第22話、その時が来る前に
作戦決行までの9日間は慌ただしく過ぎていく。準備に追われて集落の全員が慌ただしく働いているから、ご飯の時くらいしか人々の姿が見えないくらいだ。
僕の忙しさも例外では無くて、湖から少し離れた場所に、作業をするために大きな倉庫を呼び出した。
”モノを呼び出す”召喚に慣れてきたので、僕が見たことがあるモノなら、何でも召喚出来るようになったので倉庫のような大物も余裕だったりする。
「まずはコレが無くちゃ話にならないよね」
噴霧出来るようにノズルの付いた、強化版万能除草剤を5000個作った。これならドラゴンに乗りながらでも、片手で液体を大陸全体にふりかけられそうだ。
「次は一番、重要な万能薬」
奴隷にされて意識を奪われ操られている人たちを、一気に正気に戻す為の強化版万能薬も15000個ほど作っておいた。
「よし! これだけあれば大丈夫かなぁ? 足りなかったら、また作ろう」
この数日間、休憩しないまま作りまくったので少し疲れた。疲れた時は甘いものが欲しい。今の僕なら、ケーキさえも簡単に呼び出せるけど、リュカと天音と家族で、平和に暮らせるようになるまで、お預け中だったりするからダメなんだよね。
「こんな時はカリンさんから貰ったドライフルーツを食べよう。天音も食べる?」
「にゃにゃん!」
リュカが、倉庫の隅に置いていったカバンから、ドライフルーツの入った紙袋を取り出しガサガサ音を立てると、僕から少し離れた所で寝ていた天音が文字通り嬉しそうに飛んできた。
「最後の一個だ。天音、半分こしよう」
「にゃん」
大きめのマンゴーを半分にちぎって、一つは自分の口にパクリと放り込み、もう半分は天音の口元に持っていく。天音もパクリと咥えて、僕と一緒にカミカミ噛みしめる。貰ってからけっこう時間が経っているけど、フルーツの甘味もジューシーさも変わらない。
「ん〜! 美味しい!」
「にゃ〜ん!」
この世界では紙は、とても貴重で贅沢品なので、ドライフルーツの入っていた紙袋は何だか捨てられない。しかも固くてしっかりしてるから何かに使えそう。と言う訳で、綺麗にたたんでから、リュカのカバンにソッと戻しておいた。
「リュカたちは、どうしてるんだろ?」
最近はリュカも準備や、日々の剣の鍛錬の為に、僕とは別行動が多い。クロトは相変わらず、集落の人たちのお手伝いをしたりして過ごしてると言っていた。
「天音! 2人の様子を見に行ってみよう」
「にゃん!」
気になるなら見に行けばいい。そんな訳で、天音を誘って息抜きに出かける事にした。2人が喉が渇いているかもしれないから水筒も2つ持つ。
歩き始めると、地下の小さな集落なのに変化が激しい。
クロトがこの地下に来て、すぐに手伝っていた家は完成して、既に夫婦が暮らしているのが窓越しに見えた。
まだ行ったことのない、木々が生えた林のような場所へ入っていく。
カン! スパン!! ズザァー!!
激しく何かを打ち合い、転んだような音が響きはじめた。
「もう一度、お願いします!」
「分かった。来い!!」
林の奥までくると、クロトとリュカの声が聞こえてきた。木の影から2人の様子を伺う。
クロトは真剣な表情で木剣を構え、そしてリュカに向かって走り出し木剣を振り下ろす。
ガツン!!
その力強い木剣を、リュカは自らの木剣で難なく受け流す。
「やっぱリュカデリクさんは強すぎっすよ!」
「クロトお前も充分強い。たった数日で基本的な剣の型を覚えたんだからな」
「そうかなぁ? だといいんだけどさ」
「弓をやっていたおかげなんだろうが筋がいいと思う」
「そっか。ありがとう」
リュカに褒められたクロトは嬉しそうに笑んでいる。
それからリュカが僕の方に振り返る。やっぱり僕がいる事に気がついていたみたいだ。
「タキも来てたんだな」
「うん。僕の作業は終わったから、皆んなどうしてるのかなって思って見にきたんだよ。剣の稽古してだんだね」
「あぁ。クロトから剣を教えて欲しいと言ってきたんだ」
「そうなんだね」
リュカの後ろにある木に向かって、クロトは汗を飛び散らしながら、ひたすら剣を振る練習を続けている。その真剣な表情のクロトを見ていると、本気で自分を変えようと強くなろうと足掻いているのが分かる。
「弓だけだと敵に接近された時に危険だからと言ってな」
「たしかに弓は近接戦は不向きだよね」
「あぁ。そういう事だ。それに剣は覚えておいて損はないからな」
クロトは魔力が全く発現しなかったみたいだから、剣と弓を極める事にしたんだろう。この世界に来て思い知ったんだけど、普通に山賊とか魔物とか、そんな感じに命を脅かされる事柄が多い。護身術は必須なんだと思う。
「そっか。じゃ、コレ渡しとくね。休憩の時に飲んで!」
「ありがとう。助かる。あとでクロトにも渡しておく」
手に持っていた2つの水筒を手渡しリュカと別れた。
ちなみに天音は、ずっと僕の肩に前足をかけ、うたた寝中だったりする。散歩に飽きてしまったらしい。
森を抜けて、住居が立ち並ぶエリアにくると、20名ほどの女性陣が、家の庭先で木製の椅子に座り雑談をしながら裁縫をしているのに出くわした。
「おや。あんたはこの間、地下集落に来た子だね」
「こんにちは!」
「こんにちは。元気のいいお嬢さんだね。散歩かい?」
「色々見てみたくてさ。歩き回っていた所だよ」
「ここは地下とは思えないくらい良い所だろ」
「うん。ちゃんと昼と夜があるのにも驚いたし、街が一つある事にもびっくりした! それに景色も凄く綺麗だよね!」
僕が思ったままの事を言うと、女性は嬉しそうに微笑んだ。
「気に入って貰えて良かったよ」
「ところで貴女たちは何を作っているの?」
「これかい? これは今度の救出作戦の時に保護されてきた人々の為の衣服を、ここにいる皆んなで作っているんだよ」
女性が指差す方を見ると、既に出来上がった衣類が山と積まれている。たぶんリーダーの男の人が、着るものを作るように指示を出したんだろう。
「凄い!」
「ふふふ! あともう少しで出来上がるから楽しみにしといてね」
「うん! 楽しみにしているね!」
手を振って住居エリアを後にする。
「あとは、どこに行ってみようかなぁ?」
そう言えば、リーダーの男を見かけない。と言うか男性陣が見当たらない。
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