第28話ー2


「ドレスが仕上がったそうなので、もうすぐお部屋に届くそうですよ」


 レッスンが終わり、靴を脱いでベッドに座り休憩をしていると、アイリが嬉しそうに報告してきた。そう言えば数日前に、裾の調節とかで仮縫いのドレスを何度か着たんだった。


「もう出来たんだ。凄く早いね」

「王室専属のベテランの職人ばかりですから、腕も確かで作業も早いのだそうですよ」

「そうなんだね」


 王室専属なんてテレビでしか見たことなかった。と言うか、フィラシャーリの城に帰って来てから、初めて知る事が多すぎる。



コンコンコンコン!!


「ドレスが届いたようですね」


 アイリがドアを開けて、女性たちを迎え入れる。女性たちは、お辞儀をしてから大きな木箱を抱え静かに入ってきて、床にその木箱を置き手際よく試着の準備をする。


「どちらのドレスからお召しになりますか?」


 ベッドの上に5着のドレスを、アイリと女性たちが並べる。


「どれも凄く綺麗だから悩むなぁ〜」


 色は5色、赤と黄と紫と青と白。どのドレスも、さりげないフリルと小さなリボンが可愛いし、細やかな刺繍が施された美しい仕上がりだ。靴までドレスの色合いに合わせたものが、それぞれ用意されている。はっきり言って5着とも素晴らしいドレスだと思う。


「1着ずつ着てみたらどうですか?」

「そうだね! 着る順番も決めないとだし全部着てみる」


 アイリに手伝って貰いながら、白、赤、紫、青の順番で着て、女性たちが裾や袖の手直しをして、脱いでを繰り返した。



コンコンコンコン!!


 そして最後の黄色のドレスを着て手直しをしているとドアがノックされた。僕が動こうとしたら、アイリが「私が出ます」と言ってドアに向かう。


「遅くなった。今、良いか?」

「はい。今ドレスの仕上がりをみていた所ですよ。ご覧になりますか?」

「あぁ。それはぜひ見たいな」


 アイリがドアを開けると、リュカが姿をみせた。


 そしてリュカは僕をみて目を見開き固まった。


「どうですか? とても可愛らしいでしょう!」

「リュカ似合うかな?」


 アイリと僕の伺う声でリュカは、ハッとなり少し照れくさそうに微笑む。


「あぁ。オレの姫は、とても綺麗で可愛いな」


 リュカが床に膝をつき僕を引き寄せ、額に触れるだけのキスをして頭を撫でてくれる。


「えへへ。嬉しいな!」


 可愛いと褒められて、なんだか心が浮き立つ。喜びのあまり、クルクル回ってしまう。ドレスの裾がフワリと花が咲くように広がる。


「リュカと話がしたいんだけど良いかな?」

「いいですよ。お部屋の前で待機していますから、お話が終わったらお呼びくださいね」

「うん! ありがとう」


 アイリと女性たちが、お辞儀をしてから部屋から出ていく。





「リュカ里帰りどうだった? みんな元気にしてた?」

「あぁ。相変わらず元気だったよ。明日は祝いに来るそうだ。タキ……いやアレティーシアは、どうだったんだ?」

「そっか。久しぶりだから会うのが楽しみだなぁ! 僕……じゃなかった。私の方は、午前中はダンスレッスンしてたんだけど、今は見ての通りドレスの試着中……」


 慣れない呼び方と呼ばれ方に、お互いがぎこちなくなる。


 沈黙が訪れる……。


「クククッ! 家族といる時は今まで通りの方がよさそうだな」

「あはは! そうだね! 僕もその方が嬉しい!」

「ではそうしよう。これから長い時を一緒に過ごすんだからな」

「うん!」


 リュカが場を和ませてくれたおかげで、いつもの空気が漂い安心できた。


「あのさ。僕は一年前はリュカの逞しさに憧れていたんだ」

「そうだったのか?」

「うん。なんていうか前世の時の僕とは比べ物にならないくらい筋肉があったからね!」

「クロトのように武道はやらなかったのか?」


 鍛えてなかった訳じゃ無いけど、リュカの逞しい筋肉のついた身体をみてしまった後だと、やっぱり鍛えていたなんて言えない気がする。


 だから……。


「やってなかったなぁ。クロトが弓道が出来るのには驚いたけどさ」

「では事が全て落ち着いたらやってみるか? 剣なら教えられる。護身術くらいできた方がいいだろうからな」

「うん! 面白そうだからやってみたい!」


 僕が即答すると、リュカの大きな手で頭をクシャリと撫でられた。



「あとさ。さっきは可愛いって言って貰えて本当に嬉しかった! ありがとうリュカ!」


 一年前は、”可愛い”と言われる事に戸惑いしかなかったけど、今は”この姿も自分なんだ”と、思う事が出来る。だから素直に嬉しいと思ってしまう。


「オレは”お前の魂そのもの”が可愛いと思うし愛おしいからな。何度でも言おう。お前は可愛いよ」


 リュカが僕に、ホワリと微笑みかける。


 喜びが身体を巡り心が歓喜する。


 思わずリュカの服の裾を引っ張る。するとゆったりとした動きでリュカが床に膝をつく。


 僕はその肩に手をおいて肩口に顔を埋めた。爽やかな太陽の匂いが鼻をかすめる。安心感を与えてくれる大好きな匂いだ。


 リュカも僕を抱きよせる。



 しばらく2人で、そんなふうに戯れてからリュカは明日の準備があると言って部屋から出ていった。その後は僕もアイリたちと準備の続きをして1日が終わった。


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