第4話ー2

 今まではティルティポー共和国のラウルたちに、こちらの動きを知られるのは不味いから獣道を進んできたけど、リュカが街道を選ぶという事は……


「もしかしてミュルアーク王国に入った?」

「あぁ。まだ端の方だが、もう追手とかの心配はないだろう」

「もうすぐ着く?」

「いや。まだ遠いから馬車に乗るんだ」

「まだなんだ……あ! でも馬車は楽しみ」


 歩かなくてもいいのも嬉しいけど、僕はガタゴト車輪を鳴らして走る馬車が気に入ってしまってのでワクワクしてしまう。馬が可愛いのもポイントが高い。


 リュカが、僕の歩く速度に合わせてくれるから1日で進める距離は短い。獣道を抜ける頃には、太陽が沈み薄暗くなっていた。街道沿いには、馬車が所々に止まって野営の準備をしているのが見える。


 その中で、焚火を囲んで賑やかに談笑している、1番人が多く集まっているグループの元へ向かう。


「こんばんは。お邪魔してもいいか?」

「おう! こんばんは! もちろんだ。その代わり夜の見張りは交代で頼みたい。魔物が出るからな」

「ありがたい。見張りも了解だ」

「兄ちゃんたち、一晩だけだがよろしくな!」

「あぁ。よろしく」

「よろしく」


 多分このグループのリーダーだろう、筋肉隆々のモヒカン男が、ニッと笑って手を差し出してきたので握手をした。


「俺たちは魔物討伐専門の傭兵みたいなもんなんだが職業柄、色々訳アリが集まってるから名前とかの詮索は一切無しで頼む。俺らもお前たちの事は何も聞かない」

「分かった。こちちらもその方が助かる」


「夜は冷えます。これをどうぞ」

 

 焚き火の傍に敷布を出して座ると、魔導士風のグラマラスなお姉さんが、僕たちにも暖かいスープを振舞ってくれた。小さな肉と野菜の入った塩味のシンプルなスープだけど、夜風で冷えた体には嬉しい。


「うま! 温まる! ありがとお姉さん」

「オレたちにまで貴重な食料をありがとう」

「どういたしまして」


 パチパチ炎の爆ぜる音と、火の粉が舞う賑やかで明るい雰囲気の中、毛布に包まって話し声に耳を傾ける。


「そういえば双子神子が魔族の討伐に出発したらしいぜ」

「どんな奴らなんだ?」

「俺は夜会に忍び込んでみてきたけど、女の方は中々美人だったぜ!」

「見た見た! オレは出発の儀式ん時だけどな。なんか細っこい男が剣を天に掲げて何か言ってたな。あんなんで大丈夫なのかよ?」

「本当よね! あんな2人に倒せるの? って感じたわ。というか魔族なんて放っておけばいいじゃない。別に害も無いんだし!」

「だよな! それより最近、妙に増え続ける魔物退治やってくれって話だよ」

「オラも見だが、あんまじ強ぞうに見えんだっだ」

「そこはほら! アレだよ! 力を見せつけるとか、そんな感じのパフォーマンスだろ!」

「ティルティポの奴らがやる事だから、どうせ碌なことじゃないと思うぜ」

「きな臭い奴らの巣窟だからな」


 双子神子……サリアたちは、僕たちがティルティポー共和国を出て直ぐに出発したようだ。でも聞いた感じ、魔族が侵略してくるような気配も無ければ、魔王が暴れだしたと言った話も全く出ない。ティルティポーが一方的に戦いを仕掛けているようだ。

 残念ながら、兄さんの情報は聞えてこなかった。



 歩き疲れていた僕は、話を聞いているうちに寝てしまっていたようで、翌朝、馬車の中でリュカの膝枕で目が覚めた。リュカは情報集めの為に同乗者たちと喋っているので、僕が目が覚めた事にも気がつかない。寝起きでボンヤリしてたのと、馬車の絶妙な揺れが心地よくて再び眠りに落ちた。


 一週間ほど乗り合い馬車に揺られ続け、ようやく遠くに薄っすらと山々が見えはじめた。


「よし。ここで馬車を降りる」

「もう着いた?」

「徒歩だと、あと3日くらいはかかるが双子神子と到着をずらす為に、ここからは歩いていこうと思う」

「分かった」


 ここまでの旅で、リュカが優しい人だと分かっている。だから僕を気遣って、街で2人に出くわさないように到着を遅らせるつもりなんだろう。




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