【ネタバレ有り】ゲーム『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』の感想です。

杉林重工

【ネタバレ有り】『ポケットモンスター バイオレット(スカーレット)』の感想です。

※ただの架空のお話です。『ポケットモンスターシリーズ』初心者の架空の登場人物が、ゲーム『ポケットモンスター バイオレット』の感想を喋るだけです。


「ティアキンが全然終わらねえ」


 真血出端留(まぢで はしる。十六歳。罪斗罰高等学校二年生。男性。四号文芸部部長)はその狭い部室において、極めて猫背の姿勢でちゃかちゃかと、ニンテンドースイッチを遊んでいた。


 その対面に座る不滅田為子(ふめつだ ためこ。十七歳。罪斗罰高等学校二年生。女性。四号文芸部副部長)もまた、自身の掌中の中のニンテンドースイッチをがちゃがちゃと唸らせている。


「終わらない。全然このゲーム終わらない。終わる気配がない。無限に続く。やることがある。できることが多すぎる。スクラビルドウルトラハンドモドレコゾナウギアミニチャレンジシーカーブンメイドコイッタ」


 まるで呪文のように端留は言った。その様子を見、こっそり為子は立ち上がった。


「いいんですよ。端留さん。端留さんは、一生そうやってゲームに噛り付き、原稿も進めず最新の流行の文章、シナリオ論などとも無縁の世界で、自分の世界に閉じこもり、始まりもしない自身の妄想の物語の中で、あれは自分が先に考えたのに、自分ならこうしてもっと面白くするのに、などと幻想しては、結局何もなしえず何にもなれない己を呪うといいのです」


 でも、わたしがどこまでも、闇の中まで必ずお供いたします、と、不滅田為子は彼の背後に回って耳打ちした。


「いつからこの部活はゲーム部になったのですか」


 その様を、ちょうど四号文芸部の部室に入ってきた生徒、向風心炉(むかいかぜ こころ。十五歳。罪斗罰高等学校一年生。女性。四号文芸部部員)はそう指摘した。


「違う、ここは四号文芸部だ、阿呆が」


 端留は否定した。


「どうみても遊んでますよね。失望しました」


 そういって心炉は椅子に座り、鞄から『三体』を取り出し、読みだした。


「まあまあ、向風さん。ゲームからの経験だって、文芸に活かせますよ」


 そういいながら、再び為子は端留の体面に座り、ニンテンドースイッチを構える。


 読書を邪魔する話し掛けに、少々心炉は眉間にしわを寄せたが、


「それはわかりますが、不滅田先輩は本音をどうぞ」と促した。すると、ふふ、と為子は微笑んだ。


「こうしてゲームばかりして原稿を一切進めず、ただ遊んで時間を消費している端留さんを見ていると、ふふっ、沸きます」


 びびびびび、と異音を発しながら為子は口を押さえた。突如怪音を奏で始めた先輩に、心炉は露骨に顔をしかめる。


「真血出先輩もいい加減、誰が敵で誰が味方か区別したほうがいいですよ」


「今の俺にとって、ティアキンが敵なのだ」


「わけがわかりません」心炉は首を振った。


「端留さんは『ポケットモンスター バイオレット ゼロの秘宝』を遊びたくて仕方がないんですよ」


「遊べばいいじゃないですか」


「向風さん、この端留さんが、ゲームを中途半端な状態で置いておくわけがないでしょう。お部屋はあんなに汚いのに、変なところが潔癖なんです」


 例えば、本棚は本の高さ順に並べているんですよ、といらない情報を為子は追加した。


「その通りだ。俺はティアキンをクリアしないと『ポケットモンスター バイオレット ゼロの秘宝』が遊べないのだ」


 がちゃがちゃがちゃ、と端留がキーを走らせながらそう言った。


「ティアキンって、『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』のことですよね。発売から大分経っていませんか」


