第20話ー2
「希望の光?」
『えぇ。そうなの。でもその前に、ほんの少しだけ250年前、レフィーナが産まれるキッカケになったお話をしますの』
「もしかして赤い植物にも関係あるの?」
僕の問いかけに、頷きで答えてから話し始めた。
◇◇◇◇◇
約250年ほど前、白の大陸。大精霊の湖の岸辺。
「スヴェン、最近見かけるこの妙な赤い草はなんだ?」
俺の問いかけに、スヴェンは地に膝をついて赤い草の葉を千切り匂いを嗅いだり、口に入れて噛んでみたりする。
『……ククク。ついに成功しましたね。これは、なかなかに面白い事が出来るのですよ』
「何が出来るんだ?」
『見てください』
スヴェンが湖の水の中に赤い草を入れると、たちまち細く長く枝が伸び始め、枝の先からは蔦が伸び、更に糸のように細く伸びて行き、湖の深い所へと糸の先が潜っていく。
「不思議な植物だな。それでその糸はどこまで伸びるんだ?」
『大陸の外にまで伸ばす事が出来るのです。そしてオレたちの道しるべにもなるのです』
「まさか、この大陸から出る事が出来るとでも言うのか?」
『はい。まずはこの赤い草を大量に育てる事です。さすれば細い糸は太くなり我らを導くでしょう』
だが問題は、俺だけではそんな立派に道に出来るほど赤い草の面倒を見られない。と言うより植物など育てた経験が無い事だ。
「少々、面倒だが奴隷でも買うかな」
『そのような事をせずとも人間を攫って来たらよろしいのです』
「そう……だな……」
無理矢理、この世界に飛ばされてきた俺が、今度は攫って来る側になるとは皮肉だと思ってしまう。
『この白の大陸にも、まだ集落が残っております。スヴェンにお任せ頂ければ何とかいたしましょう』
「分かった。頼む」
スヴェンはお辞儀をして霧と共に消えていった。
手始めに、白の大陸に元から住んでいた者たちを攫ってきては赤い草で操り、全ての大陸に商人として送り込んだ。
他の大陸でも赤い草を繁殖させるために、まずは奴隷たちに赤い草を加工させ人々を操ることにした。精神支配してしまえば動きやすいと考えたためだ。
赤の大陸に送り込んだ時は、思うように成果は得られなかった。獣人は、どうやら赤い草に対して抵抗力が強いようだ。
青の大陸とは相性が良く赤い草が根付き始め、大陸間を少しの時間なら移動出来るようになっていった。しかもエルフの意識を奪う事も可能だと分かった。
黄の大陸は失敗に終わったが、黒の大陸に種を蒔く事は出来た。
スヴェンは、ゆっくりと時間をかけて、まるで自然に赤い草が広がっていったかのように装って事を進めていった。
同時に、この”世界レフィーナ”自体の命を脅かしながら……。
赤い草の毒素が、レフィーナの大地と海を穢し縛りつけられ痛みと苦しみに悲鳴を上げる……。
じわじわと、大地は侵食され続け100年ほどが経った時”それ”は生まれた。
“それ”の姿はとても小さい……けれど、この世界そのものの力を持った真の大精霊レフィーナが産み落とされたのだ。
◇◇◇◇◇
『その時にレフィーナは、この湖で産まれましたの』
「へぇ! レフィーナって、この世界そのものの名前だったんだね!」
「初めて知ったな」
リュカも知らなかったようで、かなり驚いている。
『そうなの。あまり知られてないけれど、この世界にはレフィーナと言う名前がありますの』
「素敵な名前だね!」
『ありがとうございますなの』
僕が褒めると、頬を赤らめ嬉しそうに微笑む。
そして赤い草についての重要な情報もあったように感じた。
「聞いてて思ったんだけど、赤い草って、もしかしてス……が作ったとかって無いかな?」
危うく名前を言ってしまいそうになる。でもスヴェンが持ち込んだ、あるいは創り出したモノと考えるとしっくりくる。
『間違いなくそうでしょう。あの者も大精霊ですから、禁忌の術を知っていてもおかしくありませんの』
「赤い草は禁忌の術で出来てるの?」
『そうなの。妖精の命で作り出されたモノですの。しかも生きたまま苗床にする、とても残忍な術なんですの。だから禁術とされているんですの』
ユラハたちエルフが、妖精をあまり見かけなくなったと言っていた事を思い出す。
「青の大陸で妖精が山から降りて来ない理由は寒いからだけじゃなかったんだね……」
『えぇ。かなりの数の妖精が死に絶えてしまいましたの』
レフィーナは悲しみに目を潤ませ、自身の身体を抱きしめ痛みに耐えるかのように蹲る。
『赤い草は妖精の命を吸い尽くした後、レフィーナの、この世界の地中深くにまで根を張り巡らせ、命そのものを吸い取り滅ぼす事ができますの』
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