第24話、魔白き魂は終焉を望む。
レイジが無言のまま、ゆらりと動き出す。その両手には大剣が握られている。
「フシャァ!!」
天音が体を大きく変化させ、僕の前に出て威嚇する。
リュカは僕の隣で、腰から剣を抜き、クロトは斜め後ろで弓をかまえた。
レイジが大剣を持ったまま、素早く僕に向かい走り出し勢いよく振り下ろす。
ガキィーン!!
天音が爪で大剣を弾く。
パァーン!
クロトが弓で援護するが、レイジは流れるような動きで矢を避ける。
ザシュ!!
レイジが避けた先に、リュカが剣を振り下ろすとレイジの肩を掠める事が出来た。
「スヴェンの……大願の為……お前たちには、死んでもらう……」
言葉は辿々しく目は虚なのに、動きは異常なくらいに早い。気になるのは、消し去ったはずの赤い草がレイジに絡みついている事だ。
「リュカなんか、おかしい」
「あぁ。分かっている。それにスヴェンに全く動く気配が無い」
リュカに言われて気がついた。スヴェンは動かないどころか、ただ傍観しているだけのように感じるのだ。
「まさかスヴェンに操られてるとか?」
「違う! コレは俺の意志だ!」
僕のつぶやきを、否定しながらレイジは再び向かってくる。
ガキィ!
ギィィィン!!
パァーン!!
天音とリュカが連携して大剣を弾く。レイジが、よろけた所にクロトが矢を放つ。
破魔の力で傷ついても、レイジは何度でも向かってくる。けれど、どれだけレイジが血を流してもスヴェンは動かない。
ならばと、僕に出来る事を考える。
破魔が効かないなら、直接レイジに浄化の力を叩き込むしかない。
よし! やってみよう。
「クロト、短剣持ってたよね?」
クロトの隣に行き、周りに聞こえないくらいの小さな声で尋ねてみた。
「あるけど、どうすんだ?」
「僕がレイジを討とうと思うんだ」
「え!? だっ大丈夫なのかよ?」
「案外いけると思う。僕は小柄だから岩場や草むらの陰に隠れて一気にいくつもり」
僕が説明すると、クロトは腕組みをして少し悩んでから「分かった」と頷き、懐から短剣を出して渡してくれた。
「もしもの時は、俺が弓で援護する。でも無理はしないでくれ!」
「分かった。よろしくね!」
天音とリュカがレイジに応戦している脇を、岩と草に隠れながら足音をなるべく立てないように進み、ゆっくりと慎重にレイジの後ろに回り込んでいく。
レイジの真後ろに辿り着くと、自分の中のアレティーシアとレフィーナに、力を貸して欲しいと願う。すると握っていた短剣が、聖なる熱い力を帯びていくのが分かった。
力を宿した短剣を握りしめレイジに向かって走りだす。レイジが気がついて僕に大剣を振り下ろす。
パァーン! パァーン!!
ザシュ!!!
クロトの放った矢が、レイジの背中に命中し、さらにリュカの剣がレイジの腰に突き刺さった。
「今だ! 行け!!」
クロトの掛け声と共に、僕は短剣を手に勢いよくレイジにむかって突進した。
ザクッ!
人を刺す嫌な感触と音が響いた瞬間。短剣が七色に輝きだし刺した箇所へ光が渦を巻いてレイジの中に入っていく。
「……グッ……俺は……また失敗したのか……?」
虚だった瞳に光が蘇り、レイジは正気を取り戻した。けれど血が止まらない。
カシャーン!
