシの散歩から帰ってきたウチはオカンに帰宅を告げた。案の定、遅くなったことについて聞かれた。
ウチの名前は平城京。高校一年生。へいじょうきょうじゃなくて、ひらしろみやこ。この名前のせいで、ヘイジョウキョー呼ばわりされる。絶対、悪乗りで名付けたやろ、オトン。そして、なんで止めんかったんや、オカン。
「めずらしやん。よりみちでもしとったんか?」
オカンの質問を聞き流しつつ、リビングのソファにドカッと座り込む。
「あんな~、聞いて~や。ウチ、変質者に絡まれてん。」
「変質者!アンタがか!アンタみたいなんに絡む変質者ってどんだけやの!」
「アンタみたいなんて、なんやねん!失礼な!か弱い娘に向かって何を言うとんねん!これでも、びしょうじょ且つじょしこーせーやぞ!」
「せやったっけ?」
「おい!」
いつものボケとツッコミのやりとりだが、娘を“アンタみたいなん”呼ばわりするとはどういうことか!変わりモンなのは認めるが、もう高校生やぞ。ええかげんにせーよ、オカン。
「んで、変質者ってなんやの?」
「それはもう、かくかくしかじかで……、」
「さよか。それは大変やったなあ。」
「ちゃう!まだ、何も言うてへん!」
アカン。いつものオカンのペースだ。このまま続けてもボケたおされる。今はやめとこう。
「もうええわ!このまま泣き寝入りしたるわあ!ひ~ん。」
ウチは立ち上がり、ウソ泣きしながら、リビングを後にした。そのまま、階段を駆け上がり、2階の自室へ向かう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「どああ~!また、やられた!」
自室の反対側にあるお兄ぃの部屋の中から、アホっぽい声が聞こえてきた。また、今人気のゲーム、ブラッドソウルをやってるのだろう。ちょうどいい、腹いせにちょっかいを出してやろう。
「まだ、そんなところで這いつくばっていたのか?」
某漫画の某キャラの台詞を言いながら、お兄ぃの部屋へ突入する。
「ぐあ!なんやお前、邪魔しに来んな!おわ!」
お兄ぃはプレイを持続しつつ、入ってきたウチを牽制する。構わず、横からプレイを見る。
「やっぱ、まだそこだったか?クフフ。」
「うっさい!だまっとけや!」
ウチの思った通り、行き詰まってた。そう、お兄ぃはゲーム下手なのである。ウチ自身もゲームをやっているが、お兄ぃの腕はウチ以下なのである。
「あ~、アカンて。そこは思い切って飛び込まな。」
「せやかて、お前、そないなことしたら、アレがこーなって、アレなことになるやろ!」
普通に聞いてたら、何を言っているのかわからないが、ウチからしたら何を言おうとしているのかは手に取るようにわかった。要するに、ウチも同じゲームをやり込んでいるのだ!
「なんで、そこで回復する!……って、あ~あ。」
「ぎああ!やられた!」
言わんこっちゃない。再び、無残にやられた。YOU DIED!これを何度も画面に表示させているのだろう。全く進歩がない。
「ちくしょー。もう一回だ、もう一回!」
「チョイ待ち。その前にウチの話を聞け。かわいい妹の話くらい聞け!」
せめて、お兄ぃにでも話を聞いてもらわねば。気が収まらぬ!
「なんや!ゲームのアドバイスなら聞かんぞ!」
「ちゃうわ!聞いてーや。ウチ、変質者に遭遇してん!」
その瞬間、部屋には数秒の沈黙が流れた。放置されたゲームの環境音だけがその場を支配した。
「なんて?もっぺん言うてみ?」
「せやから!変質者に遭遇してん!」
「ん?お前とうとう、頭がアレなことになったんかいな。」
そう言ってウチの頭を指さし、指先をクルクル回した後にパーのジェスチャーをした。
「どういう意味やねん!」
「どういうって?……クルクルパーやん!」
お兄ぃの手をつかみ、力ずくでお兄ぃ自身に手の平を向けさせる。
「それはお兄ぃのこと、ちゃうんかあ!頭がパーな癖に!」
……ギリギリギリ。実際に音はしていないが、音が聞こえそうなくらいに、ウチら兄妹は指先の向きを巡る攻防を行った。
「こんなかわいい妹をキ○○イ呼ばわりとは、ええ度胸しとるやんけ!」
「……え?かわいい?〔皮〕がいい?革ジャンかお前は?」
「誰が革ジャンや!アホ!」
いくら強がろうと、さすがにお兄ぃの腕力には勝てなかった。ちくしょお、ゲームなら百回ぐらい余裕でコロコロしてやれるのに!
「……ヘン!今日はこれぐらいにしといたるわ!」
ウチは仕方なく負けを認めた。こないなアホみたいなことやってられっか!
「……もうええわ!アホアホアホ!アホお兄ぃ!」
勢いよく、お兄ぃの部屋を飛び出た。
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