第26話、宴の後に。
リュカと地上に戻ってから、天音を肩に乗せて海岸の近くの広場まで行くとドラゴンたちが並び、作戦を終えた人々が集まって談笑をしているのが見えた。
「上手くいったのじゃ!」
「無事に終わったな!」
ルルカとユラハが満面の笑みで、僕に飛びかかってきた。その後ろでハルルも、僕たちを見て嬉しそうに微笑んでいる。
「うん! 行方不明になっていた人たちも全員助け出せたから作戦成功だね!」
「うむ。大成功なのじゃ!」
「大成功だな!」
ユラハたちには、白の王レイジの事は黙っておく事にした。
レイジの中には、もう狂気は無く深い悲しみだけがあったのだから。今まで犯した罪は消えないけど、元の世界、日本へ帰る事も出来ず万年の時を苦しみ続けていた、ただの普通の人間だと分かってしまった。
「あぁ! 俺のアレティーシア! よく無事に戻って来たね」
ドラゴンに、ご飯をあげていたヴァレリーが僕に気がついた瞬間、まるで大型犬のように走って来たかと思うと、僕をルルカとユラハから引き剥がし頬擦りをして頭を撫で回す。
「ヤツは、相変わらずじゃな」
「で……ですね」
ヴァレリーのシスコンは、皆んなが知っているので誰も気にしない。僕も慣れてしまってされるがまま。とはいえ行き過ぎた愛情に、周りの人たちは多少は呆れている感じがするけどね。
「ハルルは見ておらんで早う。アレティーシアからヴァレリーを引き剥がしてやるのじゃ」
「は、はい! いっ行って、来ます」
ハルルはパタパタと翼を羽ばたかせ、ヴァレリーの側まで行って服を引っ張る。
「ア! アレティーシア、さんが……こっ困って! ます!!」
「!!? ハルル! 1人にして、す……すまない! お前の事も愛してるよ!」
僕から離れたヴァレリーが、今度はハルルを抱きしめスリスリ撫で撫でを繰り返す。
「なんか凄いね」
「アヤツは、いつもあんな感じなのじゃ」
ルルカが溜息をついている。ヴァレリーの愛情表現は、ますます激しくなっている気がするんだけどね。
リュカを目で探すと、船の近くでルデラさんとフィンさんと真剣な顔をして話をしてるんだけど、たまにチラチラと僕の方を見ている。凄く気になってしまう。
「行ってみるしかないよね」
歩きだした途端に、肩をポンポンと叩かれて振り返ると、地下集落のリーダーの男が立っていた。
「我らの同胞たちも全員無事に助けだす事が出来た。感謝する」
「僕だけじゃ出来なかったよ。僕の方こそ色々ありがと!」
手を差し出してきたので、がっしり握手を交わした。
「ところでクロトは何処にいるんだ? よく働いてくれたから礼が言いたいんだが……」
辺りを見回すリーダーの男の袖を引っ張って屈んでもらう。そして声をひそめながら、地下で起きた事を知らせた。
「なるほどな。クロトならば良き方に白の大陸を導いてくれるだろうな」
「うん。僕もそう思うよ」
痛みや苦しみ悲しみを知った今のクロトなら、きっと良い王様になれるはずなんだ。
「あと集落の女たちが、白の大陸解放の宴を今夜やると言っているんだが、ぜひ参加してやってくれ」
「分かった! 皆んなにも伝えておくね!」
「頼んだ。ではまた夜に会おう」
「またね!」
リーダーの男と別れ、リュカたちの所へ向かおうとしたんだけど、すでに3人の姿はなかった。
「また見かけた時に聞こう。あと海も気になってだんだよね。目の前だし見に行ってみようかな!」
僕の膝くらいの高さがある、瑞々しくて緑の柔らかな草を、なるべく踏み倒さないように掻き分け、海に向かって進んでいく。
「うわぁ! 綺麗になってる!!」
ここに初めて来た時には、赤い草で完全に隠れてしまっていた桟橋も姿を現し、海が太陽の光を反射させキラキラ宝石みたいに輝いている。
そしてカダさんの船が、桟橋に停泊しているのも見えた。船の前には2人の姿もある。
「カダさん! ミダさん!! 2人共、会えたんだね」
「あぁ。今ミダに会えたところだ。ありがとな!」
「おぉ! 嬢ちゃん無事だったんだな!」
「うん! 2人も無事に会えて良かったね!」
カダさんもミダさんも、本当によく似た兄弟で、ニカッ!っと笑った顔も、そっくりだ。
「あ! そうだ! 今日、宴があるんだって言ってたよ。皆んなにも伝えて欲しいけど良いかな?」
「宴か! 良いな!! 了解した。見かけたヤツラに伝えておく」
「よろしくね!」
手を振って別れる。
「あとはクロトの所に行ってみようかな?」
実はスヴェンに引きずられていってから、クロトが地上に戻って来ていないのが気がかりなんだよね。
「クロトのところに行くならワシも行こう。リュカデリクから話は聞いたが、どのような人物なのか自分の目で見ておきたい」
背後からやって来たルデラさんが、ポンっと僕の肩を叩く。
「ルデラさんはクロトと初対面?」
「そうだな。作戦中に遠目では見たが話した事は無いな」
「そっか。なら一緒に行こう」
白の王になったクロトの事が気になるのだろう。そんなルデラさん一緒に地下の滝まで来たんだけど……。
『今はクロトに会わせる事は出来ません』
僕たちが用件を言う前に、仁王立ちしたスヴェンに門前払いされてしまった。
「なるほどな……。まぁ。仕方ないな。戻ろるぞ」
ルデラさんが、地上に戻ろうと僕の肩をポンっと叩く。
「もしかしてルデラさんは何か知っているの?」
「クロトは王の契約をしたばかりなんだろう?」
「うん」
「王の契約は、魂を大精霊と一体化させ大陸と繋げる大掛かりな術なんだ。だから身体も魂も変化する訳だ」
「かなりクロトに負担がかかってるって事?」
「そうだ。当時ワシは、まる3日寝込んだな……。今は我が子が、赤の大陸の王だがな」
「そうだったんだね」
見ていただけだから、そんなにもクロトに負担があったなんて分からなかった。だって契約自体はすぐに終わってしまったからね。
「アレティーシアも他人事ではないぞ」
「……そう言えば、そうだったね」
ルデラさんは、ニヤリと僕を見て笑った。忘れてたけど確かに、そのうち僕も王の契約をしなくちゃいけないんだった。
「あ! ところでさっきリュカと何を話してたの? 僕の方を見てたよね?」
「あぁ。アレか? アレはヤツに直接聞いた方が良いだろうな!」
先ほどとはまた違う、人の悪そうなニヤニヤ顔で僕を見る。ますます気になってしまう。
「分かった。聞いてみる」
「それがいい」
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