第28話ー3
今日は、とにかく早朝から慌ただしい。なにせ僕たちと、ヴァレリーたちの結婚式を、まとめてやってしまおうと言うのだから、城全体がバタバタしている。
「なんか緊張してきた。ところで兄さんたちは、どうしてるんだろ? 姿を全く見ないんだけど?」
「練習を頑張ったので大丈夫ですよ。それからヴァレリー様はハルル様と、ご一緒に昨夜遅くにお城に入られましたよ」
「アイリが大丈夫って言ってくれると安心できるよ。兄さんたち夜に帰って来てたんだね」
僕も早朝に起こされて、贅沢に湯浴みをしてから、今はアイリに手伝ってもらって白いドレスを着替えてる最中だ。
ちなみに白い生地に、黄色の糸で草花が細かく刺繍され、薄い黄色のリボンが腰に付いている美しいドレスだ。髪の毛は緩めに編み込んでサイドにたらし腰のリボンと同じ黄色の花の髪飾りを付けた。
「どうですか?」
アイリが姿見を僕の目の前まで持ってくる。
「冒険者風の格好が多かったから、まるで別人みたいに見える。でも凄く綺麗! ありがとアイリ」
「ふふふ! 本当にお綺麗ですよ。あと天音ちゃんも、おめかししましょう!」
そう言ってアイリはポケットから黄色のリボンを取り出して、ベッドの上に座り僕たちの様子を見ていた天音の首に緩く結んだ。
「僕のリボンとお揃いだね! 天音!」
「うにゃん!」
天音も嬉しそうに鳴いた。
「午前中の結婚式が、終わりましたらバルコニーでお披露目することになってます」
「え? もしかして何かしゃべるの?」
うわぁ。そういうの苦手なんだよなぁ。
「いいえ。手を振るだけで大丈夫ですよ」
「良かったぁ。そうだ! こんな時って街の様子はどうなっているの?」
「昨日から、お祝いムードで大通りに屋台が並び、楽器を持った人々が音楽を鳴らし、おめかしをした女性たちが踊って、まるでお祭りのようですよ」
お祭りと聞くと、なんだか街に遊びに行きたくなってしまう。
「夜こっそりリュカデリク様と見に行って来てはいかがでしょう?」
「え!? 行ってもいいの?」
「変身術をかけて、お2人で行くのでしたら大丈夫ですよ」
「わぁ! 楽しみだなぁ!」
もはや結婚式より、お祭りの方に気持ちが動いてしまう。
コンコンコンコン!!
ドアがノックされアイリが開けると、白いタキシードを身にまとったリュカが入ってきた。僕のドレスによく似たデザインで素敵に着こなしている。
「そろそろ行こうか! アレティーシア」
「うん!」
リュカに手を差し出され、その手を握る。
大広間へ続く扉の前には、既に兄さんとハルルが寄り添うようにして待機していた。ちなみに兄さんたちは、うすい水色系のタキシードとドレスだ。2人共、身長があり大人って感じの雰囲気がする。
「あぁ! 俺のアレティーシア!! 今日は一段と可愛いよ!」
僕が来たことに気がついたヴァレリーは、突進してきて抱きしめてくる。
「兄さんもかっこいいよ! でもさ、僕はもうリュカのお嫁さんだから、兄さんのじゃないよ!」
「!!? 俺のではないだと!? 何という事だ!! アレティーシアァ〜……」
ヴァレリーは泣き崩れリュカを鬼のような形相で睨む。その後ろでハルルが苦笑いをしてるのが見えた。
「天音は僕の肩にいてね」
「にゃん!」
黄色のリボンを揺らしながら天音が肩に乗る。
「それではお入りください」
準備が整った所で、大広間の扉が、正装を身に纏った兵士たちが開けた。
パチパチパチパチパチパチ!!
パイプオルガンによる荘厳な音楽と、会場を埋め尽くす人々の拍手で、僕たちは迎え入れられた。
リュカの手に引かれ、ゆっくりと壇上まで上がっていく。
視界の端で、ルルカやルデラさんやフィンさんやユラハたちの姿も見つけて嬉しくなる。
母さんや親族の長い話を聞いて眠くなりかけた頃に、誓いのキスだったんだけどリュカは僕の額にするだけに留めた。たぶん僕がまだ6歳の子供だからだと思う。
隣を、ソッと伺い見ると兄さんたちは、しっかり抱き合うようにして熱烈なキスを披露していた。
パチパチパチパチパチパチ!!
その後は恒例の指輪交換、僕からは銀色の指輪に青い色がはまったものを渡した。リュカからは銀色の指輪に小さな黄色の石が可愛らしいものをはめて貰った。
パチパチパチパチパチパチ!!
最後は女王である母さんから、ヴァレリーの頭にへ王冠が乗せられ、父さんからはマントを肩にかけてもらっていた。
「新しき王に盛大な拍手と祝福を!!」
パチパチパチパチパチパチ!!
