第19話ー4

「調査って言っても一面、真っ赤な大陸だから何処に向かって行けば良いのかな?」

「何か建物でもあれば人に話が聞けそうなんだがな……」


 リュカの身長は多分185はあるから、僕より遠くまで見渡せるはずなんだけど何も見えないみたいで頭を抱えてしまっている。


「あのさ。奴隷たちの噂話程度なんだけど、それでも良いなら人が居そうな場所に心当たりがあるぜ」


 寝転んだままクロトが、僕たちに再び話しかけてきた。


「まぁ。闇雲に歩き回るよりは良いだろうな。知っている事があれば教えてくれ」

「分かった。ん〜……こっからだと……北西に向かうと洞窟があるらしいんだ。そこに赤い草を食べても正気でいられた奴らが集まって暮らしてるって噂があんだよ。本当かどうか分からねーんだけどさ」


 真っ平で赤い草しか無い所に、洞窟があるってだけで興味が湧いてしまうし、もしかしたら攫われた人たちもいるかもしれない。


 そして。


「それが本当なら味方にもなってくれるかな?」

「だといいが。とりあえず行ってみるしかないだろうな」

「うん。そうだね。あとクロトなんだけど、どうしようか?」

「このまま放置したら、また悪用されかねない。連れて行こう」


 リュカが、クロトを縛っていた縄を一旦解いて、クロトの胴回りに縄をかけ縛る。たしかにこれなら一緒に歩く事が出来そうだ。


「暗くなる前に少しでも進もう」

「うん」


 けど少し心配になる。もし本当に洞窟に隠れ住んでいる人々がいるとしたら、このまま洞窟に行くのはマズイと思う。白の王側に知られてしまって、また人が酷い目にあう。もうそんなのは見たくない。


「ちょっと待って!」


 結界から出ようとするリュカの袖を掴む。


「どうした?」

「白の王に悟られないように、動きながらでも向こうに気づかれないようにしてみる!」

「そんな事、出来るのか?」

「分からない。けど無防備に進むのは危険だと思ってさ」


 指先に光を灯し、脳内で、ゲームでよくみる”隠蔽能力”と、テレビで見かけた忍者の”隠形術”を、思い浮かべ、更に多少の攻撃を跳ね返すバリアも付け加える。


『隠蔽バリア』


 僕とリュカと天音と、そしてクロトにも透明で青く薄いバリアが体を覆う。パッと見は雨ガッパに似ている。


「これで白の王には僕たちの姿は見えないよ」

「凄いな。まるで透明なコートだな」

「魔法って万能過ぎじゃん!」


 リュカもクロトも、自身に張り付く薄い膜を見て驚いている。


「にゃうん!」


 何故だか天音が自分の手柄のようにドヤ顔をしている。胸を張って尻尾をピンと立てて飛ぶ姿が妙に可愛い。


「では行こう」

「うん!」


 3人と1匹で赤い草をシャクシャク踏みしめながら歩き始めた。


 歩きながらふと思ったのは、奴らにとってクロトが、なぜ役立たずなのか? と言う事だ。操るだけなら、どんな状態でも良いはずなのに……。


「あのさ。クロトは何で奴らに置いていかれたの?」


 直球な質問に、クロトが少し怯えた表情をしてから深呼吸すると僕を見る。


「俺は能力が何も出なかったんだ……。赤い草を食べた殆どの人間はスゲェ魔力を手に入れたり、身体能力ってのかな? そんな感じなんが超人的になるらしかったんだけどよ……。俺は赤い草を貪り食うだけの理性のない道具にもならねー失敗作って言われた……」


 ポツポツと悲しみを痛みを堪えながら話すクロトは震えている。とても嘘を吐いているようには見えない。


「サリアはどうだったの?」

「あいつは魔力があるから利用出来るって言われてたな……」

「そっか……。あともう一つ聞いていい?」

「なにが聞きてーんだ?」

「サリアの本当の幸せって何だったんだの?」


 前世で“俺”といた時から事あるごとに、サリアは「幸せになりたい」と言っていた。けど前世の時も、今でもサリアにとって何が幸せなのかが分からない。


「あいつと俺は孤児院育ちなんだ。だから多分、普通に結婚して家族が欲しかったんじゃねーかな……」

「そうだったんだ」


 まだまだ僕の知らないサリアがいる気がする。


 サリアは、とにかく秘密が多かったから……。プライベートな事を聞くと艶やかに微笑んで「内緒よ!」と言って、よく誤魔化された。


「いつかサリアの事を色々聞かせて欲しい」

「……分かった」




 

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