第2話ー4

「アレティーシア。旅に出る前に王家に伝わる変身術を教えておきますね」


 なんでも女性は襲われやすく誘拐されやすい上に、俺は王家の長女で第二継承権もあり国内外に姿が知られてしまっている。捕まってしまえば利用価値はいくらでもある。そうならないように、なるべく別人に見せなければならない。


「人前に出るときだけでも男装をするというのはどうだ?」


 リュカデリクが俺を上から下までじっくり見て、俺にとっても良いかも! と思える提案をしてくれた。


「名案ですね。アレティーシアそれでは始めましょう」


 母さんが俺の手を取る。


「魔力を体に循環させて体の変えたいと思う所に力を集中させるのです。髪の毛をまず短くイメージしてみましょうか?」

「うん」


 慣れない作業だけど、母さんが繋いだ手から魔力を通して教えてくれる。


「初めてなのに上手くいきましたね」


 ニコリと微笑んで褒めてくれたので、自分の髪の毛を触って確かめる。丁度ショートカットくらいの軽い髪形になっていた。


「あまり力を使わなくても出来るんだな!」

「王家に生まれて直ぐ覚えなければならない魔法ですからね。コツさえつかめば身長や体格まで変えることが出来ます」


 面白そうなので色々試してみた。


 だがしかし、俺に出来たのは髪の毛の長さを変えることだけだった。


「う~ん……髪の毛は短く出来るんだけど、右目の色はどうしても変えられないっぽい」

「仕方ありませんね。この眼帯をつけなさい」


 黒い眼帯を取り出して、後ろで紐で結んでくれた。こんな時の為にと作っていたのだと、黒や茶色といった地味目のものを何個か渡してくれた。他にも旅で必要なものを、入れておいてくれたようで大きな革の鞄も渡された。


「あと、ご自分の事は『僕』と言いなさいね。くれぐれもアレティーシアだと分からないように振舞うのですよ」

「うん! 分かった」

「偽名もあった方が良いのだけど何かありますか?」

「前世の俺の倉田木シンの名前から一部をとって『タキ』とかどうかな?」

「それはとても良い名前ですね。あとは身分なのですが……」

「それについてはオレに考えがある。冒険者のまとめ役の婆さんに話をつける予定だ」

「分かりました。リュカデリクにお任せしますね」




「もう合流地点に到着します」


 御者が大きな声で知らせてくれたのと、同時に馬車が緩やかに止まる。


 そして母さんが立ち上がり、俺の頬に手で優しく触れる。


「私はこれからフィラシャーリ王国側から探りを入れて解決策を探します。少しの間、別れての行動になります。貴方はリュカデリクと共に頑張るのですよ」

「うん! 頑張るよ」

「体にも気を付けるのですよ」

「母さんも元気で!!」

「では私はもう行きますね」


 頬から手が離れていき寂しさを感じる。


「母さん! 少し待って!」


 あまり使わないように言われたけど、これくらいは許してほしい。指先に蒼い光を灯し『鴉』と空中に書く。すると夜の色をした一匹の鴉が現れる。


「何かあったら、いや無くてもいいけど、この鴉を飛ばして欲しい。どんなに遠く離れていても俺のところに戻ってくるし、母さんの所にも必ず戻るからさ」


 俺の言う事を理解している鴉は小さく 「カァ!」 と鳴くと母さんの腕にとまった。


「まぁ! ありがとう。これなら夜の闇に紛れて手紙も送ることが出来ますね」

「うん!」


 鴉と共に母さんは、馬車を下りて行ってしまった。そして、すれ違うような形で停車していたフィラシャーリ王国からの迎えの馬車に乗り込む。窓のカーテンが開き、母さんが手を振るのが見えて、俺がそれに答えると同時に馬車は走り始めた。再び窓は夜の闇に変わる。

 自分から言いだして旅に出ると決めたのに、少しの間だと分かっていても、やっぱり寂しくて無意識に頬に残る温もりを手で触れてしまう。

 

「今日は良い宿をとってある。美味しいものを食べて元気を出せ」


 頭をクシャリと撫でられ、窓から目を離し振り返るとリュカデリクは優しい笑顔で俺の事を見つめていた。寂しさを見抜かれてる気がして恥ずかしくなり思わず睨むと、再び頭をクシャリと撫でられてしまった。


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