第76話 会議
ダレンは会議室に向かわざるを得なかったが、思いを断ち切るようにレイクルとの別れを済ませる。
その心には名残惜しい気持ちが渦巻いていた。
レイクルは彼の腕を掴んで懇願するような目で見つめて何か言いたげだったが、言葉に出来なかった。
ダレンは彼女の額にそっとキスをした。
「全て分かっているから。心配しなくても良いんだ」
優しく告げると微笑んだ。
彼女はダレンの胸に抱きついて、涙を流した。
既に知られていたのだと、その上で優しく接してくれたし、今もそっと髪を撫でて、安心させようとした。
張り詰めた緊張が解けたのだ。
ダレンもまた彼女に対して部下以上の感情を抱いていた。
彼女にとってダレンは夢の一部だったが、今はその夢を追う時間はなかった。彼は責任ある立場としての自制を保ちつつレイクルの手を離し、部屋を出て会議室へ向かった。
会議室にはすでにノリコ、ミカ、そしてマクスロイ艦長達の姿があった。
彼らの表情は何か重要な議題を控えていることを告げていた。
ダレンは彼らに挨拶をして自分の席に着いた。
ダレンはレイクルのことを忘れようとしたが、なかなかできなく彼女のことを心配していた。
彼女は恐らく自分が原因で俺を苦しめる結果になったと自責をしている。
己に対してどう思っているかカノジョのコンピューターの解析結果から知っているがおくびにも出さなかった。
彼女は自分の才能を正しく使っているのだろうか?
自分の存在意義を見出せているのだろうか?
そんな思いもありダレンはレイクルに自己認識と成長の機会を与えたいと感じていた。
そして、彼は彼女に惹かれて行った。
会議が始まるとすぐにダレンは衝撃的な事実を突きつけられた。
ねつ造動画の製作に使われたアプリの開発者がレイクルだというのだ。
しかし、既にダレンはこの事実を知っていた。
だが、敢えてそれを周囲には伏せていた。
彼はレイクルの才能と本質を信じていた。何か大きな運命のために動いていると思っていた。
彼女の行動や嗜好に理解を示そうとしたが、他の人たちはそうではなかった。
彼らはレイクルを危険な存在とみなし、一部ではアプリの開発者たるレイクルを処罰しようとしていた。
この動画騒動は艦隊にとって大きな問題だった。
動画は艦隊の信用を失墜させるに十分だった。
動画の内容はレイクルが独自に作り上げたものったが、それが本当のことだと信じる人も多かった。
ジルテッドが盗撮した自らの不適切動画が出回っており、それをコラージュした画像だったが、あっさり拡散してさらに再加工されていた。
既に暫定隊先をしているが、個人の趣味のファイルが簡単にその端末から抜き出せるセキュリティの重大な不具合が発覚していた。
レイクルもジルテッドもきちんとセキュリティを掛け、作成した者以外アクセスできなくしていたはずだった。
動画は艦隊ネットワーク上で拡散され、ねつ造と分かるまでダレンに対する批判や抗議が高まった。
ダレンの指示のもと動画の真偽を調査し、動画の製作者を特定したり、関係者を特定していった。
動画による影響を最小限に抑えるために奔走した。
その結果、元々の動画の製作者とアプリ開発者がレイクルであることが判明したのだった。
会議の中で彼女のこれまでの履歴や精力的な行動が話題に上がり、その独特の能力、そして得体の知れない魅力が議論された。
彼女はある意味少々病んではいるが、それを逆手に取れば大きな力に変わること、そして彼女の中二病的な振舞いや、そこを出発点とした格闘技の技術があることも共有された。
ダレンは彼女のことを擁護しようとしたが、なかなか聞き入れられなかった。彼らは彼女を単なるトラブルメーカーとみなし、艦隊から追放しようとしていた(ゴールドスリーブで眠らせる)
ダレンの心の中ではレイクルには愛情以上のものを抱いていた。
彼女はダレンの認識の中で、ただの恋愛対象ではなく、艦隊の未来を築く重要な鍵だった。
彼女の持つ独特の能力と、特殊な趣味を除けば親しみやすい個性は、彼が真に価値を置くものだった。
その深い理解に基づいて、彼はレイクルを恋人にし、自分のため、そして艦隊のためにさらに力を発揮させたいと願っていた。
この会議が彼女を取り巻く複雑な問題に対処するために呼び出されたものであることが明かされた。ダレンは議論を制して、レイクルを軍曹に昇進させること、そして彼女のプロジェクトを最優先事項の開発事案とすることを提案した。
これにより彼女には艦隊最高のリソースが与えられることになる。
それは艦長室のコンピューターの使用許可も得られ、レイクルの持つ全能力を存分に活用するためのコンピュータのアクセス権が拡張された。
ダレンはこれが彼女のためになると信じていた。
何より艦隊のためになると信じていたが、反対意見もあり、これには一つの条件が伴うことになった。
それは、彼女の行動を常に監視することだった。
ダレンはこれに同意したが、あくまで彼女の安全を守るために必要なことだとし、監視と称して守りたかった。
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