第2話ー2
昼食後、中庭に来るように、と父さんに言われていたのでアイリと共に向かう。歩きながら城内を見て歩くと、その素晴らしい装飾品と美術品の数々やインテリアにも驚いたけど、辿り着いた中庭は言葉では言い表せない規模で、野球やサッカーも同時に出来るくらい広々として、地面には青く瑞々しい芝生が敷き詰められている。更には中庭を囲むように、一定間隔に並ぶ樹木は美しさを考え見栄え良く手入れされている。
暫くすると、馬車が目の前に止まり、次々と荷物が入れられていくのを見つめていると、馬の手綱を馬車から外し馬だけ御者に連れられ帰って行ってしまった。馬無しの馬車でどうするんだ? と思っていたら、上空から大きなドラゴンが馬車の上に舞い降りてきた。そのドラゴンには手綱が付いていて、逞しい男性が乗っていたようでジャンプして下りてきて、馬車とドラゴンをベルトのようなもので固定する。
「支度を完了しました。気を付けてお乗りください」
ドラゴンに乗っていた男性が、お辞儀をしながら促す。
最初に母さんが乗り込み、俺に向かって手を差し伸べる。父さんは見送りの兵士たちと一緒にいて馬車には乗らないようだ。
「アレティーシア行きますよ」
「父さんは行かないのですか?」
「公務がありますし国王不在には出来ませんからね。今日は2人で行くのですよ」
「それはそうですね。分かりました」
差し伸べられた手を握ると、思ったより強い力で馬車の中に引き上げてくれた。俺たちの他には騎士団長と、母さんと俺の世話係が乗り込んできた。車内は広めに設計されているので、狭さを感じない。座椅子もシックな感じの茶色い革張りで、弾力性もあって座り心地もいい。
ドラゴンを操る男性が、馬車とドラゴンが、しっかり固定されているかを入念にチェックを始めた。最後に窓から僕たちが座っているのを確認する。
窓から見える父さんたちが手を振っているのが見えたから、手を振り返すとニカッと笑って答えてくれた。
そして次の瞬間、エレベーターに乗った時のような浮遊感とトンネルで耳がボワンとする感覚がして唾を飲み込む。窓から見える風景は緑と城から、青い空へと変わっていた。
「凄いな!」
「空を飛ぶのは初めてかしら?」
「初めてだ!!」
「では、ゆっくりと楽しみなさい」
「うん!」
前世では飛行機には縁が無かったから、空を飛ぶというだけでテンションは爆上がりだ。今日はお嬢様らしくするつもりだったのに早速、素の自分が出てしまい窓に張り付いて外を眺める。けどそんな俺を、母さんはニコニコ見ているだけで叱ったりはしなかった。優しい母さんに恥はかかせられないから、目的地に着いたら気をつけようと気合いを入れる。
真上にあった太陽が今は地平線の向こうへと消えかけて、下界を茜色に染め始めた。体感的には数分くらいに感じてしまうほど楽しんでしまっていた。
「そろそろ到着します。危ないからこちらへいらっしゃい」
「はい」
「空の旅は楽しめたかしら?」
「思ったよりも揺れたりしないし、何より景色が、とても綺麗で美しくて感動しました」
「ふふ! それは良かったわ」
エレベーターが下降するような感覚と共に、耳がボワンとなって唾を飲み込んだ。次にコトンと軽い音が響き、ドラゴンと馬車が地上へ到着した。
色々と問題がある、とはいっても初めての外国なので早速、馬車から降りようと立ち上がると母さんに呼び止められ腕を引かれる。そして、ピンク色の生地に花の刺繍が可愛い眼帯を右目に着けてくれた。
「金色の瞳は肉食獣王家の血を引く証なのです。私と同様に隠しておく方が良いでしょう」
「分かりました。ありがとうございます」
この国では肉食獣一族は、良く思われてはいないから身の安全を考えての事だろう。
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