第23話ー3


 合流地点に到着すると、すでにルデラさんたちが加工所の建物に突撃した後だった。


 次々と助け出されてくる人々を、地下集落のリーダーの男が大きな声で誘導して、赤い草が無くなった緑の草原に座らせ、女性陣が万能薬を一人一人に飲ませているところだった。


「凄く手際が良いね」

「さすが精鋭部隊だよなぁ!」

「うん。でも他にもまだ手伝える事あるかもだよね!」

「だな! あたしも手伝うよ」


 2人で手伝える事が無いかと辺りを見回すと、気になる男の人を見つけてしまい走り出す。


 近くまで駆け寄り、まじまじとそのガッシリとした体格の男を見つめる。赤毛で緑の目、左目の上に斜めに傷跡が残ってる。それになにより凄く顔も似てるから間違いない。


「ちょっと良いかな?」

「なんだい? 嬢ちゃん」


 万能薬が効いたのか、すっかり正気を取り戻していた男が首を傾げ僕を見る。


「えっと。貴方は、もしかして船乗りをしてるカダさんの弟じゃないかのな? と思うんだけど……」

「それはオイラの兄貴だ。知ってんのか?」

「うん! 知ってるよ。無事に見つかって良かったよ! 実は、僕はカダさんの船で来たんだけど、その時にミダさんを探して欲しいって頼まれていたんだよ」


 僕がカダさんの事を話した途端、ミダさんの顔はパッと明るく嬉しそうに笑む。


「そうか良かった。兄貴も無事だったんだな」

「うん! カダさん凄く心配してたよ。この大陸の全ての事が片付いたら皆んなで一緒に帰ろう!」

「あぁ。ありがとうな! 嬢ちゃん!」


 ミダさんは、涙を流し震える手で、僕の手を握りしめ「早く兄貴に会いてぇな……」とつぶやいた。ツライ体験を沢山したんだろう。泣き崩れたミダさんが落ちつくのを待ってから、保護された人々が集まる草原に送り届けた。


 その後、地下集落のリーダーの男の人を、見つけられたので指示を仰ぎユラハとペアになって人々に万能薬を飲ませていった。


 救出が終わり、合流地点に戻るとリュカとクロトが僕に気がついて手招きをしている。


「タキ! もうここはルデラさんたちに任せて大丈夫だろう」

「そうだね! それでリュカのお父さんは見つかったの?」

「あぁ。かなり衰弱していたが、タキの万能薬で正気を取り戻して顔色も良くなった。念の為にルデラさんに保護を頼んでおいた」

「良かったぁ! 無事に見つかって本当に良かったぁ〜!」

「あぁ。タキのおかげだ。ありがとう」


 リュカは膝を地につけ、僕の肩口に顔を埋めギュウギュウと、力いっぱい抱きしめてきた。僕が、ソッとリュカの背中を撫でると、震えながら更に力を込めてきた。お父さんを助けられて、ホッとしたんだと思う。


「もう大丈夫だ。敵の本拠地へ向かおう」


 ゆっくりした動作で立ち上がり、僕の手を握りしめ歩きだす。少し離れた場所で待機していた天音とクロトも、僕たちの後についてくる。


「ここから近いの?」


 後ろを振り返ってクロトに聞くと、頷きながら前方の加工所を指差す。


「この加工所の裏手に地下へ降りる階段があるんだ」

「敵が反撃を一切してこないのが気になるな。だが行くしか無さそうだ」

「アイツらは誰も信用してない感じがした。だから地下にいるのも2人しかいないと思う」

「なるほどな」


 昔語りを聞いた後だから、凄く納得してしまう。2人だけで万年の刻を、この白の大陸から出る事も、地上にいる人々と交流する事もなく、地下で生きてきたのだろう。


「なんだか悲しいね……」

「そうだな」


 僕が小さくつぶやいた言葉に、リュカが静かに答えをかえした。


 クロトの言う通り、加工所のすぐ裏の草むらを掻き分けると、地下へ続く真っ暗な階段を発見する事ができた。


 僕が魔法で光を手のひらに灯し、リュカに横抱きにしてもらい降りていく。天音とクロトも後ろについてきている。


カツーン! カツーン!!


 靴音がやけに響くと思いながら、警戒しながら慎重に最下層だと思われる場所まで進んでいくと、大きな石製の扉が現れた。


 実は魔法が使えるようになってから、今まで鉄に見えてたのは魔法で強化された石だと分かって驚いたんだよね。だから、この大扉も見た目は鉄っぽい灰色してるし頑丈そうなんだけど石だと気がついた。


 リュカは僕を床に降ろしてから、大扉に手をかけ押す。クロトも慌てて走り寄り、リュカを手伝って大扉を押し開く。


ガギギギギギィィィ……!!


 錆びたような大きな音を立てて、軋みながら大扉が徐々に開いていくと、そこには……。



『お待ちしておりましたよ』


 霧を纏うスヴェンが部屋の中央で、ゆったりとした動作でお辞儀をして、僕たちを出迎えた。


「……」


 そしてそのスヴェンの隣には、白の王であるレイジが虚な目で無言のまま、こちらを見つめている。




 

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