第5話

さざ波の音をしばらく堪能する。

このままウチに居座る気配を察した俺は、じゃあちゃんと説明しないとな、と考えていた。

そこへ、ひんやりとしたもの傍に感じる。

真黒な瞳と目が合って、幸せな気持ちが胸一杯に広がる。


「…」


「!!!???」


「お帰り」


「…」


ちゅって頬にキスされたのでお帰りのキスをする。

潮の香り、愛しいひとの味、つい堪能してしまう。


「あ?え?え?E?」


相棒が混乱している。

そんな、驚かなくとも。

まぁ、驚くか。


「どうだった?」


「…」


俺の問いかけに釣果を見せびらかされる。

網一杯の魚介類と満面の笑み。

可愛い。

可愛くて辛い。


「すごいな、アルテ!今日は食べ盛りが一杯居るから助かるよ」


「…」


するっと腕に絡みつく、細い腕濡れた体。

可愛いが辛い。


「え、え?ゼン、ソイツ…」


驚愕の顔を浮かべたまま硬直する相棒に「ああ」説明をちゃんとしないとなってアルテと目を合わせる。

可愛いアルテ、にこっと微笑み俺に身を寄せた。


「紹介するよ、この子はアルテだ。こっちに来て色々と世話をしてくれた恩人なんだ」


「おん、じん?」


「ああ、彼は魚人族の特徴無く産まれてしまったようで…けど泳ぎは美しいんだ!魚も貝も上手に捕まえるし!」


「…」


手放しで褒めたらアルテが顔をぐりぐり腕に擦り付けてくる。

可愛いがしんどいよ…。


「ほら、魚人族は声が出せ無い者を海の魔女と取引したって忌避するだろ?そして俺はこの街の新入り…はみ出し者同士、自然と一緒に居る事が増えて…」


ね、ってアルテを見る。

真黒な目が俺を見つめてくれていた。

俺以外見ない、目。

かわいいよぉ…。


「それで、その、結婚したんだ」


お揃いの指輪を相棒に見せつける。

この真珠の指輪は俺達の宝物だ。


「あばばばばば」


「報せようとは思ったんだけど…ごめんな?」


「おぼぼぼ」


なんか相棒が変な声漏らしてる。

やっぱりショックだったか。

俺の結婚は盛大に祝うんだから!が酔った相棒の口癖だったし。


「お、おめー、は、よう…」


「うん」


「それでいいんか?」


「もちろん!最高に幸せだよ!」


恐る恐る、と言った様子で相棒が確認してくる。

もちろん、良いに決まっている。

俺はこの黒髪色白の人族の青年にしか見えない可愛い魚人族のアルテと、今度こそ幸せになるんだ。

隣でアルテも強く、何度も頷いてくれている。

しあわせすぎてつらいよぉ…。


相棒がしばらく放心した後、気が抜けたように床にゴロっと寝そべり、


「オメーがいーなら、いいか…でも、俺は鼻がいーからな?」


納得しつつも警戒は怠らねぇぞって可愛くない事を言うもんだから、俺はこいつめぇこいつめぇって相棒のお腹を久しぶりにわしゃわしゃ撫でまわした。

アルテが嫉妬してその倍ハグとキスをおねだりしてきたので、俺は今後とも相棒の腹を撫でまわそうと思った。












次話より会話形式になります

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