第4話 薬草採取

屋敷の使用人たちには何も言わずに出てきたから、きっと探されている。

でも、後悔はしていない。


一週間分の携帯食料を持って、薬草を探しに来た。

本当は一人で来るつもりだったけれど、それはギルバードに止められた。

自分とカミルを連れて行かなければ薬草が生えている場所を教えないと。


ギルバードの剣とカミルの風属性、そして私の火属性の魔術。

魔獣を討伐しながら少しずつ先へと進む。

薬草は山の中腹にある谷の近くに生えているらしい。

その近くにまで行けば、白い花が見えるからわかるだろうと。


谷の奥には強い魔獣が住んでいる。だから冒険者たちは近寄らない。

だけど、薬草が生えているのは谷ではなくその近くだから、

谷から見えない位置で採取すれば大丈夫なはず。


山をのぼっていくと、現れる魔獣が少しずつ大きくなっていく。

それを討伐しながら進んでいく。


剣が強くなれば魔術なんていらないと言うだけあって、

ギルバードは強かった。

目の前で真っ二つになって倒される魔獣を見ながら、

お荷物は私だなと気がつく。

ギルバードとカミルに守られなかったら、すぐにあきらめていたに違いない。


「いいんだよ、マリエルがいなかったら焚火ができないだろう。

 こうやって、寝る場所も安全にできないし」


夜になれば魔獣から身をまもるためにカミルと力を合わせて四方に土の壁を作る。

その中で焚火をして、携帯食料をあぶって食べる。

カミルは火属性が無いので、私が火を起こしている。

たしかに生活するという意味では役にたっているのかもしれないが、

冒険者になって自立するというのは無理だと思った。



「ためいき?どうかしたのか?」


「大きくなったら、私はどこに行けばいいのかなって」


「は?どういうことだ?」


「ギルバードは辺境伯を継ぐでしょう?

 カミルはその側近として働くんだろうし……。

 でも、私はどうすればいいのかわからない。

 連れ子だし、何か取り柄があるわけじゃない。

 女の子らしくもないから嫁ぎ先があるとは思えない」


「……そんなこと思ってたのか」


初めて気がついたような顔をするけれど、私とギルバードは立場が違う。

辺境伯の実子のギルバードと、再婚相手の連れ子の私ではまるで違う。

もうすでに働いているカミルとも違う。

ここは居心地は悪くないけれど、私がいるべき場所じゃない、そう思っていた。


「だって、もう十三歳よ?

 あと二年すれば学園に入る。

 学園を卒業する頃には行き先を決めなくちゃいけないもの」


「馬鹿だな……ずっといればいいだろう。

 お前だってラフォレの一員なんだ。

 俺が辺境伯になるんだとしてもマリエルは家族なんだから」


そういう問題じゃないと言いたいけれど、きっと言ってもわからないと思う。

私がいたら、ギルバードが結婚した時に邪魔にしかならない。

ギルバードは気にしないかもしれないけれど、居場所がない私はつらいだけ。


いつか、ちゃんと決めなきゃいけないなぁ。


「明日は薬草が生えている場所に着くと思う。

 早く持って帰らなきゃな。そろそろ寝ようか」


「そうだね」


マントをひいただけの地面に寝ころんで眠る。

眠れなかったのは初日だけ。身体は痛いけれど、なんとか眠れる。

朝になったら、悩みも少しだけ減るような気がする。

並んで眠るギルバードを憎らしいと思いながらも、

家族として受け入れてくれていることに感謝もする。

わかってる。ギルバードは何も悪くない。私がいじけているだけなんだと思う。



「あった!あったよ!」


「こっちにもありました!」


「よし!根っこから抜くように採取するんだ!」


辺境伯家にあった時間停止付きの収納袋に丁寧にしまう。

できるだけ多く、短時間に採取する。

この辺は本当に危険だと言われていた。すぐに離れなければいけない。


「よし、もうやめて戻ろう。これだけあれば大丈夫なはずだ」


「ええ、急ぎましょう。マリエル様、行けますか?」


「うん、大丈夫。行きましょう」


急ぎ足で山を下りる。これを持って帰ったらお母様は助かる。

お母様だけじゃなく、産まれてくる弟も助かってほしい。


あともう少しでふもとに着くところで、後ろから唸り声が聞こえた。


「しまった。見つかった」

「え?うそ!?」



いつの間にか魔狼に囲まれてしまった。

ひときわ大きな魔狼が群れを引き連れている。あれが谷に住む強い魔獣?



「俺がひきつけるから、後ろから攻撃して。

 仕留めるのは無理かもしれない。できるだけ追い払うんだ」


「わかった」


ギルバードが前に出て飛び掛かってくる魔狼に剣で切り付ける。

何匹も倒すうちに、ギルバードに焦りが見えてくる。


「うわっ」


脇から近づいてくる魔狼に炎をぶつけて、何とか遠ざけていたら、

ギルバードの悲鳴が聞こえた。

手のあたりを噛まれたのか、剣を手放してしまっている。

しまった。ギルバードは剣しか持っていない。剣がなくなったら何も抵抗できない。

カミルが助けに入るが、カミルの風魔術でも追い払えずに襲い掛かってくる。


「土壁!!」


とっさにギルバードとカミルを小さな土壁で囲った。

四方を高い土壁で囲われ、二人の姿が見えなくなる。


「おい!マリエル!何をするんだ!」


「マリエル様!?」


これでとりあえず大丈夫。

ほっとしたのもつかの間、すべての魔狼がこちらを向く。

もう土壁を作るだけの魔力は残っていない。

少しでも二人から魔狼を遠ざけよう。


ここに来たのは私のせい。

お母様が男の子を産まなきゃいけないって思うのも私のせい。

全部、全部、私がいなかったらこうならなかった。


だから、ギルバードとカミルは助けなきゃ。


手あたり次第、炎をぶつけていく。

何匹かはキャウンと声をあげて逃げていく。

ひときわ大きな魔狼がすぐ近くに来たことに気がつかず、

異様な魔力に気がついて振り返った時には遅かった。


首に噛みつかれた……とっさに魔狼の腹に向かって炎をぶつける。

この距離だと自分にもぶつかるかもしれないけれど、もうかまわない。

残っているすべての魔力を使って、炎をぶつける。


キャィィィという鳴き声が聞こえたと思ったら、魔狼が離れていく。

ドバっと首から血が流れるのを感じて、目を閉じた。


どうか、二人は無事に助かりますように。

神様、このくらいの願いは叶えてくれるよね?私の命をあげるから。


「マリエル!どういうことだ!マリエル!おい!」


遠くからギルバードの焦った声が聞こえる。

良かった。ギルバードは無事だ。

………これで、いいんだよね?





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