第23話、浄化の時。
夕ごはんを集落の皆んなで食べた後、見回りがあるリュカと一旦、別れて割り当てられた部屋に戻る。まだ眠気は来ない。なので窓辺まで椅子を引きづってきて、外を見ると先ほどまでの賑やかさはなくなっていた。
「もう明日なんだよね……。もう誰も死んだり傷ついたりする事なく全てが上手くいきますように!」
天を仰ぎ、目を瞑り真剣に祈りを込める。神頼みなんて初めてやったかもしれない。
目を開けると、決戦の明日に備えて、集落の人々は早々と眠りにつくのだろう。ポツポツと民家の灯りが消えていき次第に暗闇に包まれていった。
「真っ暗だ。でも上に浮かんでる湖は、サファイアみたいにキラキラして綺麗だなぁ」
「まだ起きていたのか?」
部屋のドアが開き、リュカが見回りから戻ってきた。かなりの時間、空の湖に見入っていたみたい。
「うん。何だか気が昂ってるのかな? 眠気が来ないんだよ」
「確かにそうだな。オレもタキと同じで、少し緊張してるし気が昂ってる」
「あのさ。今日一緒に寝ても良い?」
「あぁ。もちろんだ。来い」
「ありがと!」
リュカが自分のベッドに横になって手招きをする。その腕の中に入ると、リュカが足元に畳んであった毛皮と布をかけてくれる。
「明日は必ず上手くいく。オレもいるし仲間たちもいる。きっと大丈夫だ」
「うん。そうだよね」
思わずリュカの服を握りしめ擦り寄ると、逞しくて温かいリュカの腕が、優しく僕を抱きしめてくれる。すると少しずつ不安が溶けていって眠りにつくことができた。
作戦決行日、早朝。白の大陸の海岸。
「あ! ドラゴンたちが見えてきた!」
朝日が登りはじめると同時に、水平線の向こうの空が、何十頭ものドラゴンの茶褐色に染まり始めた。
「久しぶりなのじゃ!」
「ご! ご無沙汰……しっしてます」
そのドラゴンの群れの先頭で飛んでいた2頭のドラゴンから、よく見知った2人の人影が翼を羽ばたかせ舞い降りてきた。
「ルルカ! ハルル!! 久しぶり来てくれてありがと!!」
「今日はよろしく頼む」
「うむ! 今日で一気にカタをつけるのじゃ!」
僕とリュカの言葉に、ルルカはVサインをしながら白い歯を見せてニッと笑った。
「あ、あの……くっ黒の、た……大陸の、精鋭部隊……は、全員、ドラゴンに、のっ乗ってます……ヴァレリー……が、し!指揮する……みたいです」
ハルルは、ドラゴンに乗って皆んな一緒に、ここまできた事を伝えてくれた。ルルカもハルルも頬が戦前の緊張で紅潮して少し息が荒い。
「あぁ〜! 俺のアレティーシア!! 無事だったんだね!!」
そしてルルカたちより少し遅れて、ドラゴンからヴァレリーが飛び降りて来て、僕に飛びかかるようにして抱きつき、更に全力で頬擦りスリスリしまくってきた。
「ちょ! 兄さん痛いってば!!」
ひっついて離れないヴァレリーの腕の中で、唯一止められる母さんがいない事に気がついてしまった。
「あ! あの! ヴァ……ヴァレリー! タキが……こっ困ってます」
「!!?」
どうしようか? と思っていたら、ハルルがヴァレリーの服の裾を引っ張り嗜めてくれた。その瞬間ヴァレリーは、まるで雷が落とされたかのように凄い表情になり動きが固まった。
「そうだよね。ごめんねアレティーシア!」
暫くしてシュンと項垂れ、ヴァレリーはゆっくりとした動作で僕から離れた。
母さん以外にヴァレリーを止められる人がいた! と思うのと同時に、結婚したらハルルに尻に敷かれる予感がしてしまう。
戦前だからか、妙に気が高ぶってドタバタとしてしまっていると……。
「ワシらも手伝おう!」
僕たちの目の前に、グレーのツルツルしたドラゴンが2頭舞い降りてきた。
「ルデラさん! それにフィンさんたちもありがと!!」
「精鋭たちを、かき集めてきました」
「助かる。動ける者が多ければ一気に叩けるからな」
空を旋回するドラゴンをよく見ると、ルルカが連れてきた茶褐色の子と、ルデラさんが連れてきたグレーの子たちが混ざっている。たぶん数にして150頭以上はいると思う。
「あたしも一緒に頑張るからな!」
「うん! よろしくね!」
フィンさんのドラゴンに、一緒に乗って来たユラハが、僕に駆け寄り肩をポンポンと叩きニコッと微笑む。
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