棺桶から始まる異世界も波瀾万丈〜前世で恋人だと思っていた彼女に裏切られた俺は、次に目が覚めたら5歳の女の子に転生していたので、2度目の人生はハッピーエンドを目指すと決めた〜
第27話、帰ったら大変な事が起こってました!
第27話、帰ったら大変な事が起こってました!
桟橋付近には、早朝にも関わらず大勢の人々が集まっていた。それぞれの大陸へ帰る者たちと見送る者たちの姿だ。
「では妾たちは、ハルルの準備もあるから、一足先に帰るのじゃ」
「し! 招待状! おっ送ります!」
「またね! 僕のアレティーシア」
「うん! 結婚式楽しみにしているね!」
「気をつけて帰れよ!」
ルルカたちは、精鋭部隊の乗った茶褐色のドラゴンたちを引き連れ飛び立っていった。
「思ったより、あっさりとヴァレリーは帰っていったな」
「兄さんが、ハルルのドレス姿を早く見たいって言ってたからみたいだよ。あとルルカがコッソリ教えてくれたんだけど、魔族は性別を自由に変えられるけど、完全に変えるには1週間程かかるって言ってたんだ」
「なるほど。その後にドレスを用意するとなると早く動くのは当然だな」
「そう言う事みたい。あと身体にも負担があるから、ヴァレリーがハルルの側に一緒にいて支えたいって言ったんだってさ」
「だから、さっさと帰っていった訳か」
「うん」
これまでは何があっても妹アレティーシアの事が一番だった。けど今はハルルに夢中になっている。ヴァレリーは、ついに妹離れをしたようだ。嬉しいような物足りないような気持ちになる。
そんな僕に気がついてリュカが頭をクシャリと撫でてきた。今の僕にはリュカがいる。だから、さみしくない。
「ワシらもそろそろ戻る。今度会えるのは、お前の兄の結婚式だな」
「みなさん、それまでお元気で!」
「今度は、あたしがそっちに遊びに行くからな!」
「うん! 結婚式でまた会おうね! 待ってるよ!」
「気をつけて帰ってくれ」
ルデラさんとフィンさんとユラハが、手を振りながらグレーのドラゴンたちを引き連れ帰っていった。
「ユラハ、ドラゴンに1人で乗ってたね」
「ずっと練習していた成果だろうな」
「そうだね!」
もう一度、蘇った白の大陸を見る。真っ赤に染まっていた大陸は、今は木々が風で騒めき草花が揺れて、緑豊かな美しい景色を取り戻している。
「僕たちも帰ろう」
「そうだな」
「にゃん!」
桟橋に停泊している、カダさんとミダさんの船に乗り込み甲板へ向かう。
「我らを助けて頂き本当にありがとう! 元気でなぁ!!」
すると一際、大きなリーダーの男の声が響き渡る。
僕とリュカも手を振りながら「みなさんも、お元気で!!」と、返す。
たぶん地下集落の全員が桟橋近くまで見送りに来ているんだろう。各々が手を振りながら「またな!」と、大声で叫んでいるのが聞こえた。
来る時は何が起こるか分からない不安と緊張で空気まで重く感じた船内も、帰りは船全体の雰囲気も明るく笑い声まで聴こえてくる。
走り出した船の甲板から海を眺めていると、コツコツと杖の音を立ててリュカそっくりの髭の生えた男性がやってきた。
「リュカデリク、それにアレティーシア、この度は俺を助けてくれてありがとう」
「父上、もう起き上がっても大丈夫なのですか?」
「あぁ。だいぶ身体は楽になった。アレティーシアから貰った万能薬のおかげでな」
「僕も助ける事が出来て良かったです」
リュカのお父さんアラディスさんは、僕の方を見てウインクをして頭をクシャリと撫でてきた。なかなかフレンドリーな人なのかもしれない。
「それで、どのくらいで黒の大陸に着く予定なのだ?」
「1週間ほどかかると言ってました」
「なるほど。ではそれまでは、せっかくだから船旅を楽しむとしよう」