拍手をする人々の間を通り、大広間を後にした。
「終わったぁ〜」
「アレティーシア。まだこれからだぞ! もう少し頑張れ」
「が! 頑張り……ましょう!」
床に、へたり込む僕を見て、兄さんとハルルが励ましてくれる。
そしてリュカが手を差し伸べ立たせてくれた。
「あと少しだ。行こう」
けどそのあと少しが大変なんだよ。なんせダンスが待っているんだからさ。
一度、部屋に戻ってアイリに手伝ってもらいダンス用の赤いドレスに着替える。再び、大広間の前に戻るとグレーのタキシードを着たリュカと、白いタキシードのヴァレリーとピンクのドレスのハルルが待っていた。
大広間の扉が開かれる。緊張でどうにかなりそうな、震える僕の手をリュカが握る。
「揃ったな。では行こう」
ヴァレリーとハルルが先に入って、次に僕とリュカが入って行く。
パチパチパチパチパチパチ!!
大注目の中、音楽が鳴り出し、緊張でぎこちない僕を、リュカが自然な動きでリードしていってくれる。最後の3曲目にもなると僕も慣れてきて楽しむ事が出来た。
パチパチパチパチパチパチ!!
拍手の中、大広間を後にする。
そしてそのままバルコニーに向かい、城の前に集まっている人々に向けて微笑みながら手を振って全ての日程が終了した。
「今度こそ終わったぁ〜」
「おっ終わり! ましたね!」
僕とハルルが、へたり込むと、リュカとヴァレリーが「あぁ。終わったな」と、言って溜息をついたのが聞こえた。やっぱりみんなも疲れたようだ。
「俺たちは、今から王の継承の儀をする事になっているが、アレティーシアは今からどうするんだ?」
「ん〜……。夕ごはんを食べてから街に出かけるつもりだよ」
「そうか。楽しんでこいよ!」
「うん! ありがと! 兄さんは継承の儀、頑張ってね」
「あぁ。ありがとう。行ってくる。ハルル行こうか」
「は、はい! ま、また、明日。アッアレティーシアさん」
「うん! またね」
母さんたちと、一緒に出かけようと思っていたけど、王の儀式とか他にも色々とやる事があるようで忙しくて、話をする時間すら無かった。
「仕方ないかぁ」
「そうだな。今日は休憩も出来ない感じだな」
「兄さん身体ツラそうだったね」
「王の契約したばかりだから心配だな」
「うん」
僕の部屋に夕ごはんを運んでもらってリュカと2人で食べた。その後は冒険者風の衣装に着替えて、お待ちかねのお祭りにリュカと出発した。
城門の中まで人々が賑やかに歌い踊っているので、変装した僕たちが紛れ込んでも全く違和感がないのが助かる。
「うわぁ! 思ったより凄いね!」
「あぁ。真昼のように明るい。それに賑やかだな」
魔法石が普段の倍以上、道や広場のいたるところに散りばめられ、赤や黄や白、緑や青色と言った、色とりどりの輝きを放っている。
「あの歌っている人、凄く綺麗な声!」
「近くに行ってみよう」
「うん」
広場まで行くと、男たちが様々な楽器を手にして音楽を奏でていた。そしてその中央で、スリットが腰まで入った艶やかな赤いドレスを着た色っぽい女性が1人で歌っている。
ピュィ〜♪
「わぁー!!」
「素晴らしい!!」
「もう一曲頼む!!」
パチパチパチパチパチパチ!!
一曲一曲を歌い終えることに大歓声と拍手が起こる。
「迫力があるね!」
「それに声量もあるから遠くまで響いてる」
広場の端まで声が届いているのだろう。皆んな思いおもいのダンスを歌と音楽に合わせて自由に楽しんでいる。
大通りに向かい歩いて行くと、出店が並び人々が笑いあい酒を飲み、話に花を咲かせる。
「見てるだけで明るくて楽しい気分になる。母さんが守ってきた大陸は良い国だね!」
「そうだな。そしてお前の作る国も絶対いい国になる」
「出来るかなぁ?」
「オレが全力で支える!」
「リュカがいたら大丈夫な気がする!」
リュカの腕に飛びつくと、僕の頭をクシャリと撫でて微笑んだ。
「そろそろ帰ろう」
「うん! 楽しかった!」
カーテンの隙間から細く差し込む日の光で目が覚める。
昨夜は疲れていたせいで、帰ると着替えてすぐに眠ってしまった。
目が覚めると、リュカの端正な顔のドアップがあった。
旅をしていた時に、宿の狭いベッドで一緒に寝たことも沢山ある。今さら見慣れてるはずだったんだけど……。
「やっぱイケメンなんだよなぁ」
結婚式の後だからだろうか? 何となく、いつもの目覚めと違う気がしてしまう。ちなみに一応、初夜だった訳だけど僕が幼すぎて何も起こらないまま朝が来た。
「起きたのか? おはようタキ」
「おはよ! リュカ」
瞼を震わせリュカの目が開く、そして手を伸ばし僕の頬を撫で微笑んだ。何だかドキドキしてしまう。
「そろそろ起きよ」
「そうだな。今日は午前中に、みんなに別れの挨拶をして、午後には出発する予定だからな」
「うん!」
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