第26話ー3


 広場では、すでに人々が集まって大宴会が繰り広げられていた。


「ドラゴンまで使う宴なんて初めて見た!」

「俺もだ。迫力が凄まじいな」

「うん! それに凄く綺麗だね!」

「あぁ」


 広場を囲むドラゴンが翼を広げ空に向かって炎を吐いて、更に篝火の代わりの魔法石をジャグリングの要領で男たちが操る。

 その周囲では赤や黄色い艶やかなワンピースを、ひるがえし蝶々のように舞い踊る女性たちがいる。

 たぶん地下集落の人々だろう。様々な楽器まで持ち寄り、賑やかなテンポのいい音楽が響き渡る。

 炎と七色の光と音が混じり合い、まるでお祭りのような光景だ。


「凄いじゃろ? ドラゴンは飛んだり戦ったりするだけではないのじゃ!」


 演舞に見入っていたら、ルルカが得意げな顔をしてドラゴンの上から翼を羽ばたかせ降りてきた。


「うん! 凄かったよ! ルルカの山でもお祭りしたりするの?」

「うむ。作物が豊作だったりすると皆のテンションが高まるのじゃ!」

「そっか! やっぱり嬉しい事があるとお祭りするんだね」

「そうなのじゃ!」


 ルルカと話していると、ルデラさんが酒瓶を片手に持ちホロ酔い状態で、リュカの肩を力強くバンバン叩く。リュカが顔を顰めてる。かなり痛そうだ。


「お前たちも飲んでるか? 今夜は思いっきり楽しめよぉ!」


 ハッハッハッ! と笑い、リュカの肩を引き寄せる。


「その様子、アレティーシアと上手くいったようだな」

「……もう少し小声でお願いします」

「だが誰が見ても分かると思うぞ? なぁ! ルルカよ」

「うむ。バレバレなのじゃ!」


 ルデラさんとルルカの反応で、ハッとなる。僕はリュカの腕に、つかまったままだったのだ。慌てて離れようとしたら、素早くリュカに手をつかみかえされてしまった。ルデラさんとルルカがニヤニヤしながら見てるけど、僕にはこの手を振りほどくなんて出来なかった。


「国に帰ったら正式に婚約するつもりだ」


 バレたと分かった途端、リュカは開き直った。


パチパチパチパチパチパチ!


 そしてリュカが婚約と口にした瞬間、聞き耳を立てていた回りの人々から拍手が沸き起こった。


ピュィ〜♪


「おめでとう!」

「おめでとさん!!」

「めでたいのぉ!」


 口笛を鳴らし口々に祝福してくれる。


「今宵は2組の結婚が決まっためでたい日! 盛大に祝おうではないか!!」


わぁぁぁ!!!


 地下集落のリーダーの男が大声を上げ、大歓声が起きる。


 嬉しい気持ちと、ほんの少しの恥ずかしさ。そして気になる、もう一組の事。


「あのさ。もしかしてヴァレリーの事?」

「うむ。プロポーズはしていたようなのじゃが、作戦が無事済んだら指輪を渡すとか言っておったのじゃ」

「そうだったんだね! 良かった。兄さんたちも上手くいったんだ」

「うむ!」


 宴は夜が耽るにつれ、ますますヒートアップしていく。


「さぁ! 魚が焼けたよ! 欲しいヤツは早いものがちさぁ!!」


わぁぁぁぁ!!!


