第2話 不満だらけの出会い

「妹ができると思ってたのに、なんで俺よりデカいんだよ……」


どうやらギルバードは再婚したら妹ができると思っていたようだ。

だが、残念ながら私とギルバードは同じ歳。

しかも、私のほうが二週間だけ早かった。


「そうよね、私だって優しいお兄様が欲しかったわ。

 でも、いいの。私は姉だから我慢してあげる。

 お姉様って呼んでもいいのよ?」


「誰が呼ぶか!」


正直に不満を口にしたギルバードをからかってみたら、

すぐに言い返されたけれど、その後でぽつりとごめんと言った。


「悪かったよ……ギルバードだ」


「マリエルよ。よろしくね」


しっかりと握手したら、もう不貞腐れた顔では無かった。

笑ったら意外と綺麗な顔立ちで、少しだけ悔しくなる。


私は女性らしくない背の高さ、しっかりした身体つきだった。

お父様の願い通り、男性に産まれたのならどれだけ良かったことか。

私よりも小さくて綺麗な義弟に嫉妬しそうになったけれど、

それは言っても仕方がないこと。気持ちを切り替えて無かったことにした。


ギルバードだって、好きでそんな風に産まれたわけじゃない。

辺境伯の元奥様、ギルバードの母親は亡くなっている。

隣国の侯爵家から嫁いできてすぐに身ごもったが、

魔力が多く全属性持ちのギルバードを産むのに身体が耐えきれなかったのだ。

そのせいで早くに産まれてしまったギルバードの身体は小さめで、

今でも体調を崩すこともあると聞いた。


貴族は誰でも魔力を持っている。

平民が魔力無しか一属性なのに対して、貴族は二属性か三属性あるのが普通だ。

まれに全属性、火・水・土・風の四つを持って生まれることがある。

そして、それに加えて光・闇・聖属性を持つ特別なものがいる。


ギルバードは、全属性に加えて闇属性を持つ特別なものだった。


だが、それは苦難を意味している。

魔力の多さだけでも制御が大変なのに、

属性が増えれば増えるほど習得するのは難しくなる。

水量が多いのに、出口が多方向にあるようなものだ。

使いたいだけの魔力を使いたい属性で出すというのは、困難を極める。


全属性だけでも使いこなすまで厳しい訓練が必要だと言われているのに、

闇属性まであるギルバードは最初からあきらめているようだった。



「ねぇ、少しは訓練しようよ」


「いいんだよ!俺は剣があればいい」


「でも、学園に入ったら、魔術の授業あるよ?」


「その時はその時で頑張るからいいよ」


「その時って、そんなすぐにできるわけじゃないのに……」


「大丈夫だって!」


毎日毎日、剣の訓練だけするギルバードに声をかける。

だけど、返事はいつも同じ。

剣の訓練は進んでやるのに、魔術の訓練は逃げられてしまう。


ギルバードはいつもそんな感じで、私が何を言っても聞き流される。

真面目に話そうと思っても、笑って誤魔化して剣の訓練を始めてしまう。

結果として、ギルバードは一度も魔術の訓練をしていない。


「ギルバード様、少しはマリエル様の言うことを聞いたほうがいいですよ?」


「なんだよ、カミルまで。いいじゃん。俺は剣士になるんだし!」


「もう。後で苦労するのはギルバードなのに」


「いいからいいから!さぁ、カミル。もう一回試合しようぜ!」


「はいはい。わかりましたよ」


残念ながら側仕えのカミルの言うことも聞いてくれないようだ。

一つ上のカミルは子爵家の二男だが、訳があって辺境伯家に預けられていた。

金髪紫目のカミルは三属性持ちで、それなりに制御に苦労しているようだった。


私とカミルが魔術の訓練をしている間、ギルバードはどこかに行ってしまう。

あとで聞いたら辺境騎士団に混ざって剣の訓練をしていたらしい。


剣さえあればいいと思いたい気持ちもわからなくはない。

お義父様はこの国一番の剣士だから。

剣の腕前があがれば魔術なんていらないと思いたいんだろう。



だけど、この国の貴族令息令嬢は、

十五歳になったら王都にある学園に通うことが決められている。

ある程度魔術が使えるようになっておかないと苦労するのはギルバードだ。

魔術の訓練から逃げたい気持ちはわかるけど、放っておくわけにもいかない。



ため息をつきながら、目の前に炎を出してくるくると回す。

それほど大きい炎じゃないから威力はない。

私には火と土しか属性がないし、魔力も多くはない。

だから制御するのは簡単だったし、すぐに発動できた。

だけど、それだけだ。このくらいの魔術では何の役にもたたない。


魔力が多すぎて使えないギルバードと、魔力が少なくて使い物にならない私。

足して割ることができたら、どれだけいいか。

神様は意地悪だと思ってしまうのも仕方がないと思った。



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