第26話ー2
リュカを探して再び海岸まで戻ると、桟橋にその姿を発見した。
「リュカ!」
僕の呼ぶ声に、ゆったりとした動きで振り返り微笑む。
「タキ……。いや、アレティーシアおいで」
そして今までにない甘く優しい声でリュカが僕の名を呼ぶ。姿は同じなのに、いつもと雰囲気がまったく違う。
なんだか奇妙な緊張感が漂う。
「リュカどうしたの?」
その緊張感に耐えきれず、思わず首を傾げ聞いてしまった。するとリュカは頭を掻きむしり、自分の両頬をパンっと叩き「やはりルデラさんのようにはいかないな……」などと、つぶやき深呼吸をしてから僕の前まで来る。
「タキ。ようやく終わったな」
よく分からないけど、いつものリュカの口調に戻り、緊張感も消えてホッと安堵する。
「うん! 終わったね。大変な事も沢山あったけど、アッと言う間だった!」
「あぁ。色々な事があったな」
なんだか言葉が続かない。まだ緊張が残っているのかもしれない。
「あのさ。さっきは本当にどうしたの? 何かルデラさんとあったの?」
「それはな。ルデラさんと何かあった訳では無くて、タキの事で相談に乗ってもらっていたんだ」
「僕の事?」
「あぁ。そうだ。だがその前に、旅を始める時の約束を覚えているか?」
ルデラさんに僕の事で相談。
旅をする前の約束……。
あ! アレだ! 婚約の事だ!!
そっか! だからルデラさんが妙にニヤニヤして、リュカ本人に聞けって言ってたんだ。
「覚えているようだな」
「う、うん!」
いきなりの不意打ちに、色々な意味で僕は動揺と焦りを通り越して大パニックになってしまう。
「作戦が終わったら返事を聞こうと思っていたんだ」
作戦の終了は、旅の終わりを意味している。だからリュカの言っている事は分かる。そして周りの人たちに、相談までしてしまうほど悩み考えて、しっかり将来の事を考えてくれてるのも理解出来た。
だから僕も、真剣に考えて答えを出すつもりだ。
「その前に僕から、これだけは聞いておきたいけどいいかな?」
「あぁ。なんでも答えよう」
「初めて会った時に、僕が前世で男だったとしても気持ちが変わらないって、そのままの”俺”で、かまわないって言っていたよね? その言葉は今も変わらない?」
僕自身、目が覚めたら女の子だった事に戸惑ったし、その身体に慣れるまで、かなりの時間がかかったからね。
「変わらない。一年以上、共に旅をして様々な出来事を2人で考えて乗り越えてきて、オレのこの想いと気持ちは、ただの一過性の一目惚れなどでは無く本物だと分かったんだ」
リュカが膝を地面につき、僕をフワリと優しく包み込むように抱きしめる。
「お前の魂そのものを愛おしく思う。愛しているよ」
耳元で囁くリュカの、とろけるような甘い声に全身の毛がザワザワして、身体が火だるまになってしまいそうなくらい熱くなってしまう。
それでも、だからこそ、
ちゃんと答えたくて僕も深呼吸をする。
そして。
「僕は、この世界に来たばかりの時は何が何だか分からなくて戸惑ってたし、この世界そのものが怖かったんだよね。だってさ……周りは知らない人ばかりなのに、何故か僕と僕の家族を殺した2人が一緒にこの世界に来てるなんてさ。あり得ないし悪夢でしか無かった。だからリュカが、いつも一緒にいてくれた事が僕にとって救いだった。少しずつだけど、この世界は怖くないって思えるようになったんだよ。そしてあの2人の事にも踏ん切りをつける事が出来たんだ。本当にありがとう」
リュカがいなければ、サリアとクロトの事を、未だに許せずにいたかもしれない。
もう一度、深呼吸をしてから、リュカの体は大きいから背中まで手が届かないけど、精いっぱい腰に手を回し抱きしめる。
「リュカデリク。これからもずっと僕と一緒にいて欲しい!」
「ありがとう。アレティーシア」
リュカと一緒にいると楽しくて嬉しくて愛おしい気持ちがあふれる。だからこのまま離れるなんて出来ないし別れる事は考えたくもない。
いつの間にかリュカは僕にとって、かけがえのない大切な人になっていた。
「大好きだよ。リュカ」
小さく紡いだ言葉はリュカに届き、額に触れるだけのキスが降ってきた。
「そろそろ皆んなの所へ戻ろう」
「うん」
手を繋いで歩き出す。
陽が沈みはじめ辺りが赤く染まる。リュカの金の髪の毛が風に揺れ、夕陽を受け赤くキラキラ輝いている。強くて本当に綺麗な人だと思った。
広場が近づくにつれて宴の騒めきが聞こえはじめる。すでに始まっているようだ。
「あのさ。少し気になってるんだけど、ルデラさんから、どんなアドバイスされたの?」
見上げて聞いてみると、リュカは苦笑いをして。
「それはな。”初恋は叶えるものだ”とか言って、自分の奥さんに、どうプロポーズしたかの話を聞かされたんだ」
なるほど。桟橋でのリュカの態度と、緊張感はルデラさんのマネをしようとしたのかもしれない。そんなリュカの気持ちが、何だか嬉しくてリュカの腕に飛びついた。
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