第3話ー4
雑談をしながら買い物を済ませ街から出ると、目の前には草原が広がっていた。そよそよ風に揺れる草花が緑の波のようで綺麗だし気持ちいい。
後ろを振り返ると、出てきた街の後ろが森なのか緑が広がっているのが見える。
「もしかして街の向こうにある森から僕たち来たの?」
「そうだ。アデルの森だ。そして森の向こう側がティルティポー共和国だ。今出てきた街はギィ婆さんが冒険者や商人のために作ったんだ。だからアデルギィの街と呼ばれ本当の中立を保ってる」
「だから街中が賑やかで子供の姿も多かったし活気があったんだなぁ」
「あぁ。ギィ婆さんが元気なうちはティルティポー共和国で暗躍してる奴らも手が出せない。安全も保障されてるから安心できる。少しずつ定住する人が増えて街になった感じだと聞いた」
「やっぱ凄い人なんだなぁ!」
再び草原に向き直り、長年人々が通り踏み固められて道になった地面を歩き出した。
アデルギィの街を出て、既に一週間が過ぎていた。最初は前世で見て知ってる動植物が少し姿が違ったりとかして面白くて、特に沢山見かけたのは角の生えた馬や、鋭い牙が生えた牛だったけど、群れを見ては大喜びしてしまうほどにはキャンプ気分で楽しかった。時々出る魔物は、リュカが倒してくれるので安心安全なのも良い。
でもさ。便利世界日本育ちには連日野宿は辛い。しかも今日は雨まで降りだしたし……。
「リュカ。今日は室内で眠りたいんだけど……」
「ミュルアークまで、あと1か月で着く。もう少し我慢してくれ」
「家は僕が出す!」
自分が前世で生まれ育った家を思い浮かべ、指先に蒼い光を灯すと『日本家屋』と書く。すると眩く輝き少しずつ光が収まると、大きさも形も記憶に残る住み慣れた実家が現れた。
「見たことが無い建物だな」
「前世で僕が30年間住んでた家を再現したんだ」
6年位前に、仕事場に近いマンションに引っ越したから、年に数度帰るくらいになっていたけど、玄関を開けると懐かしい匂いまで感じることが出来てしまった。
「入ってもいいか?」
「もちろん! あっ靴は脱いで」
玄関で、きちんと靴を揃えて入ってリビング、台所、客間のドアを次々に開け興味深そうに見ていく。
「タキの部屋は何処なんだ?」
「2階の一番奥」
古い家なので、階段はギシギシ音が鳴る。そんな所も懐かしい、と思いながら2階まで上がった。
「この部屋は?」
「死んだ両親の部屋」
ベッドサイドに、置かれた小さな棚の上には写真立てが飾ってあり、明るく微笑む2人が写っている。
「まだ若いようだが病気だったのか?」
「病気じゃないよ。3年前だったかな。事故だって聞いたんだけど……」
「何か不自然な事でもあったのか?」
「僕が里帰りする前日の夜に、車……ん~……馬車みたいな乗り物に、はねられて死んだんだ。普段は暗くなってから出かけるなんてこと一度も無かったから何か変なんだよ」
「確かに気になるな。更に言えばタキお前も殺されたのだからな」
そうなんだよ。一家全員死んだことになるんだ。何かあるって思わない方がおかしい。
そういえば彼女との出会いも、突然だったことを思い出した。37年間モテたことが無いのに通勤途中でいきなり 「毎日この電車に乗ってますよね! ずっと気になってたのよ。友達からでもいいから付き合ってくれないかな?」 なんて言って、告白されて嬉しくなった僕はすぐにOKした。だって茶色い髪の毛はウェーブしててフワフワで、服装とかは派手好きで赤系が多かったけど、凄く美人で優しかったからさ。
「彼女から告白してきたのは確か2年半くらい前だったような……? まさか僕に近づくためだったとか!?」
「あり得ないことではない。もしかしたら理由も両親が絡んでる可能性があるな」
「今度会ったら絶対聞き出す」
「それが良い。あの2人が何か仕掛けてくるようであればオレが守る」
「うん! ありがと!」
少し前までは 「殺された理由を知りたい」 と言うだけで、実際は再会して『俺』だと分かった時に、何かされそうで怖かったし逃げたい気持ちが大きかった。1人だったなら、動き出すことも出来なかったかもしれない。でも今はリュカがいる。
それに思い当たる節が無いと思っていた理由にも2人でなら近づけそうな気がする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます