第18話、赤に染まる大陸。そして……
コンコンコン!
6日目の朝、船室のドアがノックされる音で目が覚めた。リュカが二階建てベッドから飛び降りドアを開くと、健康的に日焼けした褐色の肌で、背が低くどっしりとした体格をした、スキンヘッドが特徴的な初めて見る男が立っている。
「朝早くから悪いね。ワシは船長のガイってんだが甲板に来てくれねぇか? もうこれ以上この船では進めそうに無いんだわ」
船長さんだったみたい。確かに、いかにも海の男って感じがする。でも進めないって、一体どう言う事?
「分かった。タキも来い」
「うん! 天音おいで!」
ベッドでまだ寝ていた天音を、ソッと抱き上げ胸元に入れる。
「うにゅにゃ」
寝言だろうか? 口元をモゴモゴさせ再び寝息をたて始めた。なんだか可愛いくてほっこりする。
甲板まで行き、500メートルほど先の前方を見ると、言葉を失ってしまう光景が広がっていた。
大陸全てが、赤で埋め尽くされているのだ。
しかも青の大陸で見た、あの妙な赤い糸が大陸から海へと大量に溢れ、滲み出るように波に揺らされ外海へ広がって海面さえも赤く染まってしまっている。
船の前にまで糸は迫り、まるで生き物のようにユラユラ妖しく蠢く。
「な……に……コレ?」
「細い糸か?」
あまりにも異様な光景だ。そして仄かに香るのは青の大陸で使われていたお香と同じ匂い。
「あぁ。糸に見えるが、木の棒で引っかけて確かめたんだが普通の糸じゃねぇな」
「船長さん、その糸、少し分けてくれない?」
「いいぜ」
船長さんが、木の棒に絡んだ糸を一本抜き取り渡してくれた。腰をかがめて、それを床に置いて触ってみる。やっぱり同じ手触りで、ちぎれにくい丈夫な糸だ。
「リュカ、万能薬を1本出してもらっていいかな?」
「分かった」
リュカがカバンから万能薬を取り出し床に置く。その万能薬を手に取り蓋を取り、赤い糸にゆっくりとかけていく。
すると溶け出すようにサラサラと崩れていき糸は消えてしまった。
「間違いなく青の大陸で見た糸と同じだな」
「うん。そして赤い糸の出どころは白の大陸だったんだね」
「あんたたち原因知ってんのか?」
「原因は、まだ分からない。だがこの糸と同じものが青の大陸でも発生した事があった」
リュカの言葉に、船長さんが腕を組んで唸る。
「参ったなぁ。このままだと海全体に広がっちまいそうだなぁ」
「うん。まるで生き物みたいに見えるし……」
はっきり言って不気味で気持ちが悪い。
「とりあえず上陸してみるしかないだろう」
「そうだね」
立ち上がり、拳を握って気合いを入れる。
「行くんなら小舟を出してやる。おい! 手の空いてるヤツ手伝ってくれ!」
甲板で談笑をしている船員に呼びかけると、ドタバタ大きな音を立てて筋肉隆々の力強そうな2人の男が走ってきた。そして船長さんが指差す小舟を、ロープに括り海に降ろし、ついでに縄梯子もかけてくれた。
ギシギシ縄梯子を鳴らしながら小舟にリュカが飛び乗る。僕もその後に続いて降りていき「来い」と言うリュカの声で飛び降り受け止めてもらった。
「昨日の婆さんも舟に乗せていく降ろしてくれ!」
「分かった!」
船長さんが、お婆さんの遺体にロープを巻き付けゆっくり降ろす。しっかり受け止めて、とりあえず小舟の後部座席に寝かせておく。
「行って来ます!」
「では行ってくる! 船は大丈夫だと思うが気を付けてくれ!」
「分かった! あんたらも気ぃつけろよ!」
僕が小舟の行き先を邪魔する赤い糸を棒に絡めて進みやすくする。リュカはそれに合わせてオールを漕ぎ始める。
「お婆さんの遺体は白の大陸に埋葬するの?」
「あのまま船に置いておく事は避けたかったから、その方がいいだろうな」
「そっか……」
「それに赤い糸が、こんな沖合まで伸びてるんだ。赤い糸で遺体を操られて船を沈められる心配もあるからな」
「確かに帰りの船が無くなると困るよね」
出来る事なら遺体は家族に返したいけど、これから対峙するのは、死体すら操る厄介なヤツらだから仕方ないのかもしれない。
ゆっくりゆっくりと、真っ赤に染まる大陸へ近づいていく。
かなり時間がかかったけど、遂に赤い草が生い茂る大陸に上陸した。
「赤い草以外の植物は生えて無いみたいだね」
「妙だな。樹木も1本も無い。赤い草の草原といった感じだな」
周囲を見回すけど赤い草以外何もない。
赤い草を観察してみると背丈が低く枝も細い。
葉っぱは僕の手のひらに乗るくらいの小ささで、枝はしなやかに曲がり折れる事も無さそうだ。
そして何より特徴的なのは、枝の先から蔦が伸び少しずつ細くなっていき途中から赤い糸に変化している。
「こんな植物、初めて見た」
「オレもだ。この植物は一体なんなんだ?」
と、その時。
ガサガサザクザクと、地面と赤い草を踏み締めながら、口元に歪んだ笑みを浮かべた女性が僕たちの方へ向かってきた。
「……サリア!?」
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