第20話ー3


 このままだと、この世界とレフィーナが死んでしまうって事だよね? しかもレフィーナの言い方だと、かなり大勢の犠牲者も出ていてマズイ状況だ。


 となると、赤い草で覆われてしまっている、この白の大陸を、どうにかしないといけないと思う。


 とりあえず万能薬で何とか出来るかな? でも地中深くまで根がはってるとなると、ただ万能薬を大陸にかけるだけじゃ効かない気がする。除草剤とか効くかな? 万能薬に除草剤を混ぜてみるとか……。


「よし! やってみよう!!」

「何か思いついたのか?」

「うん! リュカ地上に行って確かめたい事があるんだけど良いかな?」

「分かった」

「レフィーナさん少しだけ地上に行って来ます」

『分かりましたの。けれど護衛も連れて行っていただきたいの』

「ありがと!」


 レフィーナが、後ろを振り返り合図すると、先ほど僕たちを、ここまで連れてきてくれたリーダーの男が現れて「ついて来い」と言って歩き出した。多分、結界を通る事になるからなんだと思う。リュカに再び、おんぶしてもらい地上まで上がった。


 隠蔽の術はかけているけど念の為に、洞窟から15分くらい離れた場所まで歩いて立ち止まり座り込む。


 脳内で、万能薬と、自然を壊したりしない優しい除草剤を思い浮かべ、更にその二つが混ざるのをイメージし、指先に力を込める。


『万能除草剤』


 緑色のガラス瓶に入った液体が現れ、赤い草のクッションの上に落ちた。


 それを拾い上げ、コルクの蓋を開けて周囲に液体をかけてみる。上手く出来たと思うけど、果たして地中深くまで染みていくかが分からない。


「確かめたい事とはなんだ?」


 一連の動作を見ていた、護衛の男が石槍を地面に刺してから、僕が液体をかけた赤い草を覗きこんできた。


「上手くいくか分からないけど、赤い草だけを枯らして消滅させる薬を作ってみたんだよ」

「効果があれば凄いが、すぐには分からないんだろ?」

「うん。地面に染み込ませて根っこまで枯らしたいからね」

「ならば一旦戻ろう。夕暮れが近い。夜は危険だからな」


 座ったまま見上げると、地上の毒々しい赤とは全然違う、美しい茜色に染まった空に一瞬、目を奪われてしまう。


「うん。また明日、様子を見にこよう」


 リュカと護衛の男と一緒に再び地下に戻る事にした。


「あのさ。聞いてもいいかな?」

「なんだ?」

「人を探してるんだけど、赤毛で緑の瞳のミダって男の人を知らないかな? 左目の上に斜めに傷があるみたいなんだけど」


 この白の大陸まで船で一緒に来たカダさんの弟の事を、僕たちの後ろを歩く護衛の男に聞いてみると顎に手をやり「う〜ん……」と唸って、更に腕を組んで考えてくれた。そして。


「赤毛か……地下の集落では見ないな。もしかすると赤い草の加工所にいるかもしれねーな」

「赤い草の加工所?」

「あぁ。赤い草を育てたり、お香とか茶葉に加工する場所があるんだが、そこにかなりの数の人間が奴隷にされて働かされているんだ」


 それって、アラディスさん、リュカのお父さんがいる所と一緒なんじゃ? と思って、リュカを見上げると頷き「そうだ」と答えてくれた。


「情報ありがと!」

「いや。かまわない。我らも彼らを助け出したいと思って色々探っている最中だから役に立って良かった」


 元の湖の集落まで戻り、レフィーナにも除草剤の事を伝えると『上手くいくといいですの』と言って微笑んでくれた。




 次の日、昨日と同じメンバーで除草剤を振り撒いた場所へ行ってみた。


「微妙だね。あんまり地面に浸透してない感じ」

「あぁ。これでは、息を吹き返して根を張るだろうな」


 半径1メートルの範囲内の、赤い草が萎れて茶色に変色してはいるけど、根っこの部分にはダメージは無い気がする。思わずガックリ肩を落としてしまう。


「しっかり白の大陸の奥深くまで根が張っているから、一気に浄化出来る強力な魔法でも無きゃ無理だろうな」


 そんな僕たちの様子を見ていた、護衛の男がポツリとつぶやいた瞬間ひらめいた。


「それだよ! ユラハが確か浄化の加護を貰っていたよね! 僕の万能除草剤と一緒に使ったらどうかな?」

「なるほど。それなら、もしかしたらいけるかもしれないな」

「うん!」


 思いたったが吉日。と言う訳で、赤い草の上に座り込み、ユラハに赤い草の浄化についての手紙を書いた。


『隠蔽鴉』


 見つかってしまう恐れがあるので、隠蔽の術もプラスした鴉を呼び出す。僕の肩にとまった鴉の足に手紙をくくり付ける。


「出来るだけ早くユラハに届けてね!」

「カァカァカァ!!」


 僕たちの頭の上を一回りしてから青の大陸に向けて羽ばたいて行った。


 もう一通ルルカ宛に、除草剤をドラゴンで広範囲に撒いて欲しいと手紙を書いて、同じように隠蔽鴉にくくり飛ばした。


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