第6話ー2

 食事をすませると一旦リュカと別れ、待ち合わせに間に合うようカリンさんに旅支度を手伝ってもらう事にした。まずは、ミュルアークまでの旅の間ずっと着ていた冒険者風の地味なシャツとズボンに着替えて、髪の毛も変身術で短くして眼帯も着ける。


「やっぱりドレスより、シャツとズボンの方が楽だよ~!」

「ふふふ! アレティーシア様は、お転婆ですから動きやすいお洋服の方が良さそうですね。今度、こちらに来る時までに、ドレス以外のお洋服も仕立てておきますね」

「わぁ! 楽しみにしてるね!」

「必要なものを色々、鞄の中に入れておきますね。あとこれはオマケです」


 話をしながらも手際よく、次々と手拭き布や替えの洋服を鞄に詰め込んでいき、ウインクをしながら紙袋を渡された。


「中、見ていい?」

「はい」


 ガサガサ開けてみると、色とりどりのドライフルーツが入っている。


「干した果物だ」

「おやつに食べてくださいね」

「ありがと! 嬉しい」


 この世界では、甘味が貴重で少ないから贅沢な気分になってしまう。大切に少しずつ食べよう。でも甘味と言うと、やっぱりケーキが恋しいし食べたいと思ってしまう。無いと思うとよけい食べたくなるものだからさ。いつかカタカナでも、色々な事が出来るようになるといいなと切実に思ってしまった。


 旅支度が終わってもまだ少し時間があったから、裏庭の猫たちにも旅立ちの挨拶に立ち寄った。猫たちは、世界が違ってもやっぱり自由で可愛い。


「むーちゃん! みんな行ってきます!!」

「にゃ~ん」

「なぁ~!」

「みゃん!」


 はぁ~! めちゃくちゃ癒される。これで登山も頑張れそうだよ。擦り寄ってくる猫たちを撫でまわし、めいっぱいじゃれて満足してから、待ち合わせ場所に向かおうとした。んだけど、服の裾を引っ張られ振り返ると、深い青い目をした小さな黒猫しかも翼のある子猫がぶら下がっている。


「むーちゃん。どうしよう?」


 むーちゃんに答えを求めると、子猫の首を優しく咥え僕の胸に押し付けてきた。落ちたりしないように子猫をしっかり腕で抱える。


「連れてっても良いの?」

「にゃーん!」


 僕の頬を舐めて頭を擦り付けてくる。この黒猫は間違いなく、むーちゃんの子供だだろう。本当に良いのかな? と思っていると、子猫が僕にしがみついて「ミャー」と甘えた声で鳴いた。あまりの可愛さに、思わず抱きしめてしまう。


 そして……


「むーちゃん! ありがとう凄く心強いよ!」

『きっとお前の役に立つはずだ』

「え!?」


 頭の中に直接、響いた透き通るような声に驚き、むーちゃんの顔を見たら再び僕の頬を舐めてから去って行ってしまった。


 玄関先で待っていたリュカに、そのことを伝えると、僕の頭をくしゃりと撫でて微笑む。


「良かったな。あいつに認められたって事だ。むーちゃんなどと呼ばれているが、れっきとした城の番人だからな」

「そうなんだ」


 サリアたちからも守ってくれたし、番人だと言うのも頷ける。そして僕に大切な命を預けてくれた。


「そういえば、この子の名前を聞いてない」

「タキがつけてやればいい」

「良いの?」

「みやん!」


 腕の中から、返事をするように黒猫は鳴いた。


「う~ん……目の色が空みたいに綺麗だし声も可愛いから【天音】はどうかな?」

「うにゃ~ん!!」


 返事をするように鳴いて、尻尾を僕の腕に絡める。


「気に入ったみたい!」

「良かったな! オレも天音は良い名前だと思う」

「えへへ! よろしく天音!!」

「にゃん!」


 僕の言葉に反応して返事をする天音の、あまりの可愛さに思わずギュウギュウ抱きしめてしまう。天音も嫌がることなく喉をゴロゴロ鳴らす。


「そろそろ迎えが来てるはずだ」

「うん! 行こう!」



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