第28話ー4


 朝食を済ませると、リュカと一緒に旅立ちの挨拶巡りをする為に動き出した。天音も一緒に行く気マンマンのようで、僕の肩に乗って尻尾を揺らしている。



 まずは予想通り、寝込んでしまったヴァレリーの元に行く事にした。お見舞いも兼ねているから、アイリにリンゴを剥いて貰って皿に乗せ籠に入れて持ってきた。


「昨日は兄さん、かっこよかったよ! ハルルは本当に綺麗だった!」


 褒めまくるとヴァレリーは、ベッドに横たわったまま僕の頭を撫でてくれた。ハルルは何だか恥ずかしそうに、顔を真っ赤にしてモジモジしている。やっぱりハルルは可愛いと思う。


「兄さん、大丈夫? 契約大変だったよね」

「あぁ! アレティーシアは優しいな!」


 いつもなら僕を見ると、飛びかかってくるヴァレリーがハルルに支えられて、ベッドから上半身を起こしただけで立ち上がる気配もないから心配になってしまう。


「やっぱりツラそうだね。アッ! これリンゴだよ。食欲出たら食べてね」


 籠からリンゴの乗った皿を出し、ハルルに渡しておく。


「おぉ! ありがとうアレティーシア!!」

「早く、いつもの兄さんに戻ってね! ハルル兄さんの事よろしくね!」

「は! はい! も……もちろんっです!」

「じゃ! 2人共またね!」

「また会おう」


 手を振って部屋から出る。




 次は、ルデラさんとフィンさんとユラハのいる部屋に向かう。


「アレティーシア! 昨日は見違えるほど美しかったぞ! リュカデリクも様になっておったしな!」

「えぇ。王になるに相応しい輝きも見ることが出来ました」

「本当に結婚しちまったんだなぁ! でも本当凄く可愛かった! リュカもかっこよかったしな!」


 部屋に入った途端、3人から大絶賛されてしまい少し照れ臭くなる。だって今までは男装の時しか会ってなかったからね。


「ルデラさん、フィンさん、ユラハ、ありがと!」

「ありがとうございます」


 内心ドギマギしている僕の手を、リュカが自然なしぐさでソッと握る。


「ククク! 仲睦まじくて何よりだ!」


 ルデラさんがニヤニヤしながら僕たちを見る。そんなルデラさんをフィンさんが「良い大人が煽らないでください」と嗜めてくれた。


「もう黄の大陸に行っちまうんだろ?」

「うん。猶予が無いからね」

「元気で過ごせよ」

「ありがと! ユラハも元気でね!」

「あぁ! またな!」

「またね!」


 ユラハが、リュカが握っている反対の方の僕の手を握ってきた。そして、ぎこちなく微笑んだ。泣くのを我慢してるのが分かる。


「ワシらも、いずれ会いに行く!」

「道中、気をつけて行ってくださいね」

「待ってる! またね!」

「必ずまた会おう」


 きっとまた会えるから「またね」で良い。いや、それよりも”「またね!」が良い”んだ。


 その響きの方が、希望が持てるような気がするからね。




 部屋を出るとルルカが、廊下の壁にもたれて僕たちを待っていた。


「挨拶が終わったら中庭に来て欲しいのじゃ」

「分かった。必ず行くよ。待っててねルルカ」

「うむ」


 ルルカと後で会う事を約束してから、最後に両親のいる部屋へ向かった。





 ノックをすると、母の世話係のソフィがドアを開けて笑顔で迎えてくれる。


 部屋の中に入ると、窓際で母さんとルシェリアさんがテーブルで紅茶を楽しんで、父さんとアラディスさんはベッドの上で胡座をかいてチェスをしながら談笑している所だった。


「おぉ! お前たちも来い」

「いらっしゃいな」


 リュカは僕に「また後でな」と言って、父さんたちの話に混じりに行った。男同士の話もあるのだろう。


 僕は母さんたちのいるテーブルに行って、ソフィさんに椅子に座らせてもらった。


「このあと出発するのよね?」

「はい」

「もう少し貴女とお話しがしたかったわ。けれど状況が切迫してますものね」


 ルシェリアさんは、頬に手を当てて残念そうに溜息を漏らす。


「でも会えなくなる訳ではありませんから、落ち着いたら母様と一緒に遊びに来てください」

「そうね。そうしようかしらね」

「楽しみに待ってます」


 僕がそう返事をすると、ルシェリアさんは母さんに「本当に良い子で可愛らしいわね」に言っているのが聞こえた。母さんはその言葉に嬉しそうに誇らしそうに「私の娘ですもの当然ですよ」と返し悪戯っ子のように微笑んだ。


