第4話ー3
街道を歩いていると、夕方から雨が降り出した。最初はポツポツだったから、近くの森の木の下に避難していたんだけど直ぐに大粒の雨に変わり始める。
雨だけでなく次第に風も出てきたので、森の茂みに入り込み、周囲に人がいないことを確認してから、いつものように『日本家屋』を呼びだし、ドアを開けて鞄から取り出した布で体を適当に拭いて風呂に直行する。
「うわぁ……酷い目にあった」
「久しぶりの嵐になりそうだな」
風呂から出て、水と乾パンと干し肉を食べながら思わず愚痴ってしまう。靴もドロドロになったし、髪の毛も変身術が解けてしまってグチャグチャになったから、またもやリュカに洗ってもらったのだった。
2階の自室へ行き、リュカと布団を整えて寝る準備をしていると、外は本格的な嵐になって来た。ガラスがガシャガシャ鳴り続け、雨も打ち付けられてるのでバチバチとかなり喧しい。
その時、玄関のドアが 「バタン」 と大きな音で開け閉めされる音が階下から響いた。
人が入ってくるなんて初めてで戸惑っていると、リュカが足音を立てないようにしながら、僕の部屋のドアを閉めて、更にドアが開かないように、かなり重さのあるソファーを重しにしてドアを塞ぎ、僕を抱えて座る。
実は、この家の弱点は鍵がかけられない事なんだ。前世での記憶のコピーでしかないから仕方ないと諦めてる。
入ってきた人の会話に耳を澄ますと、聞えてきたのは忘れようとしても忘れられない声が聞こえてくる。思わずリュカの腕を握り締める。僕の動揺が伝わったのか、リュカは強く抱きしめててくれる。察しのいいリュカは入ってきた2人が双子神子だと直ぐに分かったようだ。
「何これ! まじぃ? やっぱり見たことあるって思った! ここってシンの家じゃん!」
「シンって、この世界に来る切っ掛けになった奴だろ?」
「あはは! そうよ! あんたが殺したヤツ。あいつの母親、あたしの働いてる会社の上司だったのよ」
「もしかして前に言ってた夢見がち女?」
「ソレソレ! 私の旦那様は王子様なの~! とか何とか言ってさ。ウザかったんだけど、どんな男か気になるじゃん!」
「お前、男好きだからな」
「誰でもいい訳じゃないわよ! 経済力のあるイケメンに限る!! って、あたしの事はいいのよ。それでさ自慢の旦那さんに会わせてよ! って家までついて行った訳よ。そしたらイケオジ過ぎてビックリよ」
「へぇ……それで?」
「割と好みだったんだけどさ。お堅いヤツで今度2人で会わない? って誘っても無視すんの! ちょームカつく!」
「フラれたんかよ。そんで腹いせに殺したとか?」
「殺したことは否定しないけど、フラれたからじゃないわよ! こっち来て」
「やっぱりこの2人が事故に見せかけて両親も殺したんだ……」
悲しみよりも怒りが沸々湧き出してきて、どうにかなりそうで思わず呟いてしまった僕を、リュカが宥めるように背中を撫で続けてくれる。
階下では、何かを漁っているのかガタガタ音が響いている。
「これよ!」
「きったねー本! それが何?」
「双子神子の研究書。あの女の旦那は研究中の事故で地球に来たって話なんだけどさ。ここ見て!」
「研究? 違う世界から来たって普通信じねぇだろ。妄想だと思わなかったのかよ?」
「そりゃね! もちろん最初は頭がおかしんじゃ? って思ったわよ。でも満月の日だったかな? 月の光の加減で髪の毛とか目の色が金色に光って見えたの! 思わず綺麗って褒めたら『これは俺の誇りだ』とか『シンにも世界を見せてやるんだ』とか言って、その時にこの本を読んでくれたの」
「それで信じたのかよ! お前も単純過ぎじゃん!」
「だって面白そうでしょ。別世界に行くとか憧れちゃうし! 実際、召喚されて勇者様とか聖女様なんて言われて悪い気はしないしさ」
「確かに! お偉いさんに頭ペコペコされて、美人なメイドさんも俺の言いなりだし、毎日豪華な食事食えるのは良いな!」
「でしょ! それでね。重要なのは、この世界と地球を行き来出来るって書いてあるのよ!」
「じゃ! 俺ら帰れるんだな!」
「もちろんよ! 金目の物ゲットしたら日本に戻って豪遊よ~!」
「良いなソレ!」
「でしょ!」
知りたかった理由は私利私欲にまみれた本当にくだらないものだった。
怒りと悲しみで震えが治まらない体を、リュカが抱き上げベッドに寝かせて、僕が眠るまで撫で続けて離そうとはしなかった。荒れ狂うような気持ちが抑えられなくて、心の中で何かが爆発してしまいそうで、リュカの暖かさに無意識に、しがみつきながら眠ってしまっていた。
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