そう言って、近くにいた船員から釣竿と桶を借りて釣りを始めた。凄くマイペースな人でもあるのかもしれない。
「父上は、いつもあんな感じだ」
「でも楽しそうだよ」
甲板に座り込み、あごヒゲをイジりながら鼻歌を歌い釣りをする姿は、どこにでもいるおじさんって感じだ。
ちなみに天音は、おこぼれを期待してアラディスさんの隣で目をキラキラさせている。目が”魚をくれ”と訴えている。
「おぉ! 釣れたぞ!」
その言葉を聞いた瞬間、天音は「にゃうん!」と甘えた声をだし、魚を持ったアラディスの腕にすりよる。
「欲しいのか?」
「にゃにゃん!」
「ほら。食え。骨に気をつけろよ」
「にゃうん!」
アラディスは満面の笑みを浮かべ、天音の目の前に魚を置く。するとピチピチ跳ねる魚に大喜びで天音が齧り付く。
やっぱり天音の、おねだりに抗える者はいないよね。僕も抗えない。天音は最強だよ。
こんな風に、のんびりまったり平和にキラキラの海を進む事6日間、ついに黒の大陸に帰る事が出来た。
だがしかし、フィラシャーリの城に戻った途端、事件は起きた。いや起きていた。
「アレティーシア、待っていたのですよ」
母さんが焦りを滲ませ僕に駆け寄ってきた。
「どうしたの? 何かあったの?」
「貴女、今すぐリュカデリクと結婚なさい!」
「え!? いきなり何?」
「!?」
「!!!?」
僕の後ろにいたリュカとアラディスも絶句をしている。
「丁度、10日後にヴァレリーの結婚式をするのです。その時一緒に貴女の結婚式もする事が決まりました」
「別にヴァレリーと、一緒に式をあげなくても良いと思うんだけど……。それに僕、まだ6歳なんだよ? 早くない?」
「そのような問題は些細なものです」
「些細な事なんだ……」
それまで呆然と僕と母さんの会話を聞いていたリュカが僕の前に立つ。
「リデアーナ様、まずは何があったのか教えて頂けますか?」
「あぁ。そうですね。焦りすぎましたね。黄の大陸は分かりますね?」
「はい」
「その黄の大陸が滅んでしまいそうなのです」
「そんな!」
思わず声を上げてしまった僕の手をリュカが優しく握る。
「まだ猶予があったように思えたのですが、監視している兵士達から知らせが入って来たのです」
黄の大陸へ渡った時、荒れ果て崩壊ギリギリの大地を目の当たりにした。そしてその時に大陸が一つでも落ちれば、世界の崩壊が始まるのは聞いていたし分かっていたことだ。
15歳の成人まで猶予があると思っていたけどソレが早まっただけの事だ。
やらないとか出来ないなんて、そんな選択肢なんて最初から無い。やらなくては、この世界は消えてしまう。
だから、覚悟をしよう。
たぶんコレが”双子神子の本当の役目”だと、気がついてしまっていたから……。
「分かった。リュカもいいかな?」
「俺は最後までお前と共に生きると決めている。だから大丈夫だ」
僕たちが結婚を了承すると、母さんが頷き更に言葉を続ける。
「そしてもう一つ、お知らせしなければいけません」
「教えて、もう驚いたりしないからさ」
「先のティルティポーへの攻撃で、この黒の大陸も深すぎる傷を負いました。私の魔力では回復する事が難しいと分かったのです。そこで私より魔力の強いヴァレリーが王となる事が決まったのです」
「被害の大きさは聞いていたのですが、そこまで酷い状況だったのですね」
「えぇ。なので事を急がせているのです」
僕たちの後ろで成り行きを伺っていたアラディスが、ヒゲをイジりながら「うむ。分かった。俺たちも動こう。他大陸にも知らせを出す」と、言って杖をカツカツ鳴らし城から出ていった。
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