「馬鹿め、面白過ぎるから終わらんのだ」


「そんなにですか」心炉は目を丸くした。


「そうだ。全然炭鉱夫が終わらん」


「なんですかそれ」


「『お守り』が出るんですよ」為子は囁くように言った。


「それは違うやつだ」端留がぴしゃりと指摘した。


「最近は『護石』っていうそうですよ」優しく為子が反論する。


 だが、心炉には全部が全部、何もわからなかった。その様子を察し、真血出端留は言う。


「ゲームも遊べ。四号文芸部だからと言って、本を読んだり文章を書いていたりするだけでは駄目だ。そんな奴は退部だ」


「横暴だ」心炉は声を上げた。


「それに、ポケモンだって、一年ぐらい前じゃないですか。何故今更」


 確か弟が遊んでいた気がするんですがあ、と心炉は言った。


「違う。追加でダウンロードコンテンツが出るのだ。それが、『ポケットモンスター バイオレット ゼロの秘宝』だ。俺はそれを楽しみにしている。約一年ぶりの追加コンテンツだからな」


「ははあ、そうですか。ポケモンなんて、なんか久しぶりですね」


「阿呆が。なんやかんやで大体毎年新発表が出ている気がするんだからな」


「曖昧な」


「やめてあげてください。実は端留さん、去年買った『ポケットモンスター バイオレット』が初めてのポケモンなんですよ」


「え。嘘」


 そんな日本人が、向風心炉は驚いた。


「そんな人が大体毎年新発表とか言ったんですか」


「うるさい。いいじゃないか」


「いいんです。個人の感想なのですから」為子が擁護した。


「はいはい、わかりました」少々異論はある。歴然とした事実風に感想を述べるのは誤りではないか、と。だが、それよりも、心炉の胸の裡にあったのは、弟とひたすら遊んだポケモンの思い出だった。


「でも、確かに小学生の頃、わたしもポケモンで遊びましたし、アニメも見ていたので、真血出先輩の気持ちはわかります。ポケモンって大体みんなかわいいですし、ジムリーダーを倒していく達成感もたまりません。図鑑を埋めるのも、ポケモンによっては苦労しますが面白いですよね」


 心炉は理解を示した。彼女とて、常に他者へ噛みつくばかりではない。共感も理解もある。


「ホワイト? が初めてだったと思います。なんだか少々ストーリーが重かった気もしますが、楽しく遊んだ気分だけはまだ覚えてます。どちらかというと、X? とかムーン? で弟の対戦相手をしてあげた記憶の方が強いですけど。でも、つまらない、なんてことはなかったですよ。特に、頑張って考えた戦術がぴたっと嵌った時なんか最高ですよね。わざマシンでいろいろとっかえひっかえしたり、お気に入りのポケモンや、ずっとスタートから育てていたポケモンを断腸の思いで切って、カプ……なんとかに入れ替えたりしたのもいい思い出です。ポケモンを楽しむ気持ちは理解できます。そういうことですよね、先輩」


 いろいろと記憶を掘り返そうとしたが、何よりも弟にボコボコにされた怒りで、ネットの情報を当てにわざ構成をやり直し、対戦をひたすら繰り返した記憶しかなかった。あの小生意気な弟へ、姉の強さをわからせてやらねばならなかったのだ。


「いいや、違うね。俺には、本当にポケモンを楽しんでいる自信がない」


「殺すぞこいつ」


 急にはしごを外され、心炉は露骨に怒った。


「なんなんですか、こいつは」


 心炉は不滅田為子へ抗議した。


「仕方ないのですよ、向風さん。端留さんは、バイオレットが初めてのポケモンなのです」


「さっきも聞きました。それがどうかしたんですか」


「『ポケットモンスター バイオレット』は、『オープンワールドでシンボルエンカウント方式のコマンド選択RPG』なのだ」真血出端留が、沈んだ声で言った。


「呪文か?」


「ちがわい」端留が吠えた。


「俺だって、ポケモンというゲームが本来、草むらをうろうろ、ひたすらうろうろして、ポケモンに遭遇したと思ったら、目当てのポケモンと違う! 最悪だ! と、ぶちぎれるのが醍醐味のゲームだとは理解しているのだ」


