第3話 新しい命と不安

そんな風にギルバードと私は姉弟として、ケンカをしながらも仲良くしていた。

年の近いカミルと三人、勉強するにも訓練するにも一緒だった。

勉強は私が、魔術の腕はカミルが、剣の腕はギルバードが一番だった。


このまま三人で辺境伯領地を守っていくのも悪くない。

そう思うほどに平和な日々を送っていた。



私とギルバードが十三歳になったある日、お母様が倒れた。

ふらりと気を失い崩れるように倒れた。

すぐ近くにいたのに、お母様を支えることなく見ていただけだった。

あまりにも突然すぎて、その場にいた誰も動くことができなかった。


呆然としていたら、お義父様がお母様を抱きかかえ自室に連れて行く。

すぐに医術師が呼ばれ、お母様の診察をする。


しばらくして、そそくさと医術師は帰っていった。

何か良くないことが起きている?


「お義父様……お母様は大丈夫なのですか?」


「マリエル……大丈夫だ。マチルドは身ごもっているんだ」


「え?」


「あと半年もしたら、お前たちの弟か妹が産まれる。

 だから、そんなに心配しなくていい」


「……あぁ、良かった」


お母様は何か深刻な病気なのかと思ってしまった。

だって、医術師もお義父様も暗い顔していたから。

ほっとしたのもつかの間、ギルバードに手をつながれて外へと引っ張って行かれる。

慌ててカミルも後からついてくる。


「どこにいくの?」


「……いいから、ちょっとこい」


連れて行かれた先はいつも訓練している裏庭だった。

そこには休憩用のテーブルとイスが置かれている。


裏庭にいる間は使用人たちは近づかない。

私とカミル以外は、呼ばない限り来ることはない。

ギルバードが魔力暴走するのを恐れているからだ。

魔術の訓練なんて、一度もしていないというのに。


「どうしてここに来たの?」


「……ここなら、誰にも聞かれない」


「何があったの?」


「……義母上、死ぬかもしれない」


「え?」


馬鹿なこと言わないでと怒ろうとしたけれど、

ギルバードの顔が真剣で、その言葉を飲み込んだ。


「俺の母上のことは知っているか?」


「ギルバードのお母様……」


そこまで言われてからやっと気がついた。

ギルバードのお母様は魔力に耐えられなくて出産で亡くなっている。

まさか、お母様も同じことになると言いたいの?


「俺の母上がどうして亡くなったのか、使用人たちが話していたのを聞いた。

 身ごもったと思ったら倒れて、産むまで寝たきりだったと。

 魔力を吸われているんだ……お腹の子に」


「私が聞いているのも同じです……。

 夫人は魔力欠乏症で身体が弱り、出産に耐えきれなくて亡くなったと」


ギルバードだけでなく、カミルまで同じように不安そうな顔をしている。


「そんな……どうすれば助かるの?」


「俺も調べた……けど、手に入らないんだ。

 ジギタスという薬草を煎じて飲ませたら魔力を補うことができるって。

 だけど、薬草は高価で、それ以上に希少すぎて手に入らない」


「どこに行けばその薬草はあるの?」


「薬草が生えているのはどこも強い魔獣が住むような場所だ。

 だから、冒険者もほとんど採取してくれない。

 危険な場所まで行って薬草を採ってくるよりも、

 手前で弱い魔獣を討伐したほうが安全に儲かるから」


「そんな……」



助かる手はあるのに、どうにもできないなんて。

今まで病気になったことのないお母様が青白い顔していた。

魔力を吸われ続けているのなら、ずっと身体はつらいまま。


「辺境伯様が依頼したら、もしかしたら採取してくれるかもしれません」


「依頼か……一応は、父上に話してみる。

 だけど、期待しないほうがいい」


「……うん」


期待しないほうがいいと言われても、心のどこかで望んでしまう。

たまたま冒険者が採取してきてくれないだろうか。

気まぐれに採取依頼を受けてくれる者が出てこないだろうか。


お父様が冒険者ギルドに依頼を出してから四か月が過ぎた。

期待は裏切られ、お母様は食事もできないほど弱って、

もうこれ以上は危険だと判断された。

お腹の子を殺し、死産させなければお母様の命はないと。


でも、お母様は頑なに子を産むと言い張った。

お腹の中の子は男の子だと診断されてわかっていた。

ギルバードと同じで、魔力が多くおそらく全属性持ちだということも。


お母様はきっと、今度こそ男の子を産みたいんだろうと思った。

ここで死んだとしても、どうしても男の子を産みたいんだって。


「ギルバード。薬草が生えているのはどこ?」


「は?」


「……マリエル様、いったい何を考えているんですか?」


もう待つことなんてできなかった。




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