第6話ー3
「では出発します」
御者にドアを開けてもらいリュカと共に乗り込むと、馬車はすぐに走り出した。天音は、初めての外の世界に、大喜びで馬車の中をソワソワ動いては、窓に張り付き流れる景色を楽しんだりしている。
「セランケーナ山脈には、魔族がいるって聞いたけど、魔物とどう違うの?」
「魔族は絶大な魔力と力を持っているが、殆ど人間と変わらない。種族が違うだけで話も通じる。魔物は厄介で、人間や動物を力任せに襲って食べる。知能は無い」
「じゃあ。あんまり危険は無い感じ?」
「あぁ。怒らせたりしない限りは大丈夫だ」
「良かった~!」
山登りは楽しみだけど、戦うのは苦手と言うか嫌だからさ。話が出来ると聞いて安心できた。
「リュカデリク様、到着しました」
城を出て2時間もしないくらいで、山の麓に来ることが出来るのだから馬車は早い。御者が馬車を止めて、ドアを開けてくれたので外にでる。
「ありがとう。ではタキ行こう」
「うん!」
歩き出してから数時間が経った。山登りは初めてじゃないし登山は好きなんだけど、日本の山と、こんなにも違うとは思わなかった。
「もしかして、上に行けば行くほど暑くなるの?」
「あぁ。今は多分、五合目辺りだから、これより上はもっと暑くなるだろう。頂上付近は砂漠だと聞いている」
「山に砂漠って意味分からない」
「ツラいなら、オレの背に乗るか?」
「ありがと。でも頑張るから大丈夫!」
「無理はするなよ」
「うん」
風もあるんだけど熱風だし、周りの景色は暑さで揺らいでる。僕もリュカも、半そで半ズボンなんだけど、絞れそうな程に汗だくだ。ちなみに、天音は平気そうというか楽しそうに、僕たちの周りを飛んでいる。
「リュカ休憩していい?」
「もちろんだ」
「やった!」
やっぱり、こんな暑いときにはアレが欲しい。周りに人がいないのを確認してから呼び出す事にした。
『氷』
リュカの身長と同じくらいの大きな氷が現れた。すぐに溶け始めた巨大氷に抱きついてスリスリ頬ずりまでしてしまう。冷たくてめちゃくちゃ気持ちいい。
「ふゎぁ~……生き返るぅ~……」
平気そうにしていたけど、やっぱりリュカも暑かったらしく、氷にもたれかかるようにして冷たさを楽しんでいる。天音は初めて見る氷に、最初は威嚇していたけど、今はガリガリ齧ったり爪でひっかいたりしてる。
「タキのおかげで快適な休憩だ。水飲むか?」
「えへへ! ありがと飲む」
水の入った木筒を渡され、コルクを抜いて水を一気に飲む。生ぬるいけど喉がカラカラだったから美味しく感じる。天音の前に木皿を置いて、水をそそぐと小さな赤い舌で器用にピチャピチャ音を立てて飲み始めた。
更に、『保冷剤』を呼び出しリュカにも渡す。
「溶けない氷か? いいな」
「これで少しは暑さが和らぐと思う」
もちろん天音にも、保冷剤を布で包んで首に巻いてやる。すると嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねる。
こんなにも過酷だと思ってなくて、冷たいものなら何でもいいから欲しかったんだよ。じゃないと干からびてしまいそうだ。
上に行けば行くほど、登れば登るほど、僕もリュカも無口になっていく。少し進んでは休んで、氷を呼び出し体を冷やして水を飲むを繰り返す。天音だけはめちゃくちゃ元気だ。
ついに頂上まで、あと少しという所で再び休憩をすることにした。
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