第22話ー2


 今、僕が立っている湖の反対側で、何人もの動く人影が見えた。


「少し遠いけど行ってみようかな!」


 湖岸を、ゆっくりとした速度で、湖を回り込むように進んでいくと途中で、湖を一回りする道と、林に向かう獣道の、分岐点に辿り着いた。


「もちろん獣道だよね!」


 “倉田木シン”だった頃からなんだけど、僕はとにかく好奇心が旺盛だから、見知らぬ土地は色々見て回りたい衝動に駆られる。


 何があるのか分からないワクワク感と共に、背丈ほどもある草の間を通り林の奥へとどんどん進んでいく。


カンカンカン! シャーシャーシャー!!


 何かを叩いたり、削る音が聞こえはじめた。


 そしてその音に近づくと、多分スポーツ施設のグラウンドくらいはある、かなり広い敷地に男性陣が集まって作業をしているのが見えた。男たちは、大きな石を運んだり、座り込んで石を叩き削り何かを作っていたりする。


「おぅ! どうした?」


 ジッと男たちの様子を見ていると、僕に気がついたリーダーの男が首にかけた布で汗を拭きながら、こちらに向かって歩いてきた。


「湖の向こう側から人影が見えたから気になって見にきたんだよ」

「向こうって、けっこう距離あっただろ。お前さん小さいのに体力あるな」

「体力には自身あるよ! これでもリュカと一年以上は旅をしてるからね」

「そうか。それはいいな」

「うん。それで何を作っているの?」


 話をしている今も、コンコンカンカンと様々な音が響き、かなりの騒々しさだ。


「我らは救出された者たちを保護する役目。だが何が起こるか分からない。念の為に石槍と石のヤジリを男連中で作っている所だ」

「そっか。相手は霧と共に、どこにでも現れるから武器無しじゃ危ないよね」

「あぁ。そういう事だ」


 この世界で今のところ鉄は見かけないから、石が1番硬そうで強いとは思うんだけど、相手がどんな攻撃を仕掛けてくるか分からなくて心配だ。もう目の前で人が死んでいくのは見たくないから……。


「う〜ん……」

「どうした?」


 悩みはじめてしまった僕の顔を、リーダーの男が覗きこんでくる。


「武器をもっと強く出来ないかな? って思って、何か提案とかあるかな? ここを強くしたいとかさ?」


 考えていた事を伝えると、リーダーの男が顎に手をやり一緒に考えこむ。


「んー……。ある程度の強度はあるんだが、やはり魔法には弱いな」

「じゃあ。魔法に強くしたい感じ?」

「まぁ……。そうだな。だがそんな事が出来るのか?」


 実は、アレティーシアとレフィーナの魂と融合したおかげで、なんと僕にも普通に魔法が使えるようになっていた。


 バリアが使えた時に、ふと不思議に思ったんだよ。だってバリアは、”召喚出来るモノ”じゃなくて完全な魔法だからさ。


 それで心の中でレフィーナに聞いてみたら『最上級のプレゼントなんですの。きっとこれから役に立ちますの』と答えが返ってきたんだ。しかも浄化とか破魔や神聖魔法といった感じの光の部類の魔法らしい。敵が使うのはどう考えても黒魔法系っぽいから、対抗策としては光系は抜群に力を発揮してくれそう。


「うん! 試してみないと分からないけど、上手くいけば出来ると思うよ。ヤジリを一つ貸してもらってもいいかな?」

「分かった。試してみてくれ」


 リーダーの男は、近くで作業をしていた壮年のエルフから黒い石のヤジリを受け取り、僕に渡してくれた。


「失敗したらゴメンね」

「ヤジリは沢山作ってある。気にするな」

「うん。ありがと!」


 受け取ったヤジリを地面に置いて、手をかざし破魔と強化の力をイメージする。手のひらから力がヤジリに入っていく感じがする。その次の瞬間、ヤジリが眩い光を放ち、徐々に光が収束すると共に黒かったヤジリは、光の加減で純白に輝く鋭いヤジリに変化した。


「たぶん上手くいったはずなんだけど……」

「試すなら、これでどうだ?」


 リーダーの男が、ズボンのポケットから取り出した小さな布袋を僕に渡してきた。中を覗くと見た事がある紐が入っている。


「これって! もしかして商人が着けてる赤い紐?」

「そうだ。我ら全員、赤い草の影響は、あまり出なくて正気を失うことは無かったんだが、その代わりコレで縛られて逃げられなかったんだ。敵の隙を狙ってボスが赤い紐を切って我らを救ってくれたんだ」

「そうだったんだね」

「あぁ。けどボスがコレはかなりの邪気が込められているって言ってたから、その辺に捨てて悪用されても危険なんで皆んな持ち歩いてるって訳だ」

「なるほど。コレを切る事が出来れば敵にも太刀打ちが出来るんだね」


 僕は袋の中から、紐を取り出して木に立てかけてあった板にくくりつける。そしてリーダーの男に、先ほど加工したヤジリも手渡す。それを素早く矢にセットして弓を構える。


「やってみるぞ」

「うん!」


パァーン!


 見事に細い紐に命中した。瞬間、赤い紐は砂のようにサラサラと崩れ消えていった。


「成功だな」

「成功したね! じゃ! この辺りにある全部の武器を強化しておくね」

「ありがたい。よろしく頼む」

「任せて! あとリーダーさんは弓も出来るんだね!」

「槍と弓が得意なんだ」

「そうなんだ! 凄いなぁ!」

「一応この集落の長だからな。強くなくてはならんのだ」


 胸を張って言うリーダーの男は、間違いなく自分の強さに自信があるのだろう。何だかとても誇らしげだ。


「そろそろ夕暮れだな。皆の所へ戻ろう」


 頭上を見上げると、湖はオレンジ色の輝きを放ち、もうすぐ夜が訪れる事を知らせている。


「うん。帰ろう!」



 敵へ対策を練っているうちに、アッと言う間に時が過ぎていった。

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