第2話、ティルティポーの夜会は陰謀だらけ。

 朝食後、自室に戻りアイリの入れてくれた薫り高い紅茶を楽しんでいると、ノックの音の後に母さんが入ってきた。


「母さん、髪染めたのか? それと目も!」


 美しい金髪とキラキラ輝いていた金の瞳は、艶やかな黒髪と宝石のような紫の瞳に変わっていた。


「これから城の外に行くのですからね」

「オシャレしたんだ」

「ただのオシャレならば良いのですけど、これは違いますよ」

「事情があるんだ」

「えぇ。貴方も気が付いていると思うのだけれど、私はこの国の女王で、夫であるシルヴァンスは国王。それなりに他国ともお付き合いをしていかなくてはなりません」

 

 城に住んでるから、ただの金持ちとは思ってなかったし、それに国同士の付き合いがあるというのも理解できるから頷きで答える。


「この世界では、貴方の今いる草食獣一族を君主とするフィラシャーリ王国、私の故郷である肉食獣一族を君主とするミュルアーク王国、そして今から赴く人間たちが住まうティルティポー共和国の3つの国と、海へと出れば名もなき小さな群島諸国があります。けれど国同士は、あまり友好的とは言えないのです」


 なるほど。どの世界でも争いは絶えないってことらしい。再び頷く。


「ティルティポー共和国は、中立を唱えてはいるけれど人間至上主義の草食獣一族よりで、度々ミュルアーク王国に戦争を仕掛けているのです。そんな中ミュルアーク王国へ、極秘でフィラシャーリ王国から使者が訪れ和平の申し出が来て、私はミュルアーク王国からフィラシャーリ王国へ嫁いだのです。もちろんティルティポー共和国に、知られるわけにはいかないので身内のみの質素な結婚式ではありましたけどね。よくある政略結婚という事になるけれど、シルヴァンスを含め皆が良くしてくれているので今は幸せなのです。けれど国外ではそうはいかなくて姿を偽るしかないのです」

「そういう事だったんだ。でももしもの時は、父さんの代わりに俺が母さんを守るから安心してよ!」

「まぁ。頼もしいわね。けれど無理はしないでくださいね」

「うん! 無理はしない」


 フワリと微笑み、俺の頬を愛おしそうに撫でてくれる。


「話の続きをしますね。ティルティポー共和国は色々と黒い噂が絶えずある意味、夜会の為とはいえ敵陣に乗り込むようなものなのです」

「もしかして危険を冒してでも行かなきゃいけない理由があるとか?」

「えぇ。普段であれば何か適当な理由をつけて行かないようにしていたのだけど、双子神子の召喚に成功したというのです」

「双子神子?」

「異世界から召喚される者たちで必ず男女2人で現れるので、そう呼ばれているようです。重要なのは正しい国が召喚したなら繁栄をもたらすと言われているのですが、ティルティポー共和国が召喚に成功したならば世界の破滅を招くと噂されているのです」


 もしかして双子神子って勇者みたいなものなのか? で問題のあるヤバい国が召喚すると魔王になる的な感じなのか? 情報が噂レベルなせいで、いまいちよく分からないな。

 

「真意と事実を確かめる為に行くんだな」

「そういう事になりますね。危険もあると思います。いま一度聞きます。それでも一緒に来てくれますか?」


 普通に旅に出たとしても、この世界はまだまだ分からない事だらけで危険なら、いくらでも潜んでいるし、様々なことを知るいい機会だ。答えは揺らぐはずない。


「行くに決まってんじゃん! それに母さんも見てたんだろ? さっきの魔法があれば母さんの事だって守れる!」

「では行くための準備をしましょう。アイリを手伝いによこします。それと先ほどの魔法は、いざという時まで人々に見られないようにした方がいいでしょう」

「分かった。アイリに荷造り手伝ってもらう。魔法は見られたらダメな感じなのか?」

「実は、アレティーシアには魔法の才が無く周囲の者たちにも知れわたってしまっているのです。しかも貴方の使う魔法は私も初めて見る類のものだったので驚いたのですよ」

「それは確かに色々な意味で隠した方が良さそうだな」

「そうなさい。それと今日はお嬢様を演じてもらえるかしら?」

「あはは! 確かに俺は無いよな。了解。今日はお嬢様頑張ってみるよ」

「期待してますよ。それでは私も支度があるので戻ります」


 お淑やかとまではいかないかもだけど、口調くらいは出来る限り気をつけておこう。


 母さんと入れ替わるようにアイリが 「失礼致します」 とお辞儀をして入ってきた。そして台車に乗せた、可愛い動物が彫り込まれた大きな木箱に、服やら靴やら小物類を手際よく入れていく。女の子のファッションは、分からないのでアイリがいて本当に助かった。


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