「横暴だ。それだけではありません。道中、真っ直ぐ歩きたいだけなのに、次から次へといらないポケモンが引っかかってぶちぎれる要素もあります」


「え? そうなのか?」


「そうです」


「だとすると、『ポケットモンスター バイオレット』 にはその両方のぶちぎれがない。いや、突っ込んでくるうざい魚とかもいたが、基本的にはフィールド上のポケモンが常に見えるから、対手が目当てのポケモンかどうかはすぐにわかるし、それ目掛けてモンスターボールを投げたり、避けて移動したり、わざとぶつかったりすれば、戦いたいポケモンを選択できるんだ」


「なんだか変わりましたね」


 あっさりとした感想を心炉は言った。


「フィールドもオープンワールドだ。オープンワールドゲームの楽しみといえば、はるか遠くに見える謎のランドマークを、ただただ好奇心で追いかけたり、意外なところで遭遇する強敵から逃げ回ったり挑戦したり、あるいは適当に喋った道行く人との間で発生するミッションを解決することがあると思う。そういうところにプレイヤーだけのゲーム体験が、あるいはドラマが生まれていくものだが、 『ポケットモンスター バイオレット』 については、これをフィールド上をうろつくポケモンがすべて賄っているのだ」


「は、はあ」心炉は困惑した。急に語りだす先輩に薄らと恐怖心を抱いた。


「心炉さん、実は端留さんはゲームが大好きなんですよ。中でも『レッド・デッド・リデンプション2』がお気に入りです」


「そうですか」なんだかよくわからないゲームの名前を出されて、心炉は頷くことしかできなかった。


「遠くにいる見知ったポケモンを追いかけまわすのも楽しいし、知らないポケモンにとりあえずモンスターボールをぶつけるのもいい。どこでみつけたとか、あの時はレベル差があって苦労したとか、それだけで、プレイヤーの中に勝手にドラマが生まれるのだ。シンプルだが、決して先行のオープンワールドゲームに引けを取るものではない。むしろ、あれだけ単純な仕組みでこれだけのドラマが作られていることに俺はとても感心している」


 端留はニンテンドースイッチをおいて、一人腕を組んで天井を見上げた。


「まあ、楽しそうなことはわかりました」


「それに、遠目から見て同種のポケモンが群れている姿も、まるで未知の生き物の生態を覗き見ているようでとても興味深い。ただフィールドにいるだけでも物語がある。これは得難い経験だった」


「そうですか」興味なさげに心炉は言った。


「故に、思うのだ。これ、ポケモンの正しい楽しみ方か? と」端留は唸り始めた。


「確かに、少々雰囲気は違うかもしれませんが、楽しいならいいじゃないですか」そろそろ読書に戻ろうかと、心炉は『三体』の栞を探った。


「いいや。俺は正しく、胸を張ってポケモンを遊んだと言ってみたいのだ。なにせ、『ポケットモンスター バイオレット』では、タダでポケモンセンターを使わせてくれる。これでは醍醐味を味わえていないのではないか」


「それは昔からです」


「嘘だろ」端留は勝手にショックを受けた。


「一個二百円のモンスターボールを二千円分買ったら、いくつボールがもらえる?」


「それはシリーズに寄りますね」


「じゃあ、ミライドンに乗って移動できるのは?」


「一応、ずっと昔から自転車がありますし、シリーズによってはポケモンに乗って空も海も」為子がこっそり言った。


「では、ミライドンを一度倒すと、なんか再登場するのにやたらと時間がかかったのはどうなんだ」


「あれは伝統です」


 伝説のポケモンはだいたいあんな感じですよ、と為子が教えた。


「伝説のポケモンはきちんとセーブしてからやるんですよ。あれ? 昔のポケモンって本当に取り返しつかないのもあるんでしたっけ」やれやれ、と心炉は仕草する。


「オートセーブがあるゲームで、セーブアンドロードを推奨するのはどうかと思うぞ」端留は怒気を込めた。


「それは仕方ありません。オートセーブのない時代の名残でしょう」産まれてないからわかりませんが、と不滅田為子が言った。


「それに、最初に選べるポケモン、そのうちどこかで出会うだろうと思って気にしていなかったが、クリアしても全く出てこないのも間違ってるだろ。取り返しのつかない要素だとは思わなかった」


