第19話ー2

 クロトを放置していく訳にはいかないので、お婆さんを埋葬した場所に、手首を縛って寝かせておく事にした。天音は警戒して未だに毛を逆立てクロトを睨んでいる。


「逃げ出したりしないかな?」

「縛りつける木すら無いから仕方ないな。それに逃げる事もままならないだろうな」

「だよね」


 僕たちが乗って来た小舟はあるけど、赤い糸に行くてを阻まれ進むのが難しい。漕いで沖に出るには、赤い糸を散らす人と漕ぐ人が必要になるから最低2人いないと無理だからね。


「じゃ。これからどこに向かおうか?」

「目印でもあれば良いんだが、見渡す限り赤いからな」




「……逃げるつもりはねぇよ。あと俺の知ってる事も話す」


 赤く染まった大地を見ながら、これからどの方角に進むか考えていると背後から声がした。振り返るとクロトが目を覚まして、赤い草の上に転がりながら僕たちを見上げていた。


「目が覚めたんだね」

「フシャァ!」

「あぁ……あとサリアが……もう死んだ事も分かってる……」


 僕が問うと一瞬、顔をツラそうに歪ませ目を閉じた。まさか操られていた時の記憶もあるとは思わなかった。


「今までの事を全て話せ」

「僕も聞きたい」

「分かった。お前たちの城で捕らえられてからの事を全て話す」


 けど、このまま話をさせるのは危険な気がする。敵は、まさに霧と共に現れるのだから。


 こんな時は、音を遮って敵を通さない、バリアとか結界みたいな空間があったらいいよね。


 そして今の僕ならソレを作り出せるはずだとも思う。


「待って! 結界をはってみる」

「分かった。頼む」


 昔アニメやゲームで見た事があるバリアを脳内に思い描く。


 どんな攻撃も、どんな強敵も、どんな大魔法さえも通さない。そんなイメージ。


 指先に力が集まるのを感じ、それをそのまま押し出す。


『万能結界』


 僕たちの回り約5メートルくらいを青いドームで包みこんだ。


「初めてだけど上手くいったよ!」

「タキは凄いな」

「えへへ」


 頭をクシャリとリュカが撫でてくれる。褒められると嬉しい。天音も肩に乗ってきて僕に体をスリスリして一緒に成功を喜ぶ。


「準備は出来た。話してくれ」


 リュカの言葉に、クロトは頷き話しはじめた。




◇◇◇◇◇


 約一年ほど前、黒の大陸、ミュルアーク王城の地下牢。


 城に忍びこんだは良いけど、俺たちはあっさりと捕まってしまった。


「これから、どうすんだよ……」

「もちろん抜け出すつもりよ」

「どうやって? 窓も無いんだぜ?」

「クロトあなた気がついてないの? あたしたちには護衛がついているのよ」


 まぁ。俺たちは、双子神子とかいう存在だと信じられているから、護衛がいてもおかしくは無い気がする。


「そうなんか? けど何となく嫌な予感がするんだけど……」

「クロトって思ったより臆病なのね」

「そんなんじゃねーけど、俺の予感って割と当たんだよ」

「ふふふ。もしもの時は、あたしがクロトを守ってあげるから安心して!」

「そこは逆じゃね?」

「ふふふ!」


 サリアは、俺より度胸があるし色々な意味で思い切りも良い。だから今回の件、倉田木シンを殺す計画もサリアが立てたし、たぶんこれからの事もサリアに任せておけば何とかなる気がしていた。


 けど、このなんとも言えない不安感はなんだろうか?


「もう! そんなに心配しないでも大丈夫よ」


 サリアは俺の手を引っ張って、木製のベッドに座る。サリアが隣に座れというようにポンポンと叩いて俺を見上げている。ゆっくりと座るとギシギシッと音がなった。


ドサッ……。


 と、その時、地下牢の前で俺たちを見張っていた兵士が突然倒れた。


ガチャガチャ!


カチ!


ギィィィー……。


 鉄製の扉が油の切れた音を立てて開いた。


「お迎えにあがりました。双子神子様」

「待ってたわ!」


 サリアは嬉しそうに両手を広げて迎え入れる。すると忍者のような黒装束の男が3人、お辞儀をして牢屋に入ってきて、素早い動きで俺とサリアの背後に回り込んだ。


 そこで俺の意識は途切れた。




 次に目が覚めた時には、両手両足を鎖で繋がれて、首も動かす事が出来ないように鉄製の首輪で固定されている。目だけを動かし隣を見るとサリアも同じように磔にされていた。


「ようやくお目覚めかな?」

「これはどう言う事よ! あたしたちは双子神子よ! 天罰が下るわよ!」


 サリアが強気に言い返すが、ラウルは口元にイヤらしいニタニタとした笑みを浮かべる。


「貴様らが本物の双子神子であるなら崇めもするし丁重にもてなそう」

「この胸の紋章が見えないの? これこそが本物の証でしょ!」


 ラウルの背後で、カタンッと音が鳴り思わずビクッと震えてしまう。音の方に視線を動かすとシャイナが、先端に円形の平たい赤々と燃えるモノがついた長い棒を持ち、俺たちの方へと歩いてくる。


「まぁねぇ。それが本物であればの話よね」

「だな。焼印を近づけても本物ならば、これくらいは魔法で弾く事が出来るだろう」



 それからは思い出したくもない地獄が始まった。生きているのか死んでいるのか分からない程の苦しみと痛みの毎日だった。






 再び意識が回復したのは、この赤い草に覆われた大陸に来た時だった。

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