第3話、旅立ちは希望に満ちている? それとも……

 馬車に揺られているうちに、眠くなってカクンカクンと体が振り子のようになってしまう。ショボショボする目を擦りながら窓の外を見ると、暗闇のままだし夜はやっぱり肌寒い。鞄から毛皮を出そうと手で探る。


「もうすぐ目的地の宿に着く。それまでは寝てるといい」

「うん」

 

 リュカデリクが俺が落ちないように、頭を抱え込むようにして膝の上に乗せ、腕を伸ばすと鞄から毛皮を取り出してかけてくれた。筋肉が程よくついていて安定感があって、転げ落ちる心配はなさそうだ。疲れていたのもあって、すぐに睡魔はやってきた。





 目が覚めるとベッドの上だった。好奇心が沸いてベッドから降りて、室内を見て回ることにした。ベッドが2つ並んで、クローゼットや簡易の洗面所やトイレまである。この世界では水回りは、あまり発展してないはずだから、かなりの高級宿だと分かる。流石に風呂は無くて、少し残念だ。その代わり部屋は磨きまくっているのか、素足で歩いても足の裏が汚れることが無いほど綺麗だ。


 窓の扉を開けて、外を見ると太陽は真上から地上を照らしている。昨日まで沢山の出来事がありすぎて、身も心も疲れていたのかもしれないと分かっていても、ご馳走を期待していた晩飯も朝飯も食べずに、昼まで爆睡してしまったのは悲しい気分になる。まさかの出来事があったとはいえ、夜会でも何も食べられなかったからさ。

 食べ物の事を考えていたら途端に腹が減ってきた。リュカデリクは出かけてしまって、部屋にはいないけど食事には行きたい。面倒くさいけど、そのためには変装をしなくてはいけない。


 ベッドの傍に置いてあった鞄を、引き摺るようにして姿見の前まで持ってきて開ける。アイリが、下町から買ってきたのを母さんが手直しした、茶色のズボンと、薄い黄色のシャツを出して着る。サイズはピッタリで生地も柔らかくて着心地が良い。

 変身術も上手く出来た、ショートカットくらいの長さにしてみた。これなら男の子にも見えるだろう。

 でもやっぱり、目の色だけは変えることが出来ない。そのうち母さんみたいに、自在に姿が変えられるようになるといいなぁ。と思いながら、眼帯を取り出して着けようとした。けどこれが中々難しくて、紐が結べなくて頭から落ちてしまう。


「うーん。ゴムとかだったら良かったんだけどな」

「貸せ。オレがやる」


 いつの間にか、気配もなく部屋に戻ってきていたリュカデリクに、眼帯を奪われ手際よく紐を結んでくれる。


「ありがと。あとおかえり」

「ただいま。昼食を食べたら行くところがある。付き合ってくれ」

「分かった」


 昼食の為に靴を履いて部屋を出ると、城ほどではないけど緑色の絨毯が廊下と、更に階段にまで敷かれている。やっぱり間違いなく高級宿だと思う。リュカデリクは、かなり奮発したななどと思っていたら、階段が強敵だと分かってしまった。アレティーシアは5歳なので当然、体も小さい訳で、一段一段の段差が大きすぎて大変すぎるのだ。今いる所が3階なので、まるで険しい山を下山するような感覚だ。思わず、よろめいて転びそうになった所を、リュカデリクが受け止めるようにして抱っこしてくれた。


「階段は危ない」

「ありがと」

「気にするな」


 この世界にも、この体にも、まだまだ慣れないことだらけなので、これからも色々助けて貰う事になりそうだ。



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