「いいえ。そんなことはありませんよ、端留さん」


 急に為子はそう言って、端留の手を取った。


「こうして、わたし達はクワッスとニャオハでつながれたではありませんか」


「気色の悪い表現しないでください。ポケモン交換しただけじゃないですか」


 ぶっきらぼうに心炉は言い、繋がれた二人の手をぱしり、と国語のノートで叩いて剝がした。


「でも、確かに図鑑埋めのとき助かった。なんかもやもやするからな。だけど、なんでホゲータまで持ってたんだ? まさか、二つ買ったのか?」


「そんな、まさか……兄が、兄がいるんですよ。兄からもらったんです。そうです、そんな感じです」


「そうだったのか。なら納得だ」


「本当に?」心炉は疑義を呈したが、誰も拾ってはくれなかった。


「それともう一つ、シナリオが良かった」


「シナリオ?」


「そうだ。三つメインシナリオがあった。徹底的に王道を行く内容で、ともすればどれもあまりに単調で先が読めるありきたりなものだったが……」


「端留さんも多少ひねくれているのです。もっと正直に感想を言ってはいかがでしょうか。ただの嫌味な人に見えますよ」


「うーむ。そうだな。それが……正直言って、泣いた。っていうか、宝物のクダリはどのルートでも泣くに決まってるだろ。みんな、それぞれに大事な宝物があるんだ」


 嘘だろ、という言葉を心炉は頑張って飲み込んだ。端留の目が潤んでいることに気づいたからだ。


「あと、今、急に思い出したんだが、ペパー君急に強くなりすぎてないか? 別の意味で泣かされたんだが」


 いきなり真顔になって端留は言った。


「びっくりしましたよね。でも、それで傷ついた端留さんが一週間、ニンテンドースイッチを起動すらしない様子は惨めで素敵でしたよ」


 あんなに幸福な時間はそうそうありません、と意味の分からない回想を不滅田為子は始めた。


「とにかくいいシナリオだった。でも、全シリーズがこの水準だと思って、他のにも手を出そうとしたのに、不滅田に止められたんだが」


「それは、その……」不滅田為子は気まずそうに目を伏せた。


「いえ、否定するわけではないのですが、わたしもあの青春全開の『ポケットモンスター バイオレット』のシナリオには驚きました。宝物をテーマに、キャラクターそれぞれが成長していく様は見事です。それに、チリちゃんとアオキをはじめとして、かなり濃い目に四天王同士が会話したりするのもなかなか新鮮かと。そういう意味で、過去作を目当てに漁るのはまた違うと思った、だけ、です。だって、ポケモンって、そもそもそういうゲームじゃ……」


「また不滅田先輩は人の顔色を窺いますね」つまらなさそうに心炉は指摘した。


「今の時代、何が起こるかわかりませんから」つん、と為子はそっぽを向いた。


「大丈夫です。みんな他人の妄言に付き合うほど暇じゃないですよ。そんな情けない人、この■■■■にいるわけがありません」


「正直、 『ポケットモンスター バイオレット』 は確かに楽しかった。滅茶苦茶面白い。だが、その要素は、どうもゲームの方式といい、シナリオといい、俺が楽しんだ部分は、本来のポケモンではなかったように思う。これが心残りなのだ。俺は『ポケットモンスター』を、本当に楽しんだと言えるのだろうか」


 そういって、端留は俯いた。ニンテンドースイッチのじっと見つめ、まだまだ終わらないゾナウエネルギーの上限解放に絶望していた。まさか、二週目があるなんて想像もしていなかったのだ。その様子を見、


「びびびびびびびび」


 と、悲鳴とも歓喜の声ともつかない不気味な音を不滅田為子は立て始めた。心炉は再びぞっとした。


「嗚呼、いいんですよ、端留さん」


 為子は端留の後ろに再び周り込むと、耳元で囁いた。


「そうやって、三歩進んだと見えて二十歩下がり、前を見ては絶望してください。もちろん、後ろにも足元にも、端留さんが、安心して背を預ける場所は、わたしを置いて、ないのです。びびびびびびびび」


