第2話ー3
ティルティポー共和国で、一番の富豪だと言われているラウルの屋敷に到着して、招待状を入り口に立つ騎士団に渡すと 「どうぞ」 と、そっけない対応で通された。
夜会の開かれている大広間に入ると、思わず開いた口が塞がらなくなってしまった。
金がこれでもか! というほど使われている装飾品や美術品の数々。ギラギラと輝く大粒の宝石を、そのまま使ったと分かるシャンデリア。極めつけは絨毯にまで金やら宝石が縫い留められ、更にラメっぽい何かが使われているのか毛足までテカテカ光を放っている。
何というか、やりすぎ感があって居心地が悪くソワソワしてしまう。
客人はかなり多く大広間が人でごった返して、話し声でザワザワとかなり騒々しい。漏れ聞こえてくる話題は、やっぱり双子神子の事ばかりだ。
「本日は沢山の方々にお披露目に駆けつけて頂き大変嬉しく思ってます。最後まで夜会を楽しんでいってください」
大広間に大きな野太い声が響き、中央階段から、黒髪で恰幅のいい脂ぎった男性が金の手摺に片手を滑らせるようにしながらノシノシと降りてくる。そのすぐ後ろを、ドレスの胸元が大きく空き、腰まであるスリットも妖艶で艶めかしい色気を放つ茶髪の女性が、腰をくねらせながら歩いているんだけど、指輪もイヤリングもネックレスも大粒の宝石がユラユラと、可愛らしい感じではなく重そうにブラブラ揺れている。そこまでは百歩譲って良いとしよう。けれど真っ赤なドレスにまで、金や宝石がゴテゴテと縫い付けられているのはどうかと思う。もしかして、ここの絨毯を作った人と同じ人がデザインしたのか? と首を傾げてしまうほどだ。
「さて本日のメインイベント双子神子の登場です。皆様、あたたかい拍手でお迎えしてやってください」
パチパチパチ!!
派手な男女が階段を降り切ると、ついにお披露目が始まった。大広間からは盛大な拍手が響きわたり、期待と不安で騒めきがより一層広がっていく。
「神子様の降臨じゃ。めでたいのぉ」
「まさか本物か!?」
パチパチパチパチ!!!
「この国には荷が重いだろ!」
「この世の破滅だ!!」
「神の怒りが下るぞ!!!」
パチパチパチパチパチパチパチパチ…………
止まない拍手と騒めきの中、黒い仮面をつけた騎士風の鎧を身に着けた男性と、魔導士風の黒いローブを身に纏った女性が階段を下りてくる。その足取りは、自信に満ち溢れていて中々に様になっている。
そして大広間の中央に来ると仮面をとった。
その顔は見覚えがありすぎた。新しい世界に来たのだから全て忘れようと決めたのに……。
「なっ……んで……」
眩暈が襲って来て、呼吸まで出来なくなりそうだ。
足を、もつれさせるように思わず後ずさると、背後にいた母さんにぶつかってしまった。
「どうしたのですか?」
「……奴らが【俺】を殺したんだ」
目をギュッと瞑り、拳を震わせ吐き捨てるように呟くと、母さんは何も言わずに俺を抱き上げ大広間から出て、庭園を少し歩いたところにある噴水まで来ると、近くにあるベンチに座らせて背中を優しくなでてくれる。
「世界が違うから、もう会うことは無いって思ってたんだ」
深呼吸を繰り返しながら呟く。母さんは俺を守るかのように力強く抱きしめてくれる。
どのくらいの時間、座っていたのか分からないけど、大広間からは大音量のダンス音楽が響き始める。
母さんの温もりと涼しい夜風に、ようやく心が少しずつ落ち着いてきた。
「もう大丈夫です」
「無理しなくても良いのですよ。この後のご挨拶周りは私だけで行ってくるので、ここで休んでいなさい」
「すみません。母さん。ありがとうございます」
「謝らなくても良いのです。それでは行ってきますね」
母さんが立ち上がって、大広間へ向かうのを見送ると、思わず溜息が出てしまう。
夜会は始まったばかりだけど、もうこの国から逃げ出したくなっている。俺ってこんなにも弱かったか? とか、前世とは全く違う姿だから、奴らは俺に気が付かないはずだと言い聞かせてみたりとか、色々考えてしまうのだ。
ここでボンヤリしていても、悪い事ばかりを考えてしまうし、母さんが戻ってくるまで、時間もかかりそうだ。少し気晴らしに散歩をしよう、と立ち上がり歩き出す。
空を見ると地球にいた時とは、少し違う紫がかった大きな丸い月が雲の合間から見える。風は先ほどとは違い少し生暖かい。
なるべく人気のない方へ行きたくて、裏庭へ続く道を進んでいく。次第に大広間の音楽やざわめきが遠ざかり聞えなくなった。
裏庭に辿り着くと中央にある巨木に寄りかかるようにして座る。目を閉じると、サワサワと風が吹き抜け、フカフカな芝生の感触も柔らかく気持ちいい。
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