第3話ー3
小さな体に慣れなくて再び階段でヨロヨロすると、リュカデリクに抱きかかえられた。リズミカルに2段飛ばしで降りていき、そのまま宿を出て足早に街中を迷いなく進み、細い横道に入り薄暗い裏通りの、突き当りまで来て足を止める。そこには大きいけど、かなりの年月が経っているとわかる古い洋館があった。木の扉をノックもせず入ると、室内は窓は少ないけど、グレーの床も板張りの壁も、掃除が行き届き思ったより綺麗で広く、沢山の人々が数人ずつのグループに固まって談笑している。
「これからはオレの事をリュカと呼んでくれ」
「分かった。じゃあ僕の事はタキって呼んでほしい」
「了解だ」
耳元でそれぞれの呼び名の確認をする。リュカデリクの名前と姿を知っている人が見れば王族だと直ぐに分かってしまうし、僕としてもリュカの方が呼びやすいから丁度いい。これから普段も自分の事は『僕』にしていかないとボロが出てしまいそうだと思った。
部屋の隅で、気怠そうに椅子に座りながら酒を飲んでいる、白髪混じりの眼光鋭いお婆さんの前まで行く。
「おや。リュカ久しいな。子連れで何用じゃ」
「ギィ婆さん久しぶり。彼にも冒険手形を頼みたくてね。あと人探しをしてる」
僕を片手に抱えたまま、器用にズボンのポケットから財布を出し、15枚の金貨をギィ婆さんに渡す。
「どいつの事が知りたいんじゃ?」
「フィラシャーリのヴァレリー」
「ヒッヒッヒッ。とんでもねぇ大物だのぉ」
「口止め料込みで、その値段だ。それで情報は入ってるか?」
「ギィに知らぬことは無い。耳は沢山あるからの。ミュルアーク王国の奥、セレンケーナ山脈で目撃されたと情報がある。今もそこにおるか分からんが手掛かりにはなるじゃろう。あと手形はこれだ持っていきな」
「ありがとな」
「行くならば気を付けな。あそこは魔の山じゃからな」
「あぁ。分かってる」
聞きたい情報と手形を手に入れると 「長居は無用だ」 と小さく呟いて建物から出る。
「今のギィって人は情報屋?」
「そうだな。冒険者を束ねるボスのようなもんだから、戦力も情報もあの場に全て集まるから困ったことがあれば、まずギィ婆さんの所に行くのが手っ取り早い」
多分ゲームとかで見たことがある、ギルドみたいなモノなんだろうけど、1人で束ねてるのは凄すぎると思う。
「人望があるんだ」
「それもあるが、あぁ見えて凄腕の魔導士なんだ」
「やっぱり凄い人なんだ」
「オレも敵わないくらいにはな」
「え! 戦ったのか?」
「まぁな。初めて会った時にババァ呼びしたらブチ切られて、ちょっとやりあった」
「そっそうなんだ」
夜会の時に少し見ただけだけど、リュカも相当な強さだと感じた。それ以上とか、なんか怖いし、僕もギィ婆さんって呼ぶことにしよう。
宿に着くと、リュカが肩掛け程の小さな鞄に、僕の荷物を含めた旅道具を次々と詰め込んでいく。かなりの量の衣類やら日常品があったのに、コンパクトに収まってしまった。手ぶらで動けるのは嬉しい。
「ヴァレリーはオレの国に居るようだ。少し遠いが今から旅に出る」
「セランケーナ山脈って所にいるって言ってたけど、どんな所なんだろ?」
「標高が高いから上に行けば行くほど暑くなるから水は必須だな。じゃないと干からびてしまう」
「え!? 山って登っていくと寒くなっていくんじゃなかったっけ?」
「太陽に向かっていくんだから暑くなるんだ。タキのいた世界では山頂は寒いのか?」
「へぇ! 面白いね! 僕のいた世界の山は山頂に近いほど寒くて雪まであったりするんだ」
「確かに面白いな。まだまだ他にも違いがありそうだ。お前の世界の事も聞かせてくれ」
「もちろん! その代わり僕はこの世界について色々知りたい」
「あぁ。旅は長いから色々話そう」
僕の生きてきた世界と、似てるところが多くて生活には困らないけど、山が全く違うように、他にも色々違う所がありそうで、旅に出るのが楽しみになって来た。
「よし! 準備は出来た。出発しよう。あと冒険手形を渡しておく。これがあれば海を越えた先でも身元が保証される。あの婆さんお手製なんだが水に濡れても火に炙っても大丈夫だ」
渡された薄茶色のプラスチックの様な手触りの硬いざらざらしたカードには、模様のような文字のような複雑な柄が彫り込まれている。朽ち果てない仕掛けがしてあるのかもしれない。なんか凄い、と思いながらズボンのポケットに入れておく。紐が付いているので、落とさないようにベルトに通しておく。
宿をチェックアウトして街へ繰り出す。多くの人々が行きかう活気のある商店が並ぶ通りに出て、まず水を買って、あの便利な鞄に瓶に入った水10本を入れる。更に、乾パンや干し肉といった食べ物も次々に買っては入れていく。
「その鞄。めちゃくちゃ沢山入るんだね」
「面白いだろ! 王家にある蔵を漁ったら見つけたんだ。こういうものは、しまい込むより使った方が良いからな」
「うん! 面白いし便利だから使わないと勿体ないかも! でもどんだけ入るんだろ?」
「よく分からないがドラゴン1体くらいなら余裕で入りそうだぞ」
「すご!!」
見た目は本が入る程度の大きさなのに、鞄を開けると入れるものの大きさに合わせて入り口の部分が広がるんだ。しかも持たせてもらったんだけど、軽くて気にならない。これって間違いなく、アイテムボックスってやつだ。
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