第21話ー2


 この世界で、心にも身体にも深い傷を負い子供のように震え、しゃくりあげ泣き続けるクロトの背中に、ソッと触れるとビクッと身体が震えた。


「この世界はクロトにとってツライ事ばかりだったと思う」

「……俺に……ツライなんて言う資格なんかねーよ……」


 たしかにクロトは許されない事をした。でもだからと言って、これから先も苦しまなくてはいけないなんて事は無いはずなんだよ。


「ゔぅぅぅ……」


 未だに苦しそうにうめいて泣いて、ついにはうずくまってしまったクロトの背中を少しでも癒せるようにと慰撫する。


「僕たちと来る?」

「……いいのか?」

「うん。僕たちと旅をしてこの世界を見て、それから先の事はクロトが決めたらいいと思う」

「……ありがとう……本当に……ありがとう……」


 気持ちが落ち着いたら戻ってくるだろうと思いクロトを、その場に残して僕はリュカの待つ湖の岸辺に戻る為に歩きだした。


 戻る途中の木の影から、リュカが出てきて僕の頭をクシャリと撫でた。


「もしかして聞いてた?」

「あぁ。見回りから戻る途中でな」

「そっか……。あのさ、僕ってやっぱり甘いのかな?」

「いや。断罪するよりも、許す方が難しい。だからオレは甘いとは思わない」

「そうなのかな?」

「あぁ。許す事の出来るお前は強くて優しい」

「……ありがと。リュカ」


 湖の岸辺に戻ると、僕たちを待っていたリーダーの男が手招きをしている。


「大体の事はボスから聞いている。当然、我らも力を貸すつもりだ。作戦とかはあるのか?」

「ありがと! うん。まずは赤い草を消そうと思うんだ。黄の大陸の魔王ルルカに強化版万能除草剤をドラゴンを使って白の大陸全体に撒いてもらって、同時に僕と青の大陸のユラハで浄化魔法を使う」

「なるほどな。それならばいけるかもしれんな」


 僕の答えにリーダーの男は納得して頷く。


「その後、まずはオレと赤の大陸のルデラたち獣人族で、赤い草の加工所と畑を潰す。同時に黒の大陸の精鋭部隊で奴隷にされた者たちの解放するつもりだ」


 リュカも作戦を伝えると、リーダーの男は「ふむ」と相槌を打ち僕たちを見る。


「では我らは解放された奴隷の保護をしよう」

「それは助かる。よろしく頼む」

「任せてくれ」


 2人が握手を交わし頷き合う。


「僕からも頼みたい事かあるんだ」

「なんだ? 我らに出来る事であれば協力する」

「万能薬を渡しておくから保護した人たちに飲ませてあげて欲しいんだけど良いかな?」

「そのくらいであれば大丈夫だ。任せてくれ」

「ありがと! よろしくね!」


 リーダーの男は僕に向かって、ニッと頼もしげな笑みを浮かべる。とても心強い。


「赤い草を根絶やした後は、敵の本拠地に突撃する訳だが、オレとタキと天音と……」

「あのさ! 俺も連れてってくれねーか? その……敵の本拠地の場所も知ってるからさ」


 突然、会話に入ってきた声の方を、この場にいた全員が注目すると、目元を真っ赤にしたクロトが立っていた。


「俺も戦いたいんだ!」

「死ぬかもしれない。それでも来るか?」


 リュカが、クロトの目の前までいき真剣な表情で問う。


「覚悟は出来てる。それとさ。サリアには言って無かったんだけどよ。弓道をやってたんだ。だから少しは役に立てると思う……」

「弓道って事は、弓が出来るの?」

「あぁ。小さい頃からやってる。なによりも弓は好きだったからさ。そこそこ自信があるんだ。だから……」

「見てみたい!」


 僕の周りは、剣や槍や魔法を使う人たちはいるけど、弓を使う人は初めてなので興味が湧いてしまう。


「それはいいけど弓はあんのか?」

「ある。倉庫から取ってくるから待ってろ」


 リーダーの男も気になったようで、倉庫のある北に向かって走っていってしまった。


「クロトは、剣は全く慣れない感じだったからイメージ出来ない」


 この世界で、クロトに再会した時の感想を僕が小さくつぶやくと、クロトが「だよな」と苦笑いをした。


「こんなのしか無かったが、どうだ使えるか?」


 リーダーの男が走って戻っくると、クロトに木製の弓と石製のヤジリを渡す。それをじっくり検分して弓のツルを少しいじる。


「なかなか良い弓だと思う。矢はどこに放てばいい?」

「それなら、そこの取り壊し予定のオンボロ小屋の壁に向けて放ってくれ」

「分かった。じゃ。その小屋の窓枠の角を狙う」


 弓を構えるクロトは普段のチャラい感じは消え、姿勢を正し眼光も鋭く前を見据える。


 狙うは幅2センチほどしか無い窓枠。


 そして。


パァーン! パァーン! パァーン! パァーン! 


 空気を切り裂くような音と共に、小屋の細い窓枠の四隅に全て命中した。


「凄いな。少しどころか、精鋭部隊並みの腕前だ」

「うん。こんな小さな的に当てられるなんて凄すぎるよ!」

「兄ちゃん凄いな」


 僕たちが褒めちぎると、クロトは照れ臭そうにしながら頬を爪でカリカリ掻いている。


「どう? 連れて行ってくれるか?」

「あぁ。充分な戦力だ」

「一緒に行こう!」

「良かった。ありがとう」



 一気に本拠地を叩く為の諸々の準備がある。だから作戦の決行は10日後に決まった。


 僕とリュカは、今までに知った情報と作戦を書き記し協力者たちに鴉を飛ばした。敵に察知される恐れがあるから返事はいらないと言う言葉も添えた。


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