「貴女が生きて、わたくしたちの所に帰ってきてくれたのが本当に嬉しいわ」

「そう言えばルシェリアさんは、未来が見えるって言ってましたよね。どのように見えていたのですか?」


 初めて会った時は、はぐらかされてしまい聞けなかったから気になっていたんだよね。


「私もそれは気になりますね。ルシェリア聞かせてくださいませんか?」

「……。そうね。解決している今なら大丈夫かしらね」


 僕だけじゃなく、母さんにまで聞かれたら、ルシェリアさんも話さない訳にはいかなくなってしまったみたいだ


「私が見た未来は、この世界が崩れて、アレティーシアが亡くなってしまうものでした」

「そっか。だから初めて会った、あの時は何も教えてくれなかったのですね」

「えぇ。貴女にも、リデアーナにも言う事が出来ませんでした。ごめんなさいね」


 申し訳なさそうにするルシェリアさんの手を、母さんが優しく包み込んで首を横に降る。


「謝らなくていいのですよ。アレティーシアは今こうして生きているのです。むしろルシェリアが見た未来が、変わった事を喜ぶべきだと私は思います」

「そうだよ! ルシェリアさん! それにこれからも僕は頑張るつもりだから見てて欲しい」


 思わず、いつもの口調に戻ってしまったけれど、母さんたちは怒ったりはしなかった。


「ありがとう。リデアーナ。それとアレティーシアの作る国を楽しみにしてますね」


 ニコリと、ルシェリアさんは微笑みを浮かた。


 その後は和やかに3人で紅茶を楽しんだ。ベッドの方をチラ見すると、父さんとアラディスさんの2人にリュカがチェスの勝負を交互に挑まれているようだった。


「最後はルルカに会いに行こう」

「そうだな」


 母さんたちの部屋を出ると、すでに太陽が真上にまで昇っていた。





「もう昼だね」

「あぁ。急ごう」


 中庭に向かうと、ルルカがドラゴンにもたれて、うたた寝しているのが見えた。僕たちが芝生を踏み締め近づくと、目を擦りあくびをしてから立ちあがった。


「起こしちゃった?」

「いや、大丈夫なのじゃ。それより話があるのじゃ」


 ルルカは別れの挨拶では無くて、真剣な顔で話があると言ってきた。何か大変な事でも起きたのかな? 緊張して喉が、ゴクリと鳴ってしまう。


「そんなに緊張しなくともよいのじゃ。ただ妾たち魔族も黄の大陸に一緒に行く事にしたのじゃ」

「そっか! 黄の大陸はルルカたちの故郷なんだよね?」

「そうなのじゃ。だから帰るなら今が良いとバティストと話し合って決めたのじゃ」

「でもハルルはどうするの?」

「ハルルにはヴァレリーがいるのじゃ。だからもう心配はいらないのじゃ。妾の街の住人も、この大陸に残る者たちもいるから、きっとさびしくはないのじゃ」

「もう決めたんだね」

「うむ! 長い間、故郷に帰りたいと思っていたのじゃ。だからアレティーシアと行くと決めたのじゃ!」

「そっか。じゃあ、これからもよろしくね! ルルカ」

「よろしくなのじゃ! あと小旅行になってしまうが、いつかきっと約束も果たしたいのじゃ!」


 ニカッと白い歯を見せてルルカは笑った。色々な綺麗な景色を見に行く約束をルルカは覚えてくれていたようだ。


「うん! 楽しみにしてるね!」




 1時間後の、出発の時に中庭に再び集合することにして、一旦お昼ごはんを食べに部屋に戻った。

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