持っていた万能薬の蓋を取り、レイジに飲ませようと駆け寄ったが、手で払い除けられて瓶が砕け中身が地面に吸い込まれていっていまう。
「俺にかまうな……」
『失敗? 貴方は失敗などしてはいません。もし失敗したというならば、貴方をここまで追い詰めた私の方です。けれど貴方もバカですね。私はこのような事は望んではいませんでしたよ』
いつの間にか、僕の目の前に来ていたスヴェンがレイジの身体を優しい手つきで抱きしめる。
「だが、このままではお前の願いは叶わないだろう?」
『確かに最初は貴方の事など利用出来るコマ”人柱”としか思っていませんでしたし、私の大願の為に死んでも頂こうかとすら思っていました。けれど万年の時を2人です過ごすうち、レイジと過ごすのも悪くないと思っていたのですよ』
「珍しくよくしゃべる。けど……もっと早く、その言葉が聞きたかったな……」
スヴェンの、その言葉を聞いた瞬間レイジは、まるで子供に返ってしまったかのように大声を上げて泣き出した。
『もっと沢山の話を貴方としていたなら、このような事にはならなかったのかもしれませんね』
泣き続けるレイジと、その体を強く抱きしめるスヴェンは、世界を破滅に導こうとした悪人には見えない。
たぶん、いや間違いなくこの2人も犠牲者だったんだと思ってしまった。
「……クロトと言ったか? こっちに来い!」
暫くして落ち着きを取り戻したレイジは、いきなりクロトを呼びつけた。当然、呼ばれたクロトの顔はレイジにされた事を思いだして恐怖に引き攣ってしまっている。
「お前は俺とよく似ている。だからこそ頼みたい事があるんだ」
『私は似てないと思いますがね!』
「ハハハ……」
レイジに手招きされ、スヴェンに睨まれながら、クロトは恐る恐る近づいてきた。
「なっなんでしょうか!」
かなり怯えて、緊張しまくっているせいでクロトの声はうわずり、視線が天を向いてしまっている。
「もっと近くに来い。それでは届かん」
「は! はい!!」
2人の前、つまり僕の隣までクロトがくる。
「手を出せ。スヴェンお前もだ」
『まさか、この者と契約しろと言うのですか!』
「大丈夫。クロトはお前が認めるだけの良き王になる。それに本当は大陸を壊したい訳でもないのだろう?」
『……最後の最後まで貴方は勝手過ぎます』
「ハハハ! 俺の最初で最後の願いくらい叶えてくれ!」
クロトは、目に見えてオロオロしている。そりゃそうだよね。いきなり王の契約だからね。
「あ……あの……俺が王って? どう言う事!?」
「お前は俺と一緒だからだ。拒否権は与えん。スヴェン。クロトを連れてこい」
スヴェンは渋々と言う感じに、逃げ腰のクロトの首根っこを掴んで、レイジの前に連れてきて座らせる。
「今までしてきたことへの、贖罪にもならんが俺の全てをクロトに……」
小さくつぶやきクロトの手をがっしり掴んで、古代呪文と呼ばれる複雑な詠唱をレイジとスヴェンが唱える。白い眩い光がレイジからフワリと抜け出し、クロトの身体に少しずつ入り込んでいく。
「これで契約はなされた。あと魔神の力もクロトに継承しておいたから仲良くしろよ! スヴェン」
光の全てがクロトに入ったのと同時に、悪戯っ子のように笑うレイジの身体が光の粒に変わり空気に溶けて消えていった。
「あのさ。スヴェンさん」
『なんでしょうか?』
ギロリとスヴェンに睨まれ、クロトは後ずさろうとしたが、腕を未だにスヴェンに捕まれていて逃げられない。
「よく分からねーんだけど、あんたたちに何があったんだ?」
僕たちも気になっていた事を、クロトはオロオロしながらも勇気を振り絞り聞いてくれた。
『お互いの気持ちを知ろうとしなかっただけの話ですよ……』
「けどさ。スヴェンさんは俺たちに攻撃しなかっただろ。だからレイジさんの本当の気持ち分かってたんじゃねーのかなって思ったんだ」
『……妙に鋭いですね。けど、まぁ。そういう事にしておきましょう』
レイジは死にたがっていたようにみえた。それは僕たち全員が気がついた。だから1番近くにいたスヴェンが、レイジのその気持ちに気がついてない訳がない。その証拠に戦う時に援護もしなかったし、僕から万能薬を奪ったりもしなかったし、傷を癒そうともしなかったから。
『私はレイジを弔いに行きます。貴女たちは好きにしてください』
遺体は光になって消えてしまったけど、スヴェンは滝に向かい歩き出した。ちなみにクロトの腕は掴んだままだ。
クロトが心配になってしまうけど、僕たちは地上に戻りルデラさんたちと合流することにした。
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