「あの、マジで俺がこの先、ゲームばっかしてても養っていただけますか」


 とても気持ち悪いことを真血出端留は言い始めた。


「いくらでも、一瞬の享楽を愉しんでください」


「steamで二束三文のゲームを買っては二時間以内に返金申請する屑になり下がったとしても」


「購入するときの二束三文、このわたしにお任せください」


「カクヨムにうっすいソシャゲのシナリオ以下の駄文を投稿するだけになっても」


「少々語弊がありますが、書き続けられるだけきっと、偉大でしょう」


「それすらやらず、毎日あれはクソゲー、これもクソゲーと文句を垂れ続けても」


「例えそうなって訴えられても、どんな情報開示請求からもわたしが守ります。示談交渉とお金はわたしから出します。一緒に裁判所の向こうまで行きましょう」


 ついに二人の世界に旅立ち始めた。心炉はため息をついた。


「だっさ。髪の先ほどでも心配したわたしが阿呆でした。愚鈍です」


「なんだと」


 一切動かず端留は言った。


「ポケモンなんて、そんなものですよ」


「どういうことですか」


 為子も不思議そうに言った。


「ポケモンなんて、大なり小なり毎回新しい要素やルールが加わるものじゃないですか。ホワイトとX、ムーンですら大分違うのに」


「まあ、そういう側面もなくはないですが、異論も……」


「それに、ですね」心炉は為子の声をかき消すように言った。


「そもそも毎回毎回だいたい百匹近くの新しいポケモンが入ったり、たまに減ったり見た目や性能を変えて入れ替わったりやっぱり増えたりしているんです。どれもこれも同じとか違うとか、ポケモンとは何か、なんて考えるだけ無駄ですよ。みんな、ポケモンをやりながら全然違うゲームをしているようなものです」


「そう、なのか?」恐る恐る端留が顔を上げた。


「異議あり! 大ありです!」為子が手を挙げた。だが、無視される。心炉はにやりと笑んだ。


「ですから、このわたしがポケモンの本当の楽しみ方を教えてあげます。一週間頂ければ、 『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』 を攻略してみせましょう。そして、真血出先輩はわたしとポケモンバトルで雌雄を決するのです!」


 そういって、向風心炉は立ち上がり腕を組んだ。


「ただのポケモンバトルではつまらないので、勝ったほうが相手の言うことを一つ聞く、というのはどうでしょうか」


 この部室で二度と喋らない約束を取り付けてやる、と心炉は鼻を鳴らした。


「やめてください、四天王戦で初めて見たステルスロックに泣かされていた端留さんには早すぎます!」為子が絶叫した。


「いいや。構わん。一年遊んだ俺の実力、わからせてやる」自信たっぷりに端留が言った。


「駄目です、ポケモンは毎回、メガシンカやZワザ、ダイマックスなどの新要素こそあれ、戦術はだいたい共通しています。これは罠です! どうみても最低、向風さんはホワイトとXとムーンをやっています。しかも弟さんがいるため、おそらく対戦慣れしています。危険です!」


 嗚呼、わたしの端留さんが、と為子は悲鳴を上げる。


「心配するな、いつもこっそり俺のことを舐め腐っている下級生にわからせるいい機会だ。徹底的にやってやる」端留は息巻いた。


「エクスレッグにニシジマなんて名前つけて一軍で使っている端留さんには無理ですよ」為子は項垂れた。


「では、こうしてはいられないので」


「お待ちください!」


 為子が叫んだ。だが、それを背に、さっさかと心炉は部室を出て行ってしまった。


 二人だけの部室。不滅田為子は硬直した。珍しい光景に、真血出端留はじっとその姿を見つめた。そして、思い出したように再び、ニンテンドースイッチに手を掛けた。ブループリントもそうだが、まだまだ賢者の遺志も集めなくてはならない。


「あ、そうそう」


 急にドアが開き、再び向風心炉が顔を出した。


「ところで、お二人はスカーレットとバイオレット、どっちを買ったんですか?」


「二人ともバイオレットだ」


「馬鹿でしょ」心炉は目を丸くした。


「コライドンとミライドン、必ず交換しましょうね!」

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【ネタバレ有り】ゲーム『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』の感想です。 杉林重工 @tomato_fiber

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