第4話、嵐は過去(前世)の真実を運んでくる。

 朝起きると、リュカに抱き枕にされていた。


「どうりで温かいはずだよ」


 昨日の夜、リュカは僕の部屋を興味深そうに見て回り、押入れまで覗いたりなんかしていた。僕が前世で生まれた時から使っていた、小物や家具とか細部に至るまで記憶に残る全てが再現されているから、初めて見るものばかりで面白かったみたいだ。懐かしいと思っても、僕には見慣れたものばかりで、すぐに飽きてしまったのだ。


「先に寝るからリュカは隣の部屋のベッド使ってよ」

「分かった」


 そう言って、布団に潜りこんで寝るときは確かに1人だった。でもってリュカには隣の部屋を勧めたはずなんだけど、なんで一緒に寝てんの?


「まぁ。いっか! とりあえずメシと風呂だ」


 リュカの腕から抜け出して、鞄からアイリが持たせてくれた風呂セットを取り出し手に持って、階段を一段ずつ慎重に降りて台所に行く。


 ……うん。なんとなく分かってたよ。


 ガスも電気も通ってないから、コンロに火は付かないし、冷蔵庫は空っぽの箱だし、これじゃただのオブジェだよな。建物と家具と家電化製品を全て再現できても、ここは地球じゃないんだから、当然の結果だけど残念過ぎる。仕方ないけど今日も干し肉と乾パンだ。


 けど凄い事を思いついてしまった。風呂はいけそうな気がする。

 風呂場に行って、湯船の上の辺りに『湯』と書いてみた。すると予想通り 「バシャ!」 っと大量の湯が現れたまった。手を入れてみると丁度いい温度だ。ついでに『柚子入浴剤』も呼び出して放り込む。

 早速、服を脱いで石鹸で体をしっかり洗ってから湯船につかる。アレティーシアの体は小さいので、良い感じに首辺りまで湯につかる事が出来るのが嬉しい。


「気持ちぃ~! やっぱ風呂は最高だよな」


 しかし湯を楽しんだ後に、問題が起きてしまった。夜会の前に風呂に入った時は、長すぎる髪の毛をアイリが洗ってくれたから気にしなかった事。それは、この湯船の中につかってしまった髪の毛だ。湯を吸って重さがあるし毛量も半端ない、とてもじゃないけど一人で洗えそうにもない。更に、洗面器で湯をすくって自分の頭にかける事が出来ないのだ。体にかけるぐらいは何とかいけるけど、頭の上となると重すぎて持ち上がらない。


「どうしよう。洗ってほしい……」


 髪の毛は、パサパサのゴワゴワに乾燥して絡まってるし、半分以上が湯船の中に入ってしまっている。だからどうしても洗いたい。普段は変身術で短く見せかけているけど、洗う時は隅々まで洗いたいから術をを解いて入りたい。とりあえず体は布で隠しとけば良いしダメ元で頼んでみることにした。


「リュカ! 頭洗って欲しいんだけど!!」


 風呂場の、ドアを少しだけ開けて大きな声で呼んだ。


「今、行く」


 階段をギシギシ軋ませ降りてくる音がする。


「入っていいか?」

「うん!」


 風呂場用の布を体に巻いて、リュカに背を向け椅子に座る。


「断るって言われると思った」

「どんな事でも頼ってくれ。その方がオレも嬉しい。痒いところがあれば言ってくれ」


 湯船から洗面器で湯をすくって優しくかけて濡らし、石鹸を泡立て丁寧に頭の地肌から長い髪の毛の先の方まで時間をかけて洗って、再び湯をかけ泡を洗い流して終了した。


「どうだ?」

「ありがと! 気持ち良かった」

「それは良かった」


 僕を洗い終えると、直ぐに出て行ってしまった。少し冷えた体を湯につかって温める。人に頭を洗ってもらうのって最高だよな。美容院に行った時なんかは、寝てしまうほど気持ちいいからさ。などと思いながら風呂場を出ると、台所で冷蔵庫もどきの扉を開け閉めしているリュカがいた。


「それは冷蔵庫ってモノなんだけど、本当は食べ物を保存できるんだ」

「なるほど。棚も沢山あるし扉側にも物が入れられるのは面白いな」

「あっ! そだ。冷める前に風呂入ってみてよ」


 湯船の中の湯を入れ替えて、柚子の入浴剤も入れておいたのだ。


「ありがとう。湯冷めするなよ。じゃ! 入ってくる」

「うん! ゆっくりしてきて」


 最初、僕は驚いたんだけど服を脱いだりとか着たりとかは、アイリがやってくれるんだよ。リュカも王族だから、メイドさんとか側仕えの目の前で着替えたりとか日常なんだろう。僕がいても恥ずかしがることなくテキパキと服を脱いで風呂に入っていく。そして振り返る。


「先程も思ったが湯の色も香りも素晴らしいな」

「前世で使ってたものなんだけど気に入って、いつも使ってたんだ」

「なるほど。オレも好きだな。では、ありがたく入ってくる」

「うん! 楽しんできて」


 髪の毛を乾いた布で拭いて乾かす。

 朝は少し冷えるから2階に行って、鞄から毛布を取り出し羽織る。再び台所に戻ってコップに水を注ぎ入れ椅子に座って飲む。


 暫くすると、リュカが布で髪の毛を拭いて乾かしながら出てきた。


「とてもいい湯だった」

「はい。水。今日はどこまで歩く?」

「ありがとう。情報を集める為に街道に出て馬車に乗る予定だ」

「分かった」


 国同士のゴタゴタもあるみたいだし、兄さんの行方も気になる。ずっと山にいるとは限らないから情報集めは重要だ。

 硬いパンを水を飲みながら齧り、干し肉をガムの様にモゴモゴさせながら食べてから出発した。



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