 メインの焼き魚と、葉で包んだ蒸し魚が出来上がり再び大歓声が上がり、広場の中央に人々が集まっていく。


「おぉ!! つまみだ。つまみ!」


 ルデラさんは鼻歌を歌いながら向かって行ってしまった。


「にゃにゃにゃにゃにゃにゃ!!!!!」


 僕の肩で溶けていた天音も、パッと起き上がり全速力で魚を目指して走って行く。


「僕たちも貰いに行こ!」

「そうだな」

「美味しそうな匂いがするのじゃ!」


 早いもの勝ちとは言っていたが、魚は充分に用意されていて、1人3匹ずつ貰うことが出来た。


「ん〜!! 身が柔らかくて美味しい!!」

「とれたては、やはり違うな!」

「美味すぎるのじゃ!」

「うみゃい! うみゃい!!」


 白身魚によく似た感じの魚で、程よい塩味がたまらなく美味しい。けど1匹1匹がけっこう大きかったので、僕は食べきれなくて、リュカと天音に1匹ずつあげてしまった。


 白の大陸が蘇ったばかりで、魚と酒しか用意出来なかったと言っていたけど、新鮮な魚は充分なご馳走だと思った。


「妾はそろそろハルルたちの所に戻るのじゃ」

「うん。おやすみルルカ」

「おやすみなのじゃ」


 先ほどまでの賑やかさは落ち着いてきて、いつの間にか広場には、地面に転がって眠っている人や、静かに1人飲みしている人が、少し残っているだけになっていた。


「僕たちも戻ろう」

「あぁ。明日はもう帰る日だから早めに寝たほうが良いだろう」

「そうだね。ところでユラハ見かけなかったんだけど、どこにいたんだろ?」

「ユラハならフィンにドラゴンの乗り方を教えてもらっていたな」

「そうなんだ! 乗れるようになったかな?」

「コツさえ掴めば大丈夫だろう」




 リュカとたわいのない話をしながら、地下集落の自室に戻るために歩き出すと、前方から2人の人影が僕たちの方に向かってくるのが見えた。


「クロトとスヴェン!」

「間にあって良かったぁ〜」

『契約したばかりなので、まだ寝ていなさいと言ったのですがね……』


 スヴェンに支えられながら、クロトはヨロヨロしながらも、ここまで来たようだ。


「俺は、もうこの大陸から出られないって聞いてさ。どうしても会って話しておきたいって思ったんだ!」

「そっか。クロトも、この世界の全部を知っちゃったんだね」

「あぁ。スヴェンから全部聞いた。レイジさんは牢獄だと思っていたみたいだけどさ。でもさ。俺はさ。今の状況を牢獄と思ってないし不幸だとも思ってない。と言うかさ。沢山、許されない事してきた俺が王様で本当に大丈夫なんかよ? って思ってる」

「でも。クロトは良い王様になるって僕は思っているよ」

「う〜ん……。そうなんかなぁ〜?」


 クロトは、しゃがみ込んで、頭をガリガリ掻きむしる。


「クロトは確かに沢山の罪は犯したかもしれない。でも”今のクロト”は、痛みも悲しみも苦しみも全部知ってる。だから人々に酷い仕打ちは絶対にしないと思うし出来ない気がするんだけど違う?」


 僕の言葉を聞いて、クロトが顔を上げて頷く。


「あぁ。そんな事はしない。誓ってもいい」

「うん! やっぱりクロトなら大丈夫だよ!」

「ありがとう。頑張ってみる」

『さぁ。気が済んだのなら帰りますよ』

「分かったよスヴェン。あとアレティーシア本当にありがとう! またな!」

「うん。またねクロト」


 手を振って別れる。




 色々な場所を3人と1匹で旅しようと言う約束は果たせなかったけど、そのことは言わないことにした。その代わりレフィーナに頼んで緊急の時以外でも湖ごしで、いつでも会話が出来るようにして貰う予定だったりする。


「クロトがスヴェンの事を呼び捨てにしてたね」

「あぁ。これからの事も含め、色々な話をしたんだろうな」

「うん。もしかしたら今まで、ずっと話をしていたのかもしれないね!」


 スヴェンとクロトは、これからも会話をやめないと思う。


 もう二度と気持ちが、お互いの心が、すれ違う事がないように……。


 さみしくならないように……。


 悲劇が